第十四章

 夏樹の部屋でセックスをした。

 あの後駅でキスしてから「ヒバリ、セックスしても良いか?」と聞かれた。正直、僕はセックスが好きではない。やった事ないからだけど単純に怖かった。だから、セックスしたいって言われた時、すぐには応えられなかった。でも、強く優しく抱きしめて、その表情がすごく切なそうな夏樹の顔を見て、僕は彼を愛してしまった。

 僕は夏樹にたくさんキスをされた。

 そのまま僕をベッドに倒して服を脱がせる。

 夏樹の身体は綺麗だ。



 「イタッ!!」



 思わず夏樹を蹴りそうになったけどギリギリで堪えた。

 「ごめん」

 「……大丈夫」

 「やめるか?」

 「いい、続けて」



 そのあとの事はよく覚えていない。

 何故だか泣いていたようで頬に涙の跡が付いている。隣で寝て居る夏樹は額に手を当てて言う。悲しいの? そう聞くと夏樹は「幸せ過ぎてつらい」と言う。何だよそれって僕は笑うと夏樹は僕の鼻をつまんだ。痛かった。

 「お前本当に女になったんだな」

 「夏樹は本当に男になったんだね。見た時怖かった」

 あんなに大きくなるなんて思わなかった。

 「俺、アレが最初付いたときめっちゃ怖かった。何だコレって」

 「そりゃそうだよ。何もないのに急に出来たんだから」

 「お前は良いよな、胸が出来るだけだから。それと……」


 夏樹は僕の股間を見る。「それも……」と続けた。

 「うん……でも、まだ触れていないんだ。なんか怖くって」

 「そりゃあ、そうだ。俺だって触るのに一週間もかかった。親にはトイレは立ってしなさいって怒られけど、そもそも立ってやる事なかったからめっちゃ泣いたわ」

 「出来る時ってどんな感じ? 痛い?」

 「なんか股間から出て来る感じ。スゴイ異物感」

 「うわぁ、良かった僕女になって」

 「俺もそう思う。お前アレが生えて来たら泣きそうだもんな」

 「泣かないよーだ!」




 夕方の住宅街を少し恥ずかしそうに僕らは歩いた。

 車道を歩く夏樹は僕の手を優しく掴む。手を繋いでいると幸せが満たされている気になる。何気なく生活している街の風景も、空の紅さも、風の匂いも、すべてが僕らを祝福しているような気分になる。でも、やっぱりセックスは少し恥ずかしくって夏樹の顔見られない位に恥ずかしくって、顔から火が噴くっていうのはこう言う事なのかなって思った。

 だからあの後、僕は毛布で身体を隠した。

 恥ずかしくって、俯いて居たら夏樹は僕の頭を撫でてくれた。

 笑顔で「やっぱお前可愛いわ」って頭を撫でられた。それがもっと恥ずかしくって、僕は毛布にもっと顔を埋めたら、もう一回戦やろうとしたから「もう、ヤダ!! 夏樹嫌い!!」って殴ってしまった。

 夏樹の左頬を見るとまだ赤くなっている。

 僕は申し訳なく想い「大丈夫?」と聞くと夏樹は頬を押えて「あー、めっちゃ痛い。俺、悲しいわ。好きな人に殴られて」と言うので僕はあわあわしてしまった。

 (どうしよう、夏樹痛そう……僕のせいだ)

 少し涙目になり混乱していると夏樹が急に後ろから抱き着いて来た。

 思わずバランスを崩しそうになったけど、夏樹がしっかりと抑えてくれた。

 「あっぶな! お前大丈夫か!?」

 「急に抱き着かないでよ! 危ないなー」

 「わりぃ、わりぃ」

 そう言って夏樹は笑う。そして、優しい声。その声に仕草に僕は本当に夏樹が好きになったんだと自覚した。とことん惚れてしまったし、愛してしまった。僕は夏樹が大大大好きだ。でも、それを口に出すのはやっぱり恥ずかしくって、僕は何も言えずに俯いてしまった



 (コイツ本当に可愛いな)

 俺の腕の中でヒバリは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いている。

 漫画だったらコイツの頭に湯気でも出ていそうなくらいに赤くなって、てかマジで腕の中に居るヒバリが少し熱かった。

 「……夏樹ごめん」

 ヒバリが弱々しそうに俺に言う。

 「ん? どうした?」

 「僕、もうダメだ……」

 そう言って俺の顔を見るヒバリの顔は熱にうなされトロンとしているようだった。

 涙目で頬を赤くさせながら、ヒバリは俺の顔を見上げる。

 (やべぇ、くそ可愛い、抱きたい)

 そんな衝動がまた襲って来た。

 ドキドキする心臓が少しうるさい。

 「夏樹……」

 そう言ってヒバリは俺の服を掴む。そして、そのまま倒れてしまった。

 「おい! ヒバリ!!」


 △


 ヒバリの家でヒバリの様子を見る。

 ヒバリはどうやらただの貧血で倒れたらしい。それにどうやら初潮が始まり、それが重なって体調を崩したらしい。

 「夏樹君、久しぶりね。中学以来かしら」

 「おばさん、お久しぶりです。すいません、俺が連れ回したから」

 「良いのよ、この子女の子になってから最近明るくなったから、今朝だって夏樹君に可愛い服見せるんだってはしゃいでいたし、やっぱり、この子は女の子になって正解だったわね」

 「そうですね、俺もヒバリは女の子の方が似合っていると思います」

 「そうよね。はい、コーヒーで大丈夫よね?」

 「はい、ありがとうございます」

 ヒバリのお母さんは俺にコーヒーを出してくれた。

 少し飲んだ後、ヒバリのお母さんは少し小声で俺に聞いて来た。

 「それで、ドコまでいったの?」



 「んっ!?」



 思わず吹き出しそうになった。

 「な、何の事すか?」

 「だって、なにも無い訳ないじゃない。ね」

 「普通にデートだけですよ?」

 「ふーん、普通に、ねぇ」

 すっげー自分の娘なのに近所の人たちみたいな会話してんなこの人と思った。

 「エッチはしたの?」



 「お母さん、うるさい!」



 そう言ったのはヒバリだった。

 いつの間にか起きていたヒバリは額に乗せられたタオルを取った。もう熱は冷めているようで顔はいつものように白くなっていた。

 「起きたの?」

 「起きた」

 「おはよう」

 「うん、早く部屋から出て行って」

 「はいはい、じゃあね、夏樹君」

 「はい、ありがとうございます」

 俺は軽く会釈した。

 ヒバリはジトーとした目で俺を見ている。

 「なに、うちのお母さん相手に他人行儀みたいにしてんの?」

 「いや、俺一応高校生だし今までみたいにガキみたいな対応できないだろ?」

 「ふーん、つまんない奴」

 そう言ってヒバリは不貞腐れたように毛布を被って寝た。でも、すぐに気になったのかこちらを見て「ドコまで話したの?」と聞いた。俺はデートしたところまでと言った。

 「てことはあの人、僕がやったのは見抜いている訳か」

 「え」

 「無駄に勘が鋭いからね、あの人」

 「マジかよ!」

 「えへへ、でも、僕を女にした責任はとるんだよね夏樹」

 「おう、男に二言はねぇ」

 「ふるーい」

 「古くても何でも良いだろ!」

 「えへへ、あ、そうだ夏樹」

 「ん? 何だ」



 俺はヒバリにキスされた。

 そのまま、ヒバリは布団をかぶって「おやすみー!」と言った。もう、何なんだよヒバリは!!

 今度は俺が赤面する番だった。

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