第十章

 俺は子供の頃から男になるつもりだった。

 父親はヒーローものを俺に良く見せたし野球をテレビで見せてくれたし、サッカーも好きだったから小学校の頃はよく試合にも連れて行ってくれた。母親は俺を女の子にしたかったらしい。男の子って勝手に育つからつまらないとの事だ。ひどい話しである。

 俺は中学に上がる頃には完全に男になっていた。ユキはこの当時まだ性別が決まって居なかったが充分女子だった。仕草が雰囲気が女子のようで、性別無くとも俺はユキが好きだった。

 「あー、サイテー夏樹!!」

 家に来たユキはベッドの下にあったエロ本を見付けてしまった。探すなよって俺は少し思ったが言わなかった。

 「おい、見るな!!」

 「うわ!! 巨乳が好きなの!? 何コレ、えっろ!!」

 「見るなって!!」

 俺はユキからエロ本をひったくり身体の後ろに隠した。もう意味はないけど、何となくそうした。コレでユキが男子になったりしたらどうしようかと思ったが、そんな事は無く、ユキはそのまま中二の頃には女子になっていた。しかも結構可愛い。



 ▽


 中学の放課後。 

 「夏樹はさぁ、私の事好き……?」

 急な質問に俺は足を止めた。河川敷で野球をしている小学生の声が響く。

 「私の事好き?」

 再度、雪穂が同じ質問をする。俺は応えをどうしようかと思った。正直、付き合っているようなそうでないような期間を一年以上続けて来て、急にこんな応えを求めるような質問は正直ずるいと思った。

 「……好きだって言ったら、俺と付き合ってくれるのか?」

 「いいよ」

 雪穂は頷く。

 俺は中学生の分際でロマンチックさを演出したかったけど、その時したキスはひどく下手くそで、今でも上手かは分からないけど精一杯のキスをした。


 ひゅーと野球をしていた小学生たちが茶化す。うるせーと怒鳴ったら逃げて行った。代わりに雪穂が泣いていた。何で泣くんだ。そう聞くと嬉しいから泣いているんだよ、バーカと言われた。

 女って分かんね。

 よく父親が言うセリフだが、その日初めて実感した。

 「女って分かんね……」

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