第九章

 「クシュン!!」 

 浴槽で天井からしたたる滴でヒバリはくしゃみをした。

 まさか雪穂が自分の事を考えているなんて夢にも思って居なく、ただ少し湯冷めしたかなって思う程度だった。ヒバリはお風呂が好きだ。性別無い頃もヒバリはよく長風呂をしていた。お風呂に入っている間は余計な事を考えずに済むし、気持ち良いお湯の波に揺られながら居ると、色々と疲弊した心が回復していくような気分になる。

 それは気のせいじゃ無ないと思う。

 本当に回復して言っているんだと思う。皆が性別を持つ事に焦り、もがきながら、それでも性別を決められなかったあの頃はずっと何かに追われているようで、それは決してヒバリに追い付いて来ないけど、追いつかれてしまうかのような怖さにヒバリはずっと追われていた。

 でも、今は違う。

 性別を持った。あまり意識せずに女性になったけど、少し戸惑ったけど、ようやく手にした性別は、まるで初めてここに居て良いと言われたように居心地が良かった。

 ヒバリは浴槽から出た。

 鏡には胸のあるヒバリが居た。思ったより細くならなかった腕を見て少しがっかりした。ヒバリは痩せている。それ以上痩せる必要を感じないほどに。それでも、ヒバリは自分がもう少し太った方が良いかなと思って居た。

 ほんの少しだけでも脂肪が付いたら、それを憎むように燃やす。以前ならそう考えていたヒバリだが……。

 「まぁ、いっかぁ」

 女の子になったヒバリは意外と気にしなかった。

 今までのはストレスだったのかもしれない。意図せずにヒバリの痩せる事への執着を和らげた夏樹はヒバリにとって恩人になった。

 ヒバリは気付いていないけど……。

 「本当に女の子になったんだなぁ……」

 ヒバリは自分の身体を見てそう実感した。

 大きくなって少し邪魔なおっぱいをヒバリは触れる。柔らかいのに張りがある。ウエストを触る。お尻を触る。……アソコは少し抵抗が合ってまだ触れていない。トイレの時は別だが、それもトイレットペーパー越しで、まだ直には振れていない。

 「……ここはまだ勇気が要るな」

 ヒバリはそう思った。

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