11.嵐の前の静けさ
500人の天使の内、450人ほどの天使がさよならの渓谷への避難を完了させていた。そして、約30名ほどの天使が泥帝により食い殺されていた。モロトモ、虚帝は重症のランチュリーを安全な場所まで運び込み、大量の上級悪魔と言語を操れる20人の悪魔のうち、数名を残し、泥帝捜索もとい天使との戦闘の援護に向けて動き出していた。
これより世界を揺るがす大革命を始めんとす。
ここからは副隊長のモロトモ、大隊長の我、クザロの命に従い、泥帝様を援護する。
赤い肌に邪悪な角。いかにも悪魔という見た目のクザロが軍の統一を図った。
所でチャルはどこだ。
モロトモが尋ねる。
あいつテンションマックスで聖臓食べるぞーって言いながら出て行きましたよ。
ある悪魔が言う。
ならばついでにチャルの探索も追加だ。勝手に天使を食べたならば後できついお仕置きをしなければな。
クザロが怖い口調で言う。
同刻、ラクーがさよならの渓谷に到着した。これはジャルンピークがチャルを倒してから数時間後の出来事であった。
ラクー!無事か!!!
ジャルンピークはラクーにすぐさま駆け寄った。しかし、ラクーのテンションはとてつもなく低かった。
…メルが。……メルがあああ!!!!!
ラクーは自分より相当背の高いジャルンピークの胸ぐらを掴みながら叫んだ。
メルがどうしたの?
ジャルンピークが声の先を見ると正体はイマリだった。ラクーが来る少し前にエートス村の村民を連れてさよならの渓谷に到着していた。
ラクーはイマリとメルの仲の良さをもちろん知っていた。そんな彼女にメルの死を伝えるのは気が引ける。しかし、この気持ちを伝えるしかなかった。1人で抱え込むなんてラクーには出来なかった。限界だった。ラクーがはっきりとした声で答える。
死んだ
全員が時が止まった気がした。そもそもこのウエクウカンでは寿命以外でのお別れはなかったのだ。争いなんて今まで一度もなかったのだ。
なので天使たちにはこの事実は重すぎた。
嘘だ…死ぬはずない。メルが… うう。
イマリが腰から泣き崩れる。
2人とも落ち着いてくれ。まずは渓谷の中へ。
ジャルンピークが言う。しかし、ジャルンピークも困惑していた。強がっていただけなのだ。だが、2人を落ち着かせれるのは自分しかいない。そう強く思っていたのだ。
3人とも悪魔と戦えるメンタルではなかった。
ここから10日の時が経った。
泥帝は10日間寝続けていた。30個もの聖臓を食べたのでエネルギー過多で動けなかったが、その分強くもなった。もう誰も手に負えない強さになっていた。
クザロ、モロトモ率いる軍は着々と間抜けの殻になった村などを自分たちの領地にしながら進軍して行った。
マルコ、ディアトロはエートスの村でじっと身を潜めていた。
そして、さよならの渓谷では信じられない作戦が決行されていた。
たとえピリオド様の意見だとしてもできません!
ラクーは叫ぶ。
その作戦とはシタクウカンに国民を移すことであった。たくさんの悪魔がいて、危険なのは十分承知であったが、これ以上の作戦は見つからなかったのだ。
ラクーや。我らでは今の悪魔に太刀打ちできない。これは朕が自信を持って言えることだ。
ビート、メルが死んでしまうレベル。国民全員が生き残るなんてことは無謀だ。悪魔は聖臓を食べることにより、エネルギー保持できる量が増えて強くなっていく。もし30日後に空から赤子が降ってくることがばれたらどうする?
その時こそ天使の滅亡だ。
ラクーはピリオド様が言うことは十分理解できていた。
このさよならの穴が悪魔が住み着くシタクウカンに通じているのは知っています。しかし、下には滅間と言う広大な面積を誇る場所があることは王もご存知でしょう。シタクウカンに着く前に全国民死んでしまいますよ!!
ラクーが声を張って言う。それをオルタナは複雑な顔で見守る。
その通りだ。そもそも国民全員を乗せれる、とてつもなく大きい空飛ぶ船を君が作るのは不可能。もし君がとてつもなく大きい空飛ぶ船を作り、シタクウカン目指して船を出航させても着く確率は1%もないであろう。だからこそ、朕の能力を使うしかないのだよ。
ラクーはピリオド様の発言に驚いた。
王の能力。実はそれは誰も知らなかった。と言うか誰も気にしたことがなかった。代々王の家系、0度から降ってくる伝説の家系ホープはどんな時もただ1人であった。なので家族もいないため誰も能力を知りようがなかった。
ピリオド・ホープ、彼が能力について口を開く。ラクーは息を呑んだ。
朕の能力は半径50mの天使の能力を5倍まで跳ね上げる能力だ。これはみんなには内緒だぞ?ラクーよ。この能力を使えば本気の5倍でかい船が作れるし、滅間を超えてシタクウカンに到着する可能性も格段と上がる。
ラクーは驚いた。王がチート能力を持っていることは容易に想像できたが、補助系だとは思わなかった。それと同時にピリオド様以外、王と呼べる存在はいないと言うことを悟った。
ここから10日間で船をやっとの思いで完成させた。ラクーはヘトヘトであった。
ラクーはシタクウカンに確実につけるために、ピリオド様に船の名前をつけてもらった。
"Noah"と。
あとは残りの国民とビートやメルたちの生まれ変わりの赤子を船に乗せ、脱出するだけだ。
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