12.孤高の天使
Noahが出来上がった頃に、泥帝は動き出していた。それにマルコは気づいていた。
とても禍々しいものがずっと徘徊しているぞ。まだ転生者が降ってくるまで20日ほどある。
ここに来るのも時間の問題だ。
マルコがディアトロに言う。
ああそうだな。だけど冷静に考えてみろ。隠れていたら見つからないだろう?
ディアトロが得意げにいう。
バカ言うな。そうしたら更に徘徊してさよならの渓谷に向かってしまう可能性だってあるだろう。ここに来たら確実にやつを葬り去る以外の選択はない。
マルコは不安であった。戦うことが不安なのではない。みんなの安否が不安であった。悪魔はたくさん門から出てきた。自分たちがたまたま悪魔に遭遇していないだけであって、もうさよならの渓谷に来ていて、ピリオド様含め全滅している可能性だって0とは言えない。
不安そうな顔をするマルコをディアトロは心配そうな顔で見ていた。
マルコ。大丈夫だ。みんなを守るためならお前とここで化け物倒して死んでやるよ。悪魔は生き返らないが、俺らは転生する。
マルコはディアトロが眩しかった。きっと絶望を見ていないからこそここまで明るく接してくれているとは分かっているが、それでもディアトロの優しさが自分を落ち着かせてくれることに間違いはなかった。
ミツケタ。テンシサン。
2人の背筋が凍る。さっきまでとてもゆっくり進んでいた悪魔の声がしたためだ。
(いくらなんでも早すぎる。ありえない)
ディアトロは想像を絶する恐怖で少しも動けなくなった。
しかし、マルコは違った。
俺と戦う相手だ。こちらの想像を軽く超える行動をしてもらわないとこっちも期待外れだ。
マルコはニタッと笑う。
泥帝は少し、息苦しそうにする。マルコが周りのエネルギーを吸収したためだ。
泥帝は理不尽な倦怠感に苛まれ、怒った顔をみせ、マルコに飛びかかる。
ここからは説明不要の異次元と異次元の殴り合いであった。ディアトロは全くついていけなかった。爆発を起こしても泥帝に対してのダメージは皆無に等しいことを本能で理解した。
優勢だったのはマルコであった。一瞬泥帝がふらつき後ろに下がると、雄叫びを上げる。泥帝は完全に怒っていた。少し手を加えれば、相手は食料になっていた今までとは違い、初めて痛みを感じた。自分の思い通りにならないこの結果に膨大な怒りが込み上げていた。
どうした?そんなものだったのか?
マルコは煽り、手を前に出し、泥帝からエネルギーを吸収する。泥帝は体から力が抜ける感覚を鮮明に感じる。マルコはエネルギーを吸う限界まで吸ってしまい、その場に吐く。
(悪魔はエネルギーが少ないものだ。なぜこんなにエネルギーを持っている?)
マルコは不思議に思ったが、それは天使を食べたことによるエネルギーに違いがないという結論を頭の中で出し、怒りが込み上げる。
何があってもこいつをここで仕留めなければ。その思いがマルコを強くする。
しかし泥帝がある行動をとることにより、マルコの怒りは困惑へと変わる。
な、泣いている?
ディアトロは異変に気づいた。なんとその場で泥帝が泣き出したのだ。
タベタイ!タベタイ!タベタイ!
ウアアアアアアアアア!!!!
途端とてつもない威力の爆発をする。
マルコは自分を襲う爆風のエネルギーを吸い、ダメージを逃れ、ディアトロは自分も爆発を起こすことで相殺し、2人にダメージはなかった。
なんなんだ!こいつ!
ディアトロが困惑した顔で言う。襲ってきたり、泣いたり、爆発したり。ここまでの間泥帝が現れてから約5分。困惑するのも無理はない。
ここで2人はまさかのことに気づく。爆発する前よりも泥帝は明らかに小さくなっていた。
泥帝が激しくマルコを睨む。
化け物め。
そういうとマルコは泥帝に近づき、また殴り合いが始まる。
しかし、さっきとは違い、泥帝がマルコを押しており、優勢であった。
マルコが少し下がる。しかし、すぐさま泥帝は近づきマルコをボコボコに殴る。マルコは少しずつ下がりながら、さっき吐いたエネルギーを食し、エネルギー補給をし泥帝を凄まじい威力で殴る。泥帝は後退りをしてまたマルコを睨む。
マルコは息が切れていたが、泥帝は口から多少の血を流しているものの無傷にさえ見えた。
ディアトロは絶望していた。八人の色の最強のマルコが押されている。こんなことがあってはならないのだ。マルコが倒せない相手を誰が倒せる?
しかし、マルコは少し笑っていた。まるで追い詰められているようには見えなかった。
マルコは全ての天使は家族だと思っていた。心の底から。しかしそれと同時に孤独であった。1人だけ色の中でも強さがずば抜けており、どこかみんなを下に見てた節があった。
そんな孤高な自分に嫌気がずっとさしていた。みんなからの尊敬など全くいらない。そのせいで自分だけ仲間はずれに思えていた。
しかし自分にダメージを与える存在が現れた。ここでは敵、味方など全く関係なく存在しているという事実がマルコを幸せな気持ちにさせた。
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