ノーリアクション
藤泉都理
ノーリアクション
「ノーリアクション」
「何だえ?のおりあくしょん?能に関係する事かえ?」
「違う。無反応。何の反応もない事」
巫女は胡乱な瞳でこの土地を護ってくれる神様を見た。
秋祭り。
稲刈りが終わると、その年の収穫を鎮守に感謝する秋祭りが行われる。
鎮守はその地の守護神であり、住民の五穀豊穣、家内安全などの願い事を聞いてくれるという。
祭りの時は、神と共に人々も飲んだり食べたりし、神に捧げる為に歌や踊りを披露した。
「十年前はあんなにも初々しくって、何でもかんでもびっくり仰天驚いてくれていたのに」
「ほほ。十年前は鎮守の任に初めて就いたばかりか地上に初めて下りたゆえ、何もかもが新鮮であったえ。けれど、十年も経てば、まあ、慣れもするえ。のおりあくしょんになるというものよ」
「あ~あ。舞い甲斐がないわね~。十年前はもうすんっごく可愛い反応をしてくれたのに~。ぴょんぴょん跳ねてさあ。いっぱい拍手してくれてさあ。全身爛々に輝かせて眩しくってさあ。今じゃあ、千年も生きています何事にも動じませんって不動の神様になっちゃってさあ。よきよきってひそやかに言ってさあ、ゆっったり微笑んでさあ。みんなは、威厳が出てきたんだって喜んでるけどさあ」
「ほほ。十年も経てば成長するというものえ。そなたは身長こそたこうなったが、初々しいまま、瑞々しいままえ。どうかそのままで生き抜いてほしいものよ」
「お褒め頂き光栄でございます。では、舞に戻りまする」
「ほほ。行ってまいれ」
「はい」
神様はおとしやかに渡り廊下を歩き舞台へと向かう巫女を見つめながら、のおりあくしょんかえと呟いた。
「十年前の方が実はのおりあくしょんだと言うたら、そなたは私に絶望するかえ?」
昔は心が無反応で、けれど神としてみなを褒め称えるべく、とびきり喜ぶ様を見せていた。
と言ったら。
「ほほ。一人の巫女の反応が気になるなど。まだまだ修行が足りぬえ」
(2024.9.7)
ノーリアクション 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます