第13話 修行開始

<天汰とゴクは、女将さんの宿へ帰ってきた>

 

 宿に入ってすぐ女将さんが二人に声をかけた。

「あら、お帰りなさい!二人とも!」


「ただいま!女将さん!」ゴクは笑って返事をした。

「ただいま帰りました!」

 

「ご飯できてるわよ!天汰くんも食べるでしょ?」


「はい、頂きます!」

「お!丁度腹減ってたんだよな〜」

 天汰とゴクは嬉しそうに席についた。


 女将さんはテーブルに大きなチキンを置いた。

 

「頂きます!」

「いただきまーす」

 天汰とゴクは手を合わせて食べる。


 女将さんは微笑ましい顔で二人が食べているところを見ている。


「うめぇ!」

「うまいです!」

 

 ゴクは食べながら女将さんに言う。


「そういえば、女将さん!俺、こいつの師匠になった!」


「あら、そう、なんかそうなる気がしてたわ、ゴクちゃんいつも天汰くんのこと気にかけてたでしょ」

 女将さんは微笑んだ。

 

「ちげぇよ、こいつが弱いから心配なんだよ!」ゴクは誤魔化した。


「弱くてすみません……」

 

「そこで女将さんに頼みがあるんだけど……」


「ええ、何かしら?」


「こいつ、住むとこ無くなっちまって、俺たちが旅立つまで俺が使ってる部屋に泊めても良いか?」


 <数時間前、大広間でのこと>


 『すまない、勇者天汰よソナタが使っていた部屋を兵士たちに譲ってくれんかの?これから兵士強化訓練を開始する故、兵士の泊まる部屋が足りんのじゃ、宿代はこちらから出す故申し訳ないが……出て行ってくれ』


(王様、急に辛辣!)


「てことがあってよ、泊まってる間はちゃんと働くからさ頼む!」


 ゴクは手を合わせ、眉をひそめて女将を見た。


「ええ、良いわよ、こっちも人手が増えるなら嬉しいわ!」

「本当か!ありがとう!良かったな天汰!」

「女将さん、本当に何から何までありがとうございます!お世話になります!」


 天汰は深く頭を下げた。


「賑やかになるわね!この宿も!」

 

 そして、ついに天汰の修行の日々が始まった……


 <一日目>

 窓から入ってきた光が顔を撫でた時、天汰は目を覚ました。


 隣のベッドではゴクが寝ている。


「起きてください、ゴク師匠」


 天汰はゴクの体を揺らす。

 しかし、一向に起きない。


「起きてください、朝の走りに行くんでしょー」

「もう少し寝かせろよ〜」

「ダメです」


 二人は女将さんが作ってくれた朝食を食べて、外に行く。

 1時間くらい走った後、宿に戻り、宿の手伝いをする。

 風呂掃除やベッドメイキング、廊下の掃除に部屋の掃除これら全ての仕事が終わった後、修行開始だ。

 

 二人は宿の庭に出た。

 

「いいか、天汰まずは構えから教える!」

 

「はい!」


「俺の棒術には色々な型があってなだな、まずはお前に2つの型を教える!」


 ゴクは長い棒を天汰に渡した。

 

「俺の真似をしろ、こうだ!」

 

 天汰はゴクの真似をした。

 

「違う!もっとこう足を開いてだな、体の軸は股から頭にかけて一直線にブレないように……」


 <二日目>

 昨日と同じような時間を過ごした後。


「よし!今日も昨日と同じ構えだ、その構えを徹底的に体に叩き込め!」

 

 <三日目>


 修行は今日も構えだ。


 そして、今日から天汰は空いた時間に借りたまま読むことが出来なかった、本を少しずつ読むことにした。


 <四日目>

 構え。


 <五日目>

 構え。

 ・

 ・

 ・

 <十日目>

「よし!もう十分構えは覚えただろう!今日から打ち方を教えてやる!」

 

「やっとか〜」

 

 ゴクはデカい大木も持ってきて地面に突き刺した。


 周りに大きな音が響く。

 

「よし、じゃあ俺が今からこの木に向かって打ってみるからよく見とけ」

 

 ゴクは棒を構え大木に向かって棒を振る。

 

「こうだ、やってみろ」

 

 天汰は構え、ゴクと同じように振ってみる。

 

「こうですか?」


「違う!もっとこう腕をだな……」

 ・

 ・

 ・

 ・

 <三十日目>


「今日は魔物退治に行く!実践を積まなければ強くはなれん!」 

「魔物ですか……でもどうやって」

「心配するな!俺の相棒を貸してやる!」


 天汰とゴクは街を出て街から少し離れた場所にたくさんの魔物がいると言う森、通称:イノセントの森へ向かう。


 <森へ行く途中>

 

 天汰はある疑問をゴクに投げかけた。

「そういえば、ゴク師匠のこの棒って人器なんですか?人器だったら僕が触れる事自体、不思議な事なんですけど」


「そうなのか?俺、人器ってのよくわかんねぇんだよな」


「他の人の人器には通常触れられないんですよ、僕が触れられるってことはもしかしてこれって人器とは別の……」


「おい!天汰、着いたぞ!ここがたくさんの魔物がいるって言われている森だ」


 「早速、魔物探すぞ!」

 ゴクは子供のようにはしゃいでいる。

 

「ゴク師匠!離れないでくださいよ!」

 

 探すこと数十分


「止まれ」

 ゴクは天汰の進行を手で止めた。


「見ろ、魔物だ」


 天汰はゴクの視線の先に目をやると


「あれは!……」


 すると スキル:鑑定 が発動する。

(鑑定は自動で発動するのか……)

 

 [  スライム(無) :・丸いゲル状の魔物 色によって属性があり透明なものは無属性 ・食べる物によって属性が変化する・基本群れで生活している ・稀に酸をまとった個体も存在する為、注意が必要。 ・無属性のスライムから取れるスライム液は飲むことで少しだが魔力を回復できる。 ]

 

 天汰は小声で言う。


「ゴク師匠、スライムは基本、群れでいるそうです」

 

 ゴクは小声で言う。

「でもあいつは一匹だ。よし、あいつをやるぞ……」

 

 ゴクはジェスチャーで『行け』と天汰に合図した。


 天汰は少し戸惑ったがスライムの前に姿を現した。


 「こんなやつゴブリンに比べれば!」

 

 天汰はスライムに攻撃を仕掛けた。

 

 しかし、スライムは攻撃を受けるがダメージは受けてないようだ。


(何?!攻撃が効いてない?)


 スライムは天汰に反撃の体当たりをした。

 

 天汰は攻撃を避けた。


 天汰はもう一度、攻撃を仕掛ける。


 しかし、ダメージは入ってない。

(なんでなんだ?)


「おい!天汰!」


 天汰は後ろから聞こえるゴクの声に耳を貸す。


「ビビって体の軸がブレてるぞ!体の軸は一直線にドンと構えろ!」

(そうだ、体の軸は一直線だ、もう一度!)


 天汰はゴクに習ったことを思い出しながらスライムに向かって棒を素早く振った。


 棒がスライムに触れた瞬間、スライムの体が弾けた。

 

 「やった!」

 

 [ スライム(無)の魂の帰還を確認 ]

 

 [ 落とし物:スライム液 ]

 

(鑑定は、こんなこともわかるのか……それに魂の帰還ってなんだろ?)


「よくやった!天汰!最後の一撃はなかなか良かったぞ!」

 ゴクは隠れていた茂みの中から出てきた。


 天汰は笑顔で振り返る。

「やりました!師匠!」

 

 ゴクはガッツポーズをした。

「よし!この調子で次だ!」

 

 その日、天汰は、計 スライム3体 ゴブリン2体を倒した。


 [ 落とし物:スライム液 3つ ゴブリンの死体 2体 子供の衣服 2枚 ]


 夕暮れ、天汰とゴクは宿へ戻った。

 夕食を済ませ、天汰は寝る前の日課の本を読む、イリーナが厳選した。『人器の教科書』と言うやつだ。

 

 この本を読んでわかったことは3つ。

 まず人器は植物のような物で、持ち主の能力や素質を栄養分として吸って形を変えること。

 

 2つ目に人器は稀に倒した魔物を吸収して形が変わることがあること。

 

 3つ目にこの人器は、聖女の木と言うものから作られていること。聖女の木はこの世界の各地にある大きな木でその木の枝が人器になるのだ。


 (なるほど、僕には素質や能力もないから、人器は変わらないんだ……今後、本当に変わるのかな……)


 <天汰とゴクは森に修行へ出かけるようになった>


 天汰とゴクは毎日のように森へ言っては魔物を倒す日々を過ごした。

 

 天汰はホーンラビット、オーク、コボルト、ゴブリンなど様々な魔物を倒すのだった。


 [ ホーンラビット : ・頭に一角の生えたウサギ ・とても素早い ・ 捕食可能 ]


 [ オーク : ・ 人間より二回り大きな体と豚のような鼻と牙を持つ亜人 ・好戦的だが知能は低い ・ 捕食不可 ]


 [ ゴブリン : ・小型の亜人 ・群れで暮らしている ・他の魔物に比べて知能は高い ・ 捕食不可 ]


 [ コボルト : ・ 獣型のゴブリン ・ゴブリンに体毛を生やした姿をしている 知能や性質はゴブリンと変わらない・ 捕食不可 ]

 

 <修行を始めてから六十日が経った頃>


 ゴクは真剣な顔をして言う。


「天汰、お前は最初の頃に比べて確実に強くなってる、まだ俺の棒術は全然教え足りないがここでお前に試練を出そう。」

「試練ですか……」

「最初にお前を襲ってきたあの猪、覚えているか?」

「はい、もちろんです!」

 

「そいつをお前に倒してもらう」


「え……」

 

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