第8話 師弟
勇者たちを見送った後、王様が天汰に言った。
「勇者天汰よ、人器の様子はどうじゃ?」
「いえ、なんの反応もないです。それに格の紋もまだ出てません」
「そうか、そんなソナタに朗報じゃ、実はソナタの師になりたいと申し出たものがおる。」
「本当ですか?」
「その者から色々と学べば人器も変化するやもしれん、後で城に来なさい師に挨拶せねば、ところで隣の
王様は天汰にゴクのことを尋ねた。
「この人は僕の命の恩人です。魔物に襲われていた時、魔物を撃退してくれました」
「そうか、ソナタが……勇者を救ってくれてありがとう、良ければ名を聞かせてくれんかの?」王様はゴクに言った。
「じいさん、よくぞ聞いた」ゴクは自信満々の顔で言った。
「俺の名は極!この世の極みに立つ男だ!」
「…」
「ホッホッ元気な若者じゃな!褒美を与える故ソナタも勇者天汰と城へ来ると良い!」
「お!気前がいいな!じいさん!貰えるもんならありがたく貰うぜ」
ゴクはニヤリとして言った。
「ちょっと、ゴクさん!この国の王様ですよ!もっと礼儀正しくしないと!」
天汰はゴクを怒った。
「うるせぇ!俺は俺より強い奴と弱い奴には敬語なんて使わねぇんだよ!」
「なっ!それ全員じゃないですか!」
「まぁまぁ良いではないか、若さとは良いものじゃの〜」王様は微笑んだ。
<こうして天汰とゴクは城へ行くことになった>
<イノセント城・大広間>
「まず初めに魔物から勇者を救った
王様はゴクに尋ねた。
「なんでも良いとなると迷うな〜」
ゴクは顎に手を当て考える。そして口を開き
「すまん!やっぱ思いつかねぇわ!」
と頭を掻きながら言った。
それを聞いた王様は笑いながら
「ホッホッそうか!それなら思いついたらで良い、また城に来るといい」
「おう!ありがとよ!」
ゴクは笑顔で言った。
「では、勇者天汰の師を紹介するかの」
と言い、王様は大広間の扉に向かって大きな声で言った。
「勇者の師となるものよ!入ってくれ!」
すると扉が開き
「失礼します」
と言い一人の男が入ってくる。
見た目は黒髪で体は細く背が高い、そして薄っすらと目にクマがある。
「では紹介しよう彼の名はダン・デービー殿じゃ」
「ご紹介に預かりましたダンです。今後、勇者様と深い関係を築いて行きたいと思っております。どうぞよろしく」
ダンは天汰の目を見てお辞儀をした。
「よろしくお願いします!」
天汰はお辞儀を返した。
(礼儀正しい人だな〜)
「私の人器はナイフ、現状、人器に変化が無い貴方にとって一番変化しやすい形状だと思い、声を上げさせてもらいました。ともに神を解放しましょう」
「はい!」
(ナイフか!剣とか槍より使いやすそうだ、これならきっと僕も…)
そして最後に王様が口を開く「前も言った通りソナタが出発するのは人器が変化したあとじゃ、良き変化を期待しておるぞ」
師の紹介も終わり、天汰たちは城を後にした。
<城の長い階段の前>
「勇者天汰よ、すみませんがが私はこの後予定があるので人器変化の修行は明日から行うことにします」
「わかりました」
「では」ダンは
(一瞬で消えた、忍者みたいだ!)
「坊主、なんかよくわかんねぇけど良かったな」
ゴクが天汰に言った。
「はい!」
「この後どうするんだ?」
「図書館に行こうかと、ゴクさんはどうするんですか?」
「俺は宿に戻って女将さんの手伝いだ、何も言わず来ちまったからな、謝んねぇと」
「そうですか、それじゃあここで!また!」
「おう!またな」
天汰は振り返って歩き出す。天汰の後ろ姿にゴクが再び声をかけた。
「坊主!」
天汰は振り向く。
「はい」
「何かあったら言えよ、必ず助けに行くからよ」
「ありがとうございます!」
天汰は笑顔で返事をして歩いて行く。
<天汰は図書館についた>
天汰は図書館の扉を開けた。
(あの人いるかな?)
すると何冊もの本を抱える見覚えのある女性の後ろ姿が見えた。
(いた!)
天汰は彼女のところへ向かう。
手の届く距離に来て声をかけた。
「あの!」
彼女は振り返り一瞬考え思い出したかのように言った。
「勇者様、今日も来られたのですか?」
「はい、実は…」
天汰は本を無くしたこととその理由を伝えた。
「昨日借りた本を魔物に投げたと…」
その時、彼女は吹き出し大笑いした。
あまり笑わなそうな彼女の大笑いするその様子を見て天汰は目が点になった。
そして彼女はハッとして
「失礼しました。」
と言い平然を装ったが耐えられなかったのか、また吹き出し大笑いをした。
「すみません、おかしくって」
彼女は腹を抱えている。
「すみません、弁償っていくらぐらいでしょうか」
彼女は笑いながら答えた。
「いえ、昨日勇者様が借りた本は在庫が有り余ってるので弁償は不要です、それよりあの本はお読みになられましたか?」
「いえ、読む前に投げてしまったので」
と答えるとまた大笑いをして言った。
「実はあの本『人器の全て』ってタイトルですけど内容はミステリー小説なんです、凶器は全部人器だからなんの捻りも無く終わって発売からわずか1日で多くの人が返品騒動を起こした伝説の本なんですよ、それを魔物に投げたって!」
それを聞いて天汰は再び目が点になった。
(だからあの時笑ったのか…)
「そうなんですか!僕てっきり人器のことについて書かれている本だと…」
「私これミステリーのところに置いてませんでした?」
「気づかなくて」
天汰は照れながら答えた。
「そういえば、まだ名乗って無かったですね!私はイリーナです」
「僕は天汰です」
「よろしくお願いします、天汰様。」
「”様”なんて付けなくて良いですよ」
「それはいけません、勇者様なので。」
(真面目だ!)
イリーナは急に真面目なる。
「ところで天汰様はどのような本をお探しで?」
「人器についての本を探しているんです、実は僕人器が変化しなかったんです。だから人器を変化させるために何か知恵があればと思いまして」
「了解しました、それでは天汰様のためになる本を私が厳選しましょう。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「人器の他に知りたいことはございますか?」
「そうですね〜」
天汰は顎に手を当て考える。
「この世界のことも知りたいのでこの世界の歴史が知れる本はありますか?」
「了解しました、それも追加で用意しておきます。」
「ありがとうございます!」
「それでは用意しておきますので後日またお越しください。」
(よし、本を探す手間が省けた、ありがとうイリーナさん!)
その後、天汰は少し図書館を物色して図書館出た。ふと見上げると空はすでにオレンジ色だった。
(帰ろう)
<天汰は城の自室に戻る>
天汰はベッドに寝転がり天井を見つめる。
(僕にも師匠が見つかった、明日から特訓の日々が始まるのか〜少し怖いけど元の世界に戻るためだ、頑張らないと!)
<翌日>
早朝、兵士にダン師匠から伝達で『城の訓練場に来い』と聞き天汰は訓練場に向かった。
<訓練場>
(ここが訓練場か〜)
訓練場は城へ続く長い階段の中間にある横道を抜けるとある。大勢の兵士がいて、活気のある声が響いている。
訓練場には模擬戦をするための広場がありそこでダンは天汰を待っていた。
「勇者天汰、おはようございます!本日から訓練を開始します。」
「おはようございます、よろしくお願いします!」
「まずは体力作りで城の周りを20周してきなさい」
(20周!?城の周りは多分1周2kmぐらいだから…40
km!?)
「流石に20周は…それに走ることが人器を変化させるとは思えないし…」
ダンは急に怒った顔をした。
「私は貴方のような”出来損ない”を受け入れてやってるのですよ?私のような力を手に入れたければ私に従いなさい。」
ダンは天汰を見下ろして言った。
「すみません…」
(確かに僕は出来損ないだ、この人に見捨てられれば元の世界にはきっと帰れなくなる、なんでもいいから人器を変化させてみんなに追いつくしかない、この人に従えばきっと!)
「私はまた行かなければならないところがあるので今日は20周したならば帰って良いです。」
「分かりました…」
天汰は外に出てひたすら走った1周するたび一休みして、走り終えた頃にはもう外は暗くなっていた。
夕食を食べ終え部屋に戻るとすぐに眠りについた。
<次の日>
、またダンから同じノルマを言い渡された。
(きっとこの人にも何か考えがあるのだろう)
と思い昨日と同じように従った。
<そんな日々が何十日も続いた>
ある日、我慢の限界が来て天汰はダンに抗議した。
「ダン師匠!流石に今日は何か教えてください!」
すると、ダンは怒った顔をして自身の人器を変化させ天汰に突き付けた。
「出来損ないが口答えをするな、お前は黙って足だけ動かしてればいいんだよ」
その時、天汰は恐怖に駆られた。
(『お前、いつも何考えてるかわかんねぇんだよ!』)
(『やめてよ、そんなことしてなんの意味があるの?』)
(『うるせぇよ!出来損ないの癖に口答えすんじゃねぇよ!』『そうだ!そうだ!』『生意気だぞ!この負け犬!』)
(『やめてよ、みんな…痛いよ…』)
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