第7話 しばしの別れ
心地の良い風で
(ここは?)
周囲を見渡して思い出した。
(ここは、女将さんの宿だ、僕は確か…)
天汰は気を失う前のことを思い出す。
(ゴブリンにやられて気を失ったのか)
天汰は痛みを我慢しながら体を起こした。
体には数箇所、包帯が巻かれてある。
(イテッ、傷が痛むな…)
そして、ベッドから出て窓を覗いた。
(僕はどのくらい気を失ってたのかな)
外はすっかり明るい。
天汰は痛みに耐えながらゆっくりと部屋のドアに歩いて行きドアを開け長い廊下を見渡した。
(誰もいない?)
廊下に出て階段まで行くと階段から下にいる女将さんが見えた。
手すりに掴まり一歩一歩階段を降りる。
階段を降りてきた天汰に気づいた女将さんは駆け寄り言った。
「あら、起きたのかい?」
「僕どうしてここに?」
「ゴクちゃんが運んで来たのよ、びっくりしたわ!昨日店から出た数時間後に傷だらけで帰って来たんだもの!」
「すみません、またご迷惑を…」
「迷惑なんて思ってないわ、それよりお腹空いてるでしょ、座って何か作るから」
「いえ、そんな大丈夫です」
「遠慮しないでほら座って」と言い女将さんは椅子を引いた。
天汰は断りきれず椅子に座った。
「ありがとうございます!」
その時、扉の開く音が聞こえた。
「坊主、起きたか」
ゴクが大量の荷物を持って入ってきた。
「あら、ゴクちゃん、洗濯ご苦労様!何か作るからゴクちゃんも座って!」
「助かるぜ、女将さん!腹ペコだ!」と言いゴクは席に着いた。
そして、女将さんは厨房へ行った。
天汰は立ち上がりゴクに向かってお辞儀をして言った。
「ゴクさん、二度も助けていただきありがとうございます!」
それを聞いてゴク答えた。
「全くだ!お前は弱すぎなんだよ!もっと鍛えとけ!」
すると女将さんが厨房から顔を出し笑顔で言った。
「ゴクちゃん、1時間に一回は天汰くんの様子見に行ってたのよ『坊主は起きたか!』って」
「ちょ!女将さん!それはっ!まったく!恥ずかしいからやめてくれぇ!」ゴクは顔を赤くして怒鳴った。
「すみません、ご迷惑を」天汰は申し訳なさそうに言った。
「いやーなんつーか恩人に死なれちゃ嫌だからよ」ゴクは鼻を掻きながら答えた。
数分後、女将さんが両手に二つの皿を抱え厨房から出てくる。
「ミートパイよ、うちの名物だから食べて」
「うわ〜美味しそうだ、いただきます!」
「美味そう!いただきます!」
天汰とゴクはミートパイを一口
(美味い!!)
「これすごく美味しいです!」
「くそ!うめぇ!」
「そう言ってもらえるとほんと嬉しいわ」女将さんは嬉しそうに答えた。
「それと天汰くん、これ!」
と言い女将さんは天汰の前に瓶に入ったうっすらと光っている緑色の液体を置いた。
「これは?」
「あら、回復薬よ、天汰くんの傷が深かったから一本じゃ足りなかったみたい、それを飲めば痛みも傷も完全に消えるわ」
(この世界にはこんなものまであるのか!)
「何から何までありがとうございます!」天汰は深く頭を下げた。
そして天汰は回復薬を飲んだ。
すると天汰は身体の芯から痛みが徐々に引いていく感覚を覚える。天汰は包帯を取ってみる、ゴブリンに与えられた傷は消えていた。
(すごい!傷がないしもう痛くない!)
その時、突然、大きな鐘の音が街中に響く。
「あら、勇者様たちが出発するそうよ」女将が言った。
「え!?僕どのくらい寝てましたか!?」
「そうねぇ、半日くらいかしら?」
(『出発の時は鐘で知らせる故』『神解放への道順を伝える故もう一度この大広間に集まるのじゃ』)
「…」
「おい、どうした坊主」
「どうしたの?天汰くん」
「あの実は僕……」
天汰は二人に今までの出来事と自分の正体と目的を伝えた。
「そう、辛かったでしょう、確かに最初見た時、不思議な身なりだとは思ったわ、まさか勇者様だとは」
女将は眉を
「勇者ってのはよくわからねぇがお前も大変なんだな」
ゴクは食べながら言った。
「僕なんかが勇者なんて笑っちゃいますよね」
天汰は引き
「そんなことねぇよ、あの岩から俺を解放してくれたんだ紛れもなく勇者だ」
「ゴクさん…」
「そうよ、猪の魔物から逃げてる時、わざわざ人がいない所を選んで逃げていたでしょ、あれを勇者と言わずして何が勇者なの?あなたは立派よ」
「女将さん…」
「ほら、まだ間に合うんじゃない?ここから勇者が出発する北門までそう遠くはないわ、走ればギリギリ間に合うんじゃないかしら?昨日の魔物の侵入騒動もきっと城には情報が届いてるはずよ、みんな心配してるわ、ちゃんと無事を報告すべきよ」
「で、でも今さら行っても…」
「最近、出会ったとはいえこれから魔王に挑む大切な仲間なんでしょ?早く別れの挨拶してきなさいな!」
「…」
「そうですね…僕、行ってきます!」
<天汰、急いでは宿を出た>
行き方も聞かずに出て行った天汰に女将さんは遠くを指差して大声で言う。
「この道を真っ直ぐ行くと大通りに出るからそこを左に真っ直ぐよ!!」
天汰は手を上げて大声で
「ありがとうございます!必ずまた来ます!その時は!お金ちゃんと払いますから!」
と言い北門まで突っ走る。
(頼む!間に合ってくれ!)
大通りを走っていると遠くから歓声が聞こえる。
(すごい歓声だ、出発まであとどのくらいだろう、それまでになんとか!)
<天汰は北門付近についた>
すると目の前には勇者を一目見ようと大勢の人だかりができていた。
(すごい人だかりだ!でも行くしかない!)
「すみません!ちょっと通してください!お願いします、ちょっと通して!」
天汰は人混みの中に入る、しかし、うまく前に進めない。
(くそ!これじゃ間に合わない!)
すると突然、服の襟を何かに引っ掛けられ天汰は宙に浮いた。
「え?」
「お前、まだこんなとこにいたのか」
声に反応し後ろを見る。棒を服の襟に引っ掛け吊し上げたのはゴクだった。
ゴクは自分が今乗っている停車中の荷車の上へ天汰を引き寄せた。
「ゴクさん、なぜここに?」
「女将さんがついて行ってやってくれって言うからよぉ」
「何から何までお世話になりすぎだ僕は…」
ゴクはしゃがみ天汰に背を向け言った。
「ほら、乗れよ俺が連れて行ってやるよ」
「で、でもこの人混みの中どうやって…」
「ほらいいから!乗れって!」
「は、はい!」
天汰はゴクの背中に担がれた。
「ちゃんと掴まってろよ!」
天汰はゴクの肩をギュッと掴んだ。
そして、ゴクは勢いよく飛び上がり建物の屋根に軽々と着地した。
「揺れるぞ」
ゴクは走り出す。
建物の間を次々と飛び越え、視界が歪むほど速い勢いで建物の上を駆ける。
そんなゴクの背中に担がれた天汰は不思議な感覚に陥っていた。
(なんだ…この人の背中は…なんだか広くて暖かくて不思議な安心感がある…)
すると、
「あれか?勇者って」
ゴクが遠く見て言った。
その視線の先に目を合わせると北門へゆっくりと進む豪華な馬車に乗り国民に向かって手を振る5人の姿が見えた。
「そうです!あれです!」
「わかった、さっきよりも揺れるぞ!」
「え・・・・ーーーーーーーー
その時、視界が横長に広がり思わず目を閉じてしまうほどの勢いでゴクは走り出した。
天汰たちが通過したところには激しい風が吹き屋根の瓦も飛ぶほどだった。
その時
「おい、ついたぞ」
(え?)
天汰はその声に反応しゆっくりと目を開けた。するとすでに天汰は勇者たちが乗っている豪華な馬車の上にいた。
そこには、いきなり現れた天汰たちに驚きで空いた口が塞がらない5人がいた。
「…」「…」「…」「…」「…」驚きで言葉も出ないようだ。
「いや〜間に合ってよかったな!坊主!」
「いやいや速すぎでしょ!!」
天汰はゴクの背中から降りた、そして5人に向かって言った。
「みんな!遅れてごめん!」
ハッとしてツバサは答えた。
「天汰くん!無事だったんだね!兵士から魔物に襲われたと聞いて凄く肝を冷やしたよ」
「そうだぜ!出発前なのに全く!ビビらせんなよな!」シンが言った。
「とにかく!無事でよかった!」コウヘイが言った。
「うむ!」牛丸が頷いた。
「よかった…」カオリは呟いた。
そして、勇者たちが乗った豪華な馬車は北門に着き、門の前で止まった。
天汰の耳にたくさんの大きな歓声が聞こえてきた。
「勇者様!」「頑張ってくれよ!」「どうか神を救ってー!!」「魔王をぶっ殺せ!」「ツバサ様!こっちを見て!!」「頑張れー!!」「よ!斧の勇者!仕上がってるよ!!」「カオリちゃん!大好きだよ!」
それを聞いてシンが口を開く
「ハハッすごい歓声だな!ツバサ早くもファンクラブ出来てるぞー」
「これは喜んで良いのかな〜?」ツバサは苦笑いをした。
「良いに決まってんだろ!」シンは嫉妬していた。
「牛丸、褒められてるぞ」コウヘイが牛丸に言う
「当然だ、俺は毎日鍛えてるからな」牛丸が答えた。
カオリは頬を赤らめ下を向いている。
すると王様が勇者が乗っている馬車に乗ってきた。
乗ってきてすぐに天汰に目が止まったらしく。
「おお、勇者天汰、無事であったか…どうやら西の門から複数の魔物が侵入したようじゃ、迷惑をかけてすまんかった」
「いえ、こうしてちゃんと生きてるので大丈夫です」
「うん、良く無事でいてくれた」
王様は天汰の肩を優しく掴み言った。
そして王様は勇者たちを見て言った。
「ソナタたちはこの世界の希望じゃ、無力な我々を助けてくれ!」
ツバサが答える。
「僕たちも元の世界に帰るためです!任せてください!」
そしてツバサは他の勇者に向かって言った。
「これから俺たちは神解放に必要な鍵を取りに行く、次に全員揃うのはいつになるかわからないし揃わない可能性だってある、それでも元の世界に帰るためにお互い全力で頑張ろう!」
「おう!」勇者たちは返事をした。
「まって!揃うかどうかわからないってどういうこと?みんなで旅するんじゃないの?」
「そっか、君は大広間にいなかったから聞いてないのか、神をいち早く解放するために鍵は手分けする事になってるんだ」
(手分け?なるほどだから『師』はサポート役も担うって言ってたのか)
「そうだったんだ…」
「君の詳しい道順は王様に聞くといい」
「ありがとう、ツバサくん」
「君も頑張ってくれよ、じゃ俺たちはもう行くよ、必ずまたどこかで会おう」
「じゃあな、天汰!頑張れよ!」シンが言った。
「頑張ろうな!」コウヘイが言った。
「達者でな」牛丸が言った。
そして、俯くカオリにニコリと笑い天汰は言った。
「またどこかで」
「うん…」
そして勇者たちは馬車を降りそれぞれの道へと歩んで行った。
勇者たちを見送った後、王様が天汰に言った。
「勇者天汰よ、人器の様子はどうじゃ?」
「いえ、なんの反応もないです。それに格の紋もまだ出てません」
「そうか、そんなソナタに朗報じゃ、実はソナタの師になりたいと申し出たものがおる。」
「本当ですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます