第4話 封印

 天汰は大きなため息を吐き呟いた。

「この世界にもネットみたいなものがあれば良いのに」

  天汰はぼんやりと景色を眺める。


(ここから飛び降りたら元の世界に帰れたりしないかな?)


 すると、天汰は何かに気がつき王様の言っていたことを思い出した。

(『他に知りたいことがあればこの街の...』)


(ん?あるじゃないか、ネットみたいな場所が!)


<天汰は城の屋上を降りてある場所へ向かった>


 近くにいた兵士に街への行き方と、その場所への行き方を聞いた。城の門をくぐり街へ繋がる長い階段を降りて少し歩いたところにそれはあった。

 両開きの扉を開けると古い本の独特の匂いが鼻をかすめる。


 そう、天汰が来たのは図書館だ。


(すごい、国が管理してるだけはある、本がたくさんだ!)


 長いハシゴがないと全てに手が届かないほどたくさんの本が敷き詰められた本棚が1階と2階さらには3階にもある。

(この世界の全てが知れるんじゃないか?)


 すると突然、後ろから誰かが話しかけてきた。


「おはようございます」


 天汰は驚いて振り返った。そこにはメガネをかけ大量の本を抱えた女性が立っていた。

「その格好からして召喚された勇者様でございますね。誰かしらここへ来ると思っていました。当図書館では貸し出しも行っておりますので、ご気軽にお声掛けください。」


「ありがとうございます!」


「それと図書館ではお静かに...」

「わかりました...」


「では失礼します」そう言い彼女は立ち去った。

(真面目そうな人だな〜)


 まず最初に天汰は人器についての本を探すことにした。


(本がいっぱいありすぎてどこから探せば良いのやら...)


 天汰は適当に図書館中を歩き、探し回る。すると、天汰はあることに気がついた。

(あれ?そういえば、なんでこの世界の文字が読めるんだ?これも魔法の力なのかな?)


 探し回る事、数十分『人器の全て』という題名の本が目に止まった。

(『人器の全て』これだ!貸し出しやってるって言ってたしせっかくだからこの本を借りて帰ろう!)


 天汰は本を持ってさっきの女性を探す。

(どこだろう、広すぎてわからない)


 そして探すこと数分、カウンターに座る彼女を見た。

(いた!)


 天汰は彼女の所へ歩み寄り

「あの〜この本を借りたいんですけど…」

 彼女はその本を見るや否や鼻で笑った。


(なんだよ、この人も僕を…)


 彼女は咄嗟とっさに表情を変え「失礼しました。こちらの本ですね、かしこまりました。」

 そして紙とペンを用意して「では、こちらにお名前をお書きください。」


 天汰は紙に名前を書いた。

「ありがとうございます、期限は7日間となっております。」

 彼女は入り口付近にある大きな箱に指差して言った。


「返却する際はあちらの返却ボックスに入れてください。そして万が一無くされたり読めなくなるほど汚れた場合は弁償となりますのでご注意ください。」

「わかりました、ありがとうございます」


<天汰は本を借り図書館を出る>


(なんだよ、どいつもこいつも僕を馬鹿にして)


 すると突然、街の方から大きな音が鳴った。

(なんだ?)

 街から大勢の悲鳴が聞こえる。

 そして、街の方からこちらに向かって一人の男が走ってきた。その人は走りながら天汰に向かって遠くを何度も指差しながら大きな声で叫んでいる。


「..........ろ!」


 天汰にはまだ遠くて聞こえない。

(どうしたんだろう?)

 だんだん近づいてくるにつれてその人の大きな叫びと焦った表情が見えた。


「...ろ!....げろ!...にげろ!...........逃げろ!そこのにいちゃん!逃げろ!」


 やっと聞こえた声に反応し


「どうしたんですか!?」


 天汰は大きな声で聞いた。

 するとその人の後ろから大きな何かがこちらに向かって走って来ているのに気づく。


「魔物だ!」


(魔物!?)

「いいから逃げろ!」


 その人は大きな声で言った。

 天汰は驚き咄嗟とっさにその人と同じ方向に走った。


(どうなってる、この街は壁で囲まれてたはずだろ!魔物がいるなんて)


 すると、天汰の後方を走る男が言った。


「奴は猪の魔物だ!急な方向転換は出来ない!次の角で曲がるぞ!」

「わかりました!!」


 天汰は走りながら後方に目をやった。天汰の後方を走っているその人の数十メートル後ろに大きな猪が鬼の形相ぎょうそうで追いかけて来ている。


「このままじゃ、追いつかれそうです!」

「いいから前だけ見て走るんだ!」


 曲がり角が見えた、天汰はそこに向かって突っ走る。


「ここだ!!」


 後方から声がして天汰は曲がり角で方向を変える。

 猪は方向を変えず、そのまま真っ直ぐに走り抜けて行った。

 天汰は息を切らしながら後ろを振り返って言う。


「なんとか逃げ切りましたね...」


 しかし、そこには誰もいなかった……


 そして、地面には大量の血と肉があった。


「うああああああああ!!」


 天汰は叫び尻もちをついた。

「間に合わなかったのか!」


 すると、曲がり角を曲がりきれずに通り過ぎて行ったはずの猪の魔物が曲がり角に戻ってきた。

 その見た目は白い毛皮の巨体にマンモスのような大きな牙、顔と牙には大量の血と血で汚れた衣服の切れ端がつき、息は荒く今にも襲いかかって来そうな鋭い眼光をしていた。


(僕のせいだ、僕の足が遅かったから!あの人は…今目の前にいるアイツは曲がり角を曲がれなかった訳じゃない!曲がらなかったんだ!)


 天汰は手をつき魔物に背を向け立ち上がると同時に走り出した。


(やばい!やばい!やばい!)


 魔物は反応し天汰を追いかける。

(どうすればいい!そうだ、さっきみたいに曲がり角を曲がるんだ!)


 天汰は追いつかれないように曲がり角をひたすら曲がり続けるが魔物は建物を破壊しながら天汰を追いかける。


(なんなんだ、なんでアイツは僕を追いかけてくるんだよ!)


 天汰は曲がり角を曲がり走り続ける。

(こんなに曲がってるのになんで僕を見失わないんだ!でも距離は離れてきた!)


 天汰の息は荒くなりスピードも落ちてきたがひたすら走る。

(やばい死ぬ!距離は遠いけどまだ追ってきてる!スタミナも切れてきた!どうにかしないと!)


 前方に岩を見つける。

(あれだ!あれの後ろに隠れよう!)

 天汰は岩の後ろに隠れる。


 数十秒後、魔物は天汰を見失って立ち止まり辺りを見渡している。

 天汰は息を整え、荒れた息を無理やり抑え込み、その光景を岩の陰から見ていた。


(頼む!このまま見失ってくれ!)


 すると魔物の向こう側から


「いたぞ!」


 と誰かの声がした。


 そしてぞろぞろと人器を持った大勢の近衛兵が魔物を囲み出した。

(助かった〜死ぬかと思った)


 近衛兵たちはそれぞれの人器で応戦する。

 しかし、魔物には歯が立たない。


(なんだか、様子がおかしい)


 そこで一人の兵士が


属性付与エンチャントファイヤ!」


 と叫び、剣に火をまとわせる。

 雄叫びを上げ斬りかかる。


(人器はあんな戦い方もできるのか)


 だがしかし、魔物は怯みもせずその兵士を薙ぎ倒した。

 そして、次々と兵士たちは攻撃を仕掛けたが全て薙ぎ倒され、最後の一人になった。


(おいおい、この人数でも勝てないのか!30人はいたんだぞ!)


 その兵士は最後の力を振り絞り、


属性付与エンチャントサンダー!」


 槍に雷を纏わせ魔物の額に槍を突き刺す。

 しかし、弾かれついに最後の一人が倒れた。


(そんな…)


 その光景を見て天汰は息が漏れないように手で口を押さえ息を潜めた。

(頼む!見失ってくれ!頼む!)


 魔物は再び周りを見渡す。

 その時一羽の小鳥が天汰が隠れている大きな岩の上に止まった。


(え?……)


 その鳥と天汰は目が合った。

 その鳥は、天汰に終わりを告げるかの如く鳴いた…。

 その瞬間、魔物は声を荒げ岩に向かって猛スピードで迫る。


(やばい!)


 その時、焦った天汰はつまずき前へ倒れる。

 迫ってくる魔物を見て天汰は死を悟った。

(ダメだ、死ぬ、このまま僕はこの岩諸共…)


 しかし、この時魔物の牙が岩に触れると魔物の牙は折れた。

 岩は半分砕けはしたが魔物の一撃は天汰に届くことは無かった。


 なんとその岩は天汰が思うほどもろくなかったのだ。


 牙が折れた魔物は絶叫した。

(なんだ、この岩は思ったより硬かったのか、今のうちに)


 天汰は立ち上がろうとするが

「あれ?」

 腰が抜けて立てない。


(は、早く逃げないとぉ!)


 魔物は天汰を鋭い目つきで睨みながらゆっくりと近づくてくる。


 天汰の眼から大量の涙が溢れる。

(やばい、やばい、死ぬ、死ぬ!)


 焦って手に持っていた本を投げた。しかし、本は魔物に当たる寸前で朽ち果てた。

 続けて、天汰は砕けて地面に散らばった岩の破片を次々と投げる。


「来るな!来るな!」


 やはり魔物に当たる寸前で朽ち果てていく。


(なんで.......そうだこの世界の呪いだ、やっぱり人器じゃないとダメなのか!)

 天汰は人器を取り出した。

「変われ!変われ!変われ!!変わってくれ!」


 そして、魔物は長い牙が天汰の顔に触れる寸前のところまで近づいた。


「来るな...来るな」

 天汰は立つことがままならない下半身を引きずり後退りするが魔物もだんだんと天汰を追い詰める。


(クソ、僕はこの世界でも...)


 天汰は最後に泣きながら地面に落ちていた岩の破片を投げた。


「くたばれ!クソ野郎!!」


 岩の破片は何故か魔物の眼をはじいた。


(え...?)

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