第3話 ひとりぼっち

「おい、みんな!」


 誰かの声で天汰は目を覚ました。


(どうしたんだ、朝っぱらから)


 眠たい目を擦りながらドアを開ける。

 声の主はツバサだった。

 そして、同じようにシンも起きてきた。


「どうしたんだよ、ツバサ」

「これ君たちにもあるかい?」


 ツバサは自分の右手の甲を見せて言った。


 そこには灰色の六角形の紋様が入っていた。


「落書きなんじゃねぇの?」

 と言い、シンは自分の右手の甲を見た。

「あっ!俺にもある!」


 天汰は自分の右手の甲をみるがない。

「僕にはないみたいだ」


「どうしたんだ?」「朝から楽しそうだな」


 コウヘイと牛丸が来た。


「楽しんでるわけじゃねぇよ、それよりお前ら、これあるか?」

 シンは二人に手の甲を見せた。


「落書きだろ〜この歳にもなって〜全く...」コウヘイは自分の手の甲を見た。

「あ、ある」


「落書きされたのか、お前ら、俺にはそんなもの...」牛丸は手の甲を見た。

「あ、ある」


「やっぱりあるじゃねぇか!」

 するとカオリが来た


「どうしたんですか?」


「カオリさん、君にもこれあるかい?」ツバサが手の甲を見せた

 カオリが右手の甲を見た。


「わ、私にもあります!」

「なるほど、天汰くんに出てないって事は『人器』が関わってそうだね」


 その時


「ここにおられましたか」


 兵士が来た。

 兵士が駆け寄り片膝をついて言う。

「おはようございます!まもなく勇者任命式を執り行います!支度を済ませて大広間へお越しください!」


「わかりました!すぐ向かいます!」ツバサは兵士に返事をして振り返って言った。


「よし、昨日の事とこの紋様のことも後で王様に聞いてみよう、まずは部屋に戻って準備だ!」


 <天汰たちはそれぞれの部屋に戻る>


 天汰は部屋に戻る途中で、洗い場により冷たい水で顔を濡らした。ふと見上げると鏡の中の自分と目が合い思った。


(なんで、僕にはあの紋章がないんだ?やっぱり『人器』が関係あるのかな、やっぱりこの世界でも僕は何もできないのかな...…)


 そう思ったあと、天汰は自分の腕で顔を拭う、すると窓から心地の良い横風が入ってきて天汰の濡れた顔を撫でるように拭った。天汰は横風が入ってきた窓に向かい手を掛け外を見てみた。


 そこには今まで見たこともなかった景色が広がっていた。

 大きな塀に囲まれた中世ヨーロッパに似た街並みと塀の外には広大な平原と山々が見える。


(この城は街の中心にあるんだな、しかもかなり高いところにある)

 天汰は景色に見惚れて呟いた。


「僕、本当に異世界に来たんだな〜」


 そう言い、天汰は景色に数十秒見惚れた後、深呼吸をして気持ちを落ち着かせ洗い場を後にした。部屋に戻って机に置いていた『人器』を手に取り携え部屋を出る。


<大広間へと向かう>

 大広間に着くと大広間の入り口の両開きの大きな扉の前に兵士がいた。

「もう皆さんお集まりです!」と言い扉を開けた。


 天汰は扉を潜ると、道を開けるように並んだ兵士たちがいてその奥に王様と先に来ている5人が見えた。


「遅れてすみません!」


 天汰は一言謝罪し5人の元へ駆け寄った。


「よし、全員揃ったな、まずはソナタらに謝らなければならない。昨日、敵の侵入を許してしまった。本当にすまない」

 王様は深く頭を下げた。


「昨日のアイツは一体何者なんですか?」ツバサが聞いた。


「あやつは魔王崇拝者の一人じゃろう、神の解放を阻む愚か者共だ、恐らく今後ソナタらの進行を阻むもの達だ、いずれ戦うことになる。注意しておくのじゃ」


(人間とも戦うことになるのか……)天汰は益々無力感が増した。


「それと、1つ質問があるんですが!」続けてツバサが聞いた。

「これについて何か分かりますか?」

 ツバサは右手の甲を見せて言った。


「おお!もう出てきたのか!それは”格の紋”と言ってな、『人器』を持った者にだけ現れる。ソナタたちの”格”を表すものじゃ」


「格?」

 コウヘイが聞いた。


「簡単に例えるならのことじゃ、それはただ力が強いことだけではない、筋力、体力、知力、魔力、気力、運 これらどれかの力が一定を超えたとき人器と同じように”格の紋”も成長する。」


「なるほど、言わばこれは”ステータス”のことか!」ツバサが言った。


「面白い!」

 牛丸が声を上げた。


「ソナタたちに一晩でそれが現れたという事は人器がソナタたちを認めたようじゃな、次期それぞれの色へと変わるじゃろう」


「色?」


「魔法の属性のことじゃ、今は灰色で無属性を表しておる、後にその色は変化する『青ならば水、赤なら火、緑なら樹、茶色なら土、黄なら光、紫なら雷、黒なら闇』という感じで色が変わる、人によって色の濃さは違えど基本この七つの色に分かれる、それがソナタたちの使える魔法じゃ」


「なるほど、色によってどの属性の魔法が使えるか決まるんですね!」ツバサが言った。

「そういうことじゃ、ちなみに念じると手の甲から消すことも可能じゃ」


「念じる?」


「試しに格の紋に意識を集中させ『消えろ』と念じてみるとよい。」

 言われた通りにする勇者たち。

 すると、勇者たちの手の甲から格の紋が消えた。

「消えた…」


「その紋はあまり人に見せる者では無い故普段は隠しておくことをお勧めする。」

(なるほど、見せたままだと自分の強さを見せつけてるようなものだもんね)

 天汰は少し安心した。


「他に知りたいことがあればこの街の図書館に行くと良い、そこは国が管理しとる故、気兼ねなく使って構わん」

「ありがとうございます!」ツバサが礼を言った。



「では!これより勇者任命式を始める!まず最初に勇者たちの紹介じゃ!!」と王様が声を上げると二、三階にいた大勢の人たちの拍手と歓声が鳴った!


 天汰は驚き上を見上げた。

(驚いた、僕たち以外にも居たのか!それにこの大広間、昨日は気づかなかったけど2階と3階もあったんだなしかも、かなり天井が高い)


「まず最初に!剣の勇者!ツバサ!!」


  大きな歓声があがる!


「次に斧の勇者!牛丸!」

 ・

 ・

 ・

「そして最後に!勇者!天汰!」

 歓声は鳴らず小さな拍手と共に小言が聞こえた。

 。

「あれがハズレの勇者だって」「ハズレだ〜」「弱そう」「人器が変わらなかったんだって」「そんなやついるの?俺のバカ息子でさえ変わったぞ」「農具にも変わらないってどうなのよ」「本当に勇者かよ」....


 天汰は下を向き歯を食いしばり拳を固く握った。


(なんで僕だけ...)


 王様が咳払いをし話を進める。

「この者たちが魔王に挑む勇者たちじゃ、皆もできる限り応援してくれ!」


「次に!彼らに一人ひとりに師を斡旋あっせんする!この師という役割は勇者たちに己の武術を教え、時に勇者をサポートし、そして良き理解者になることじゃ、今日ここに集まっているのはこの国の最高戦力たちじゃ!ソナタたちに勇者の師を任せたい、引き受けても良いという者は名乗り出てくれ!まず剣の勇者ツバサの師となる者からじゃ!」


(おい、おい!立候補制なのか!?これじゃ僕に師がつくなんて……)


「私がなりましょう!」誰かが声を上げた。

「元王国騎士団長!エドモンド・バークマンであります!」

「おお!エドモンド元騎士団長か!これ以上の適任はいないな、では決まりじゃ」


「次に斧の勇者牛丸の師になりたいものは名乗り出てくれ」

 ・

 ・

 ・

 他の5人には何事もなく師が付き、天汰の番が来た。


「最後に勇者天汰の師になりたいものは名乗り出てくれ」


 数十秒、沈黙が続いた、声を上げる者はいない。

「誰もおらぬか?」

 すると、小言が聞こえる。


「人器が変わらないやつに何教えれば良いんだよ」


(わかってたさ、こうなる事ぐらい…………)

 天汰は下を向き拳を固く握った。


「仕方ない、勇者天汰には人器に変化があった後、再びつのるとする」


「次に!勇者たちへ、旅に必要なアイテムを贈呈する、持ってまいれ」


 というと一人の兵士が六つの袋を運んできた。


「まずこの袋は”アイテムボックス”と言って数や大きさに限度はあるが数々のものを収納することができる。その他にテントなどの野営具や魔力を流せば光る”魔力ランプ”に5日分の水を溜めることができる魔法瓶、それとこの世界の地図と金貨50枚が入っておる。アイテムボックスは貴重故、盗まれぬよう用心するのじゃ」


 <天汰たちは旅のアイテムを受け取った>


「そして、最後に勇者の証を授ける、勇者ツバサ前へ」

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 <天汰たちはそれぞれ勇者の証を受け取った>


「その勇者の証は他の国々へ入国する時、必要になるくれぐれも失くすでないぞ」


「これにて!勇者任命式を終了する!そして明日、出発式を執り行う、出発の時は鐘で知らせる故、北門に皆集まってくれ!では!」

(待ってくれ!出発は明日なのか!?明日までに人器を変化させるなんて僕には……)


 2、3階にいた人たちがゾロゾロと大広間を出て行く。

「では勇者たちよ、夕暮れ前の鐘が鳴った後、神解放への道順を伝える故もう一度この大広間に集まるのじゃ、それまでに己の師に挨拶を済ませておくと良い」

「わかりました!」「了解でーす」「うむ」「わかった」「わかりました...」「はい...」

 勇者たちは返事をした。

「それと勇者天汰よ、我々の力が及ばずすまない、お詫びと言ってはなんだが金貨10枚を追加で贈呈することにする、後に兵士から受け取ってくれ。それとソナタにまだ外は危険故、明日ではなく人器が武器に変化した後出発とする。」

(そうだよな、僕だけ出発は見送りだよね……少し安心した)

「わかりました...」


<大広間を出る>

 その後、天汰以外の勇者たちは師に挨拶をしに行き、一人になった天汰は城の屋上に来ていた。


(これからどうしようかな、みんなと物理的にも置いていかれようとしてる、神を解放するのはツバサくんみたいなしっかりした人なんだろうな、僕みたいなチキンにはとてもできそうにない...)


 天汰はぼんやりとしながら景色を眺める。


(この世界について何も知らないし人器のことについても謎が多すぎる、なんで人器は呪いの効果を受けないんだろう、人器の他に呪いの効果を受けない武器って本当に無いのかな、そもそもどうやって変化させれば良いんだ)


 天汰は大きなため息を吐き呟いた。


「この世界にもネットみたいなものがあればなんでも調べられるのに」


 天汰はぼんやりとしながら景色を眺める。


(ここから飛び降りたら元の世界に帰れたりしないかな?)

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