第2話 絶望

 天汰の『人器』は光さえ発したものの変化しなかった。


「どういうことじゃ!人器が変化しないとは!」


 王様は戸惑いながら言う。


「お、おい、この『人器』は本物じゃろうな!確認せい!」


「はい、すぐに!」

 一人の兵士は天汰の持っていた『人器』をじっくりと見て言った。


「はい、紛れもなく本物であります。」


 その瞬間、周りから小さな笑い声と同時に小言が聞こえた。

「変化しないやつなんていたんだな……」「農具にさえ変化しないとは」「ハハッなんだありゃ」「ありゃーハズレだな」

 天汰は拳を固く握りる。

(嘘だろ、この世界で身を守れるものはこれしかなんだろ……)


「ともかく!」王様が大きな声で言うと同時に笑い声と小言がやむ。

「人器は全員に行き渡ったようじゃな、これにて召喚の儀式は終了じゃ!」

 後ろのドアが開いた、兵士たちが素早くドアまでの道を空ける。

「ソナタたちに1人1部屋と食事を用意した、明日には出発してもらう故、今晩はゆっくり休むといい」

「待ってください!」

 天汰は大きな声で言った。

「本当にこの世界で使える武器はこれしか無いんですか!使える『人器』を僕にください!このままじゃ僕はこの世界でも...」

 王様は眉をひそめ答えた。

「この世界で『人器』は生涯一人一つと決まっておる、本当にすまないが我々にできる事はない。じゃが、さっきも言った通り『人器』は己と共に成長する、つまり、お前さん次第じゃ」


「僕、次第....」


 <天汰と少年たちは部屋から出た>


 顔立ちの良い少年の提案で後で皆で自己紹介も兼ねて情報交換をすることになった。


 <天汰たちはそれぞれの部屋に案内された>

 用意された部屋にはフカフカのベットと小さなテーブルと一人掛けの椅子があった。

 天汰は部屋に入るなり、窓を開けて外を見たもうすっかり外は暗い、灯りも少なく景色はよく見えない。

 天汰はため息をつき、フカフカのベッドに体を沈めた。

(いきなり異世界に来ていきなり戦力外通告か、僕はこの世界でもダメなのか、魔物にもビビってしまった、僕はこの世界でやっていけるのかな)

 天汰は王様に言われた『お前さん、次第じゃ』と言う言葉を思い出し持っていた『人器』を見る。


(そうだ、この武器は成長するんだ。まだ戦力外と決まったわけじゃない!)


「何クヨクヨしてるんだ僕は、今やるべきことをやろう!」


 <天汰は部屋を出て顔立ちの良い少年の部屋へ向かう>

 天汰は少年の部屋のドアをノックした。

「入ってくれ」

 中から声が聞こえた。

 天汰はドアノブに手をかけ押すドアが軋むような音を鳴らし開く。

「よし!とりあえず、全員揃ったね、まずは自己紹介をしよう、名前と年齢それとこの世界に来た時のことを話してくれ」

 顔立ちの良い少年が言った。

「時計回りに行こう、まずは俺から、俺の名前は明石 翼あかし つばさ15歳、ここに来る前、学校の帰り道で車に轢かれ気がつくとさっきの大広間にいた。」

「次は俺だな」短髪の少年が言う

「俺は陽野 康平ひの こうへい15歳、ここに来る前はある男に刺された挙げ句何度も殴られ気がつけばあの大広間にいた。」

 皆んな、青ざめた表情をした。沈黙の後、思い出したかのようにチャラめの少年が言う。

「あっ次は俺か、俺は神崎 真かんざき しん15歳ここに来る前、あー....女に刺されて……」

「なんて?」皆が口を揃えて言った。

「だから、女に刺されて!気がつけばあの大広間にいたんだよ!」

 シンは声を大にして言った。

「一体何やったんだよ」コウヘイが聞く。

「それはお前もだろ」

「次は俺だ」

 腕を組んだ筋肉質の少年が言った。

「俺は木下 牛丸きのした うしまる15歳、銀行強盗に銃で撃たれ意識をなくし気がつけばあの大広間にいた。」

「銀行強盗!?なんでそんなやつに」シンが聞いた。

「俺は人質になってた人を助けただけだ、大したことはしていない。」

「ヒーローじゃん!」シンはツッコンだ。

「次は君だ」牛丸は隣の少女に言った。

 少女が答える。

「わ、私は瀬戸 香織せと かおり15歳……です……。」と言いうつむいた。

 沈黙が続いた後「そ、それだけ?」シンが不思議そうに言った。

 すると、ツバサが


「言いたくないなら無理に言わなくていい。コウヘイのように残酷だったのかもしれない。」


 とカオリをフォローした。

「それだったら俺も言いたく無かったぁ〜」シンは不機嫌そうに言った。

「次は君だよ」ツバサは天汰に向かって言った。

「僕は冴木 天汰さえき あまた15歳、ここに来る前、良く分からないけど上から何か落ちてきたみたいで、急に視界が真っ暗になって気がついたら大広間にいた」

 そして、天汰は恐る恐る口を開いて言った。


「でも確実に言えるのは僕はあの時...確かに死んだはずなんだ……」

(でも今生きてるのも確かだ、息もあるし)


「やっぱりそうだよね、言わなかったけど、俺も死んだ気がする。」ツバサが言った。

 シン「俺もそんな気がした……」

 牛丸「受け入れたくはないが……俺もだ」

 コウヘイ「あれは確実に……」

 カオリ「……」

 みんなの沈黙でお通夜のような雰囲気が漂う。

 シンが恐る恐る口を開いて言った。

「俺たちは死んでここにいるとして、一つ疑問に思わないか?本当に元の世界に戻れるのかって」

「確かに、死んでるとなると......」ツバサは少し考えてすぐ口を開いた。

「うん、考えても仕方ない!俺たちにとって最善の方法を模索しよう!」

「そうだな!この世界には”神”がいるんだ、どうにでもなるさ!」

 コウヘイが言った。


「となると、話すならこれの話だな」と言いってシンは『人器』を取り出した。

「俺は槍だったがこれって今後変わるのかな」

「俺たちの成長によって姿、形が変わるって言ってたから変わるんじゃないかな?」ツバサは答えた。

「俺は剣道をやってたから剣に変わったんだと思うんだけど、みんなはどう?」

「なるほど、俺はボクシングをしてるから、この籠手のようなものになったのか」コウヘイが言った。

「俺は幼少期から木を切っていたからか」牛丸が言った。

「どんな幼少期だよ、待って、俺何にもやって無いのに槍なんだけど……」

「ん〜素質みたいなものかな〜」ツバサが首を傾げながら言った。

「わ!私は弓道してました!」カオリが言った。

 一瞬、沈黙が鳴った。

「へ〜意外だね!」「ギャップ感じる〜!」ツバサとシンが言った。

 カオリは気まずそうに俯いた。

「でも天汰のは変わらなかったけどなんでなんだろうな。」シンが言う。

「きっとこれから変わるさ!」ツバサが言った。


「ありがとう、もし変わらなくても、みんなの役に立てるよう頑張るよ。」


 その時、突然誰かがドアをノックした。

「はい!」ツバサは返事をし部屋のドアへ向かいドアを開けた。

 そこには片膝をついた一人の兵士がいた。

「失礼します、今後のご予定をお伝えに参りました。」

「わかりました、入ってください!」ツバサは兵士を部屋に入れた。

 部屋に入ると兵士はもう一度片膝をつき明日の予定を言う。


 兵士によると明日の予定は”勇者任命式”というものを執り行うらしい。


 式の中で天汰たち一人一人に”師”という者を斡旋するそうだ。

 この”師”というのは勇者を鍛える役割と同時に迅速に神解放をするためのサポート役も担っている、この世界に不慣れな天汰たちにとって生死を分ける重要な人達だ。


「師匠か〜俺の師匠は一体どんな人だろう、巨乳のお姉さんがいいな〜」シンはニヤついている。

「何言ってんだ、この国で一番強い奴が良いに決まってるだろ」牛丸は心を躍らせている。


 その後、みんなで雑談をしていると再びノックが鳴った。

「はい!」ツバサは返事をした。

 しかし、応答がない。不思議に思ったツバサは部屋のドアを開けた。

 外には誰もいないようだ。

「どうしたんだ、ツバサ」シンが呼びかけた。

「いや今ノックの音が鳴ったよね?」

 その時、突然天汰たちの前に男が現れた。

 男は口元を隠し、頭にはバンダナを身につけている。

「なんですか!あなたは!」ツバサが焦った表情で言った。


「お前たち勇者にはこの世界のために死んでもらう」


 そう呟くと男は片手に持った人器を変化させた。人器はナイフへと変化した。

(なんだ!この人)

 その時いち早く何かを察した、コウヘイが叫んだ。


「みんな!下がれ!」


 コウヘイは人器を変化させた。コウヘイは男の背後にいるツバサに言った。


「ツバサ!俺とお前でこいつをやる」


「やるってどうやって!」ツバサは焦っている。


「お前ら人器を構えろ!」コウヘイは叫んだ。

 天汰以外の皆は人器を構えた。


「行くぞ!ツバサ!」


 コウヘイはそう叫び拳を構え男に殴りかかる。

 それに反応したツバサはコウヘイに続き、斬りかかる。


「ウオオォ!!」


 しかし、男は2人の攻撃を素早く避けた。


 だが、男が避けた先には牛丸が居た。


「フンッ!!」


 牛丸は斧を振る。

 男はナイフで斧を防ぐ。

 男が牛丸に気を取られている内にシンが男の背後から槍で突く。


「オラァァ!!」


 槍は男の肩をカスった。

「あ、当たっちまった…」


 シンの手は震えている。


 焦った男は槍を弾き後退する。


 だが、そこにカオリが放った”矢”が男の顔面の真横寸前を通り過ぎた。


 男は明らかに焦った表情を見せた。


 そして、勝てないことを悟ったのか男は煙幕を焚き、姿を消した。


「何だったんだ今の……」シンは緊張が解けたのか座り込んだ。


 天汰以外の皆は息切れをしている。


 一方、天汰は腰を抜かし立てずにいた。

(僕、何も出来なかった……あの子でさえ立ち向かったっていうのに……)


「もう夜も遅いし部屋に戻ろう、あの様子だともう襲って来ないだろう、このことは俺が後で兵士に報告しておく」コウヘイが息を切らしながら言った。


 <天汰たちはそれぞれの部屋に戻った>


 天汰は部屋に戻るとベッドに顔をうずめる

(僕はこの世界でも無力だ……)

天汰は、時差ボケのせいか眠くなりあんなことがあったのにも関わらず眠りについた。


 そして朝を迎えた。

「おい、みんな!」

 誰かの声で天汰は目を覚ました。

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