この世界に武器はこれしかない!~成長する武器しか使えない異世界で1本の棒を鍛えてみる~

野河 真壱

第1話 突然

 学校帰りの16時50分。

 帰り道にいつもすれ違う沢山の人達、ジョギングをしているおじさん、疲れ切った顔のお姉さん、犬の散歩をしているお婆さん、いつもの天汰あまたの帰り道だ。

 そして最後にいつも挨拶を交わす、お爺さん。


「おかえり〜天汰くん、少しやつれたんじゃないか、ちゃんと食べとるか?」


 天汰が答えようとした時、天汰のお腹が呼応するように鳴った。


「そうか……夕飯まで時間あるじゃろ?これ持って行きな」


 お爺さんはおにぎりを差し出した。

 天汰は恥ずかしさのあまり受け取った。


「ありがとうございます」


 天汰はお礼を言いその場を立ち去ろうとする。

  その時、今まで聴いた事の無い鈍い音と共に天汰の視界が真っ暗になった。


 頭の中でモスキート音が響く。


「天汰く……大丈夫か…あぁ…なん…事じゃ、まさ…上から……落ちて来…なんて……誰か救…車を!二…頼む!…」


 (……何が起こった…………上から何か落ちてきた?…………死ぬのかこれ……どうなってる….........……死ぬのか.................お爺さんごめん僕がボーっとしてたから.........…………ごめん、お母さん姉ちゃん…………寒い......怖い......怖い........死にたくない............................)


 天汰は死を実感した。


 こうして、冴木 天汰さえき あまたのいつも通りの日常は呆気なく終わりを迎える……


「おお!召喚に成功したぞ!」

(え?)

「途中、魔王の妨害もあったがなんとか6人召喚出来たみたいじゃな!」

(マ、魔王?夢?いや僕はさっき.....)

「この方達があの方を救ってくださるに違いない!」

(あの方を救う?どう言うこと?)


 天汰はおぼろげな意識の中、重いまぶたをゆっくりと上げた。


 そこは硬い石で覆われた広い空間、石畳いしだたみのひんやりとした感覚が頬に触れている。


様々な種類の武器を持った兵士たちに囲まれ、その中心に天汰と四人の少年と一人の少女がいる。


(ここは?)


「気が付いたか。」


 一人の顔立ちの良い少年が天汰に言った。

 天汰は石畳に手をつき立ち上がった。


「最後の一人が目を覚ましました!」


 誰かが声をあげる。


「では話を進める、私の名はユーサー・イノセント、このイノセント王国の王様じゃ。」

 豪華な椅子に座った、まるでサンタクロースのような見た目の一人の男が言った。


 (ちょっと待って、一旦整理しよう、僕は学校の帰り道、お爺さんにおにぎりを貰って突然、視界が真っ暗になって体に激痛が走って気づいたらここにいて、訳がわからない。でも確かにあの時…)


「混乱しているようなので説明しよう、ここはソナタたちの言葉で言う『異世界』というところじゃ、ソナタたちをここへ召喚したのは、ある方を邪悪なる魔王から解放してもらうためである。」


「ちょっと待て!」


 チャラめの少年が言う。


「勝手に呼び出しといて命令するっておかしいだろ!俺には一人残してきたお袋がいる!元の世界に帰してくれ!」


 それを聞いた王様は眉をひそめ答えた。


「すまないがそれはできない、ワシらの魔法はこちらへ呼ぶだけであって送ることはできんのじゃ、ソナタたちがあの方を解放すればあの方はきっとソナタたちの願いを聞き入れるであろう。もちろん、ソナタたちがあの方を迅速に解放できるようサポートはする。」


「あの方ってのはなんだ?」

 短髪の少年が聞く。

「あの方と言うのはこの世界の”神”じゃ」

「神?神様が魔王に負けたのか?」

 筋肉質な少年が聞く。

「無礼者!決して負けたのではない!」

 王様の荒げた声が響く。

 静まり返った空気に王様は1度咳払いをし


「すまない、取り乱してしまった、では話を続けよう。」


「千年ほど前、”神”に挑んだ愚か者がいた。その者は封印術に長けており気性は荒く残酷非道な悪魔のような人間じゃった、その者は自身がこの世界を支配するため愚かにも我々人間を愛する”神”に戦いを挑んだ、”神”に勝てるはずも無く戦いの最中、その者は一人の人間を人質に取り”神”を脅したのだ。心優しき”神”は動揺した。その隙にその者は”神”に何重にも封印の術を施した。その者はその後”神”のいなくなった世界で数々の魔物を従え、魔王となった。」


(なんだかゲームの話をしているみたいだな、魔王とか魔物とか)


「ちょっと良いですか?と言うことは千年もの間”神”は封印されていると言うことですか?」

 顔立ちの良い少年が聞いた。


「そう言うことになる、我々が封印されていると知ったのは百年前じゃ、ある一人の男が”神”のお告げとしてこの話を教会に持ち出したと聞いておる。そして調査団を派遣し事実確認へと向かった、しかし魔王の国には魔物が数え切れぬほどおる故、困難を極め調査団は全滅し帰ってきたのは一通の手紙のみ、そこには、


『 神 囚われの身 解放せよ 』


と書いてあったと言う。」


(だとすると900年空きがあるのか……どう考えても情報が曖昧じゃないか?それに一通の手紙で神が本当に封印されているって判断して良いものなのかな?)


「なるほど、一つ聞くが、解放というのは魔王を倒すことでできるものなのか?」短髪の少年が聞いた。

「おそらく困難であろう、お告げを聞いた男によると魔王は12個の鍵をこの世界中に隠したようじゃ、この鍵の数は魔王が”神”に施した封印の数、その鍵でしか封印は解くことができん。」


(察するに、予言の男は僕らの世界で言うブッタやキリストのような人か?どの話も根拠が無いから分からない)


「鍵の目星は付いているんですか?」

 顔立ちの良い少年が言った。

「すまんが、付いておらぬ、どうやらその鍵は異世界から来た者でしか見ることも触れることもできんようじゃ」

「なるほど、それは俺らにしかできないな、最強の剣とかないの?さっさと終わらせようや。」

 チャラめの少年が言った。

 すると王様が咳払いをし話し始めた。


「この世界には古くから呪いがある、いつからあるのかは定かではないが、それは”この世界で生き物を傷つけようとした物や武器は朽ち果てる”のじゃ、それはどんなに強い武器でも例外なくじゃ」


「どういうことですか?」

 顔立ちの良い少年は聞いた。


「見てもらう方が早い」


 と王様は言い、目で兵士に合図を送った。

 兵士は鎖に繋がれた牛のような生き物と一本の剣を持ってきた。

「こいつはこの世界にいる魔物じゃ。」

 すると突然、兵士が魔物に向かって剣を振り下ろす。

 その光景を見て天汰は魔物が剣で斬られもだえ苦しむ姿を想像した。

 しかし、魔物に剣先が触れる寸前で兵士の手にあった剣が一瞬で灰になったのだ。


(剣がなくなった!?)


「このように、普通の剣では傷つけることはできん。」


「じゃが!」


 というと王様は自身の懐から一本の棒を取り出した。棒を掲げて王様は言う。


「我が先祖たちが作り上げた、この『人器じんき』なら攻撃を与えることができる!」


 その『人器』の見た目は一見ただの加工された木の棒で例えるなら麺棒のような見た目をしている。


 兵士は自身の懐から『人器』を取り出した。『人器』は形を変え剣になった。

 兵士は、大きく振りかぶり魔物の首に向かって剣を振り下ろした。

 刃が肉にこすれる音とともに地面が震えるほどの魔物の声がこの広い空間に大きく響いた。


「きゃっ!」と目を閉じ頭を抱える少女


 そして、天汰は腰を抜かしていた。


 その光景を見て王様が言った。


「このくらいで驚いていてはこの先どうなることやら、慣れてもらわねば」


「ごめんなさい……」少女は謝る。


 (驚くのも仕方だろ、僕たちにとってはこれが正常な反応なんだ。そして今のではっきりした、これは夢じゃない現実だ。でも確かにあの時、僕は…)


「では話を進める、この『人器』はソナタたちの性格や特技、成長によって様々な姿、形になる。」


 王様が兵士に合図を送る。

 すると、6本の『人器』が運ばれて来る。


「言っておくが、これは最強の武器ではない。ソナタたちが最強にするのじゃ。では、そこの少年前へ」


 王様が顔立ちの良い少年を指名した。

 少年が数歩前に出ると一人の兵士が少年の前に『人器』を運ぶ。

「その『人器』を持ってみなさい」

 王様が言った。

 少年は『人器』を持つ。すると光を発しながら『人器』の形が剣のような形に変わる。


「おおー剣じゃな、この世界で最も扱う者が多い武器の1つじゃ、まぁ剣の形は様々じゃがな。」


 顔立ちの良い少年は剣を眺め「これが俺の『人器』……」と呟いた。

 すると、筋肉質な少年が


「次は俺が行こう」


 と言い兵士から『人器』を受け取った。

 光を発し『人器』は斧のような形になった。


「斧じゃな、筋肉のあるソナタにはピッタリじゃ」


 次はチャラめの少年が


「次は俺ねー」


 と言い『人器』を受け取る、光を発し槍に変わる。


「槍じゃな、剣ほどではないがこの世界で多くの使い手がおる。」


 次に短髪の少年は何も言わずに『人器』を持った。

 『人器』は光を発し少年の拳に巻き付き籠手こてのような形になる。


「これはなんだ」


 短髪の少年が聞く。

「なんじゃそれは?初めてみる形じゃ」

 王様は驚いた表情で言った。

 短髪の少年は

「手が軽い」

 と言いながら腕を降った。


「さて、もう時間が押しておる、残りの二人は同時に『人器』触れてくれんかの?」


 天汰と少女は頷き『人器』の目の前に立つ


 (こういうのワクワクするなー、僕のはどんな武器になるんだろう〜強そうな武器がいいな〜)


 天汰はそう思いながら目の前の『人器』を持つ。

 そして少女も目の前にある『人器』を持った。2つの『人器』は光を発した。


 少女の『人器』は弓へと変わった。


「おお!弓じゃな、この世界で弓は重宝されておる。期待しておるぞ、そしてもう一人は……」


(あれ?どういうこと?なんで、僕のだけ変わらないんだよ……)

 

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