第八話

 ねむりちゃんを連れて、私達は街に戻った。

 ゆうねちゃんはすぐに見付かった。


「あ……」

「こ、こんにちは」


 一回、ねむりちゃんを置いて、ゆうねちゃんの所に行く。


「……先に行っておくけど、何が起きたかは聞いている。その上で、あの【魔法少女】は、ゆうねちゃんに攻撃が当たってしまったことを謝りたいんだって」

「え……?」


 少し信じられないような、驚いている様子なので補足する。


「本当は、二人が最初会った時、【高層ビル】を倒そうとするゆうねちゃんを援護しようとしたんだって。でも、攻撃が間違って当たっちゃった。だから、そういうことを理解した上で、お話を聞いてあげて」

「……もしかして、私ずっと勘違いしてたんですか……?」

「それもこれも、全部あの人から聞いてきてね。私は、ゆうねちゃんが悪いとは思ってはいないから」


 そっと背中を押して、ねむりちゃんのところに一緒に戻ってゆく。


「………………」

「あの、最初会った時、あなたが【高層ビル】と戦っている時に、間違って攻撃を当ててしまってごめんなさい」


 ばっと頭を下げる。


「勘違いさせてしまって、戦うことになってしまってごめんなさい。逃げるためとはいえ、攻撃してしまってごめんなさい」

「………………私が勘違いしていただけなのね。うん、許してあげる」

「ありがとうございます」

「恥ずかしいなぁ……仕方なかったのかもしれないけど」

「私は、ねむりって云うっす」

「あぁ、ごめん、私はゆうね、よろしくね」


 小さい声で勘違いを振り返るゆうねちゃん。これから頑張っていけばいいので、恥ずかしいなんて気にすることはないと思うし、私達は勝手に忘れてゆく。

 ひとまずは、二人は自己紹介をして、一件落着だ。


「用件は終わったわね……これからどうする? 街に戻るの? 止まっていく?」


 私はねむりちゃんに問う。


「すぐに帰らないと野垂れ死んだって思われるんで、帰ります」

「そう、ここの場所は分かる? 街までは帰れる?」

「あの戦った場所までも覚えてるんで大丈夫っす」

「そう、じゃ、また会いに行きたいから、この地図のどの辺に街があるか教えてくれる?」


 私はさっと地図の、この地域周辺のページを指を開いて見せる。


「そうっすね。この街がここで、あの戦場が……ここで?」

「この地図、文明が存在した頃の地図だから、地形はかなり違うかも」

「あ〜だと…………多分ここが私の街っすね」

「そう。ありがとう」

「また会えるのを楽しみにしてるっす」

「近い内に合いにいくから」

「じゃあ、帰るっすよ」

「じゃあね」


 そうして、ねむりちゃんはあっという間に帰って行った。


「とりあえず戻ろうか」



  ………………



 仲間ができた。謝ることができた。友達が、私と一緒に戦ってくれる【魔法少女】が一気に増えた。


 ずっと死にたかった。死ぬなら役に立って死にたかった。怖かった。一人で皆が私に期待して、私が【高層ビル】をどうにかしないと家族も街の人も生きてはいけない。戦って輝いて死ぬなんて許されることではなかったけれど、もう逃げたかった。なんでこんな力が私にだけ芽生えてしまったんだろうか。


 ずっと、怖かった。けれども初めて私以外の【魔法少女】と会うことができて、嬉しかった。それでも、私は役に立とうと、協力して【高層ビル】を倒すなんてことを経験したこともなくて、攻撃がその【魔法少女】のゆうねちゃんに当たってしまって、ゆうねちゃんは無残な姿になってしまった。

 勿論、敵になりたかったわけじゃないけれど、辯解も失敗して、私は逃げるしかなくなった。もし次に会ったらちゃんと謝ろうと思った。でも、その時もまただめだった。当然だ。人を殺すことのできるような攻撃をゆうねちゃんに当てしまった私と何故話をしようと思うのか。

 ずっと苦しかった。なぜ私はこんなにだめなのか。それでも、こんなことを母様に相談しては怒られてしまうし、私しか対処できない街の危機……かもしれないので、一人で抱え込むしかなかった。


 でも、奇跡なのか、もう一回見かけることができた。次は無いかもしれないと毎日考えてたから、最後の機会だと思って近付こうと思った。でも、少し近付こうとして、知らない女の子が二人居ることに私は気が付いた。そのことにびっくりしたのか、私にもよく分からないけれど、また何もできないで逃げてしまった。気が付いた時には結構な距離を移動していて、心の底から後悔し始めていたが、しかし、知らない二人、ゆめちゃんはとみりはちゃんは追い掛けてきて、私に話し掛けてくれた。そして、私に謝る機会と【高層ビル】を倒そうという協力を持ちかけてきた。……正直、何かの与太話か夢想の話かと思ってしまった。けれど、実際にあの写真を——【超々高層ビル】の写真を見てしまうと何故だか、本当の話なんだなと、心から感じた。

 一番の決め手は、謝れることだったかもしれないが、私は、その提案に乗っかった。


 今は少し気持が軽い。みりはちゃんにも謝れたし、ゆうねちゃんもみりはちゃんも、これから友達になれたらいいなと思う。そして、その二人は早くまた会いに来てくれるとも言ってくれた。

 すぐに来てほしい。私は一人じゃない。



  ………………



 それから暫くして、相方と二人で元の街に帰ることにした。勿論、ただ帰るだけではない。これから街同士で協力していくために、色々なことをするために帰る。

 この街に関する情報も結構集まったので、良い時機だ。


 現状、一般人が安全に街同士を行き来する方法はない。これからは、その移動手段を作っていくことになる。

 結局、戦うことになるのは【魔法少女】だけなのだが、一般人が移動できないということは、物資や食糧の輸送に支障が出るということでもある。そうなれば、【魔法少女】だって武器不足で戦えなくなるかもしれないし、あの街の食糧問題の解決も長引くことになる。【魔法少女】だけでそうしようとしたって、人数比で圧倒的少数なので、実行不可能だ。戦いにだって参加してもらわなければならない。


 ……本当は、今まで私がそういうことも一人でどうにかしてきたのだが、それではきっとつまらないので、行き詰まりそうになったら手伝う量を増やすことにしよう。それか、最初だけは行き来する方法を作るきっかけになるように手伝おうか。


 帰りの行程は比較的平和で、行った道は覚えているということもあり、行きよりも早い時間で相方の街に帰ってきた。


「おかえりなさい!!!!!!」

「無事だったか」


 久々の街は、やっぱり比較的活気付いていて、明るい雰囲気がある。あの寂れた街から帰ったので余計にそう感じてしまう。

 私の仮住まいだった場所に久々に帰ってきた。もう一人の【魔法少女】と、街の本部長が私達の無事を喜んで出迎えてくれた。


「ゆ〜い〜、ただいまー!!!! 大丈夫だった?」

「平和だったよ〜」

「良かった〜〜〜!!」


 ゆめちゃんとゆいちゃんはだきあって、再会を喜び合っているようだった。

 帰還の諸々も終わったところで、私達は、情報交換をする。

 私達が街で集めた情報や、今後するべきこと……これらは例によって本に纏めて渡す。そして、収集した物資も大量に渡す。


「確認しておく。先に戻っていていいぞ」


 机の上で、本部長の左手の支えになってい白のもふもふは無視して、私達は久々のシャワーを浴びることになった。


「三人だとシャワー室も狭いねぇ……」

「三人で入るところじゃないでしょ……、私とみりはちゃんだけでよくなかった?」

「私だって、久々に帰ってくる妹とは沢山仲良くしたいよ〜」

「……確かに、みりはちゃんは妹みたいな感じだけど」


 何もしなくても二人が洗ってくれるのは気持良い。久々の文明の力に洗浄されると、今までのこの世界の歴史は偉大なんだと感じる。


 シャワーを上がって、パジャマを着せられて、三人の部屋に戻る。


「どんな冒険だったか聞かせてよ〜」


 ゆいちゃんは、目をきらきらと輝かせて、私達に問うてくるので、本部長に渡したものと同じ本を渡しておく。


「そうそう、まずはさぁ……——」


 ゆめちゃんが私達の行き帰りの話をゆいちゃんに沢山話す。

 そんな中、私は眠くなって、そのまま寝てしまった。



  ………………



 翌朝、私は一番に目を覚ましたので、仲良く寝ているゆいとみりはちゃんを置いて、本部長のところに行った。


「あぁ、起きたか。大変だっただろうから、もう少し寝ていてもよかったんだぞ」

「いえ、起きてしまいましたから」

「そうか。……それで、行ってきた街の件のことだ。取り敢えず座ってくれ」


 本部長は、この纏め役。街同士で協力していくので、本部長がこの街を主導してくれる。


「まず、一つ目の街が無人だったということは無線通信で聴いたが、それ以降は通信が途切れて聞けていない。話を詳しくしてほしい」

「……通ってきた道とか、地理情報とか、その他は渡した資料とみりはちゃんの本の通りです。それで、通信が途切れてから、少しした時の事なんですけど、みりはちゃんが二番目の街の【魔法少女】の一人の、ゆうねちゃんっていう子に攫われてしまったんですよね。というのも、私達の云う二番目の街の地形は大きく変わっていて、街が分断されて二つの遠く離れた知らない街同士という感じで、お互いのことを認識していなかったようだったんです。そして、その二つの街の【魔法少女】同士が初めて出会った時に、行き違いで敵対しているのかと疑心暗鬼になったことが原因で、私達も敵の街の人かって思われてしまったんです。まぁ、結局、その二つの街は和解して、私達とも協力してくれるので問題は無くなりましたが。更に言ってしまえば、そのおかげでゆうねちゃんと、ねむりちゃんっていう【魔法少女】の子と仲良くなれたので……良かったですけれど、みりはちゃんのことを守れなかったことと、どうにもみりはちゃんとゆうねちゃん攫ってしまったことでぎすぎすしてしまったのは良くなかったかと思います。私達は、ゆうねちゃん側の街にしか行っていないんですけど、その街は食糧の事情が厳しいようなので、私がその街に私達の街から食糧を支援するって言ってきました。もう一つの街の方は分からないんですが、その街にもねむりちゃん一人だけしか【魔法少女】が居ないので、ねむりちゃんに協力をしてほしいということは伝えました」

「そうか……大変だったな」


 長文を言うのは疲れた。

 ゆっくり、私の言ったことを考えて、それでそう言ってくる本部長。これから先は、本部長の仕事でもある。


「とりあえず、食糧に関しては問題ないのだが、かねてよりの問題はそれの輸送方法だ。……みりはの収納能力は優秀だが、一時凌ぎにしかならないのだろうし、協力する街が増えたら、それこそ【魔法少女】に頼ることなく輸送し合う必要がある」

「普通の人でも通れる道を整備できたのなら……」


 【高層ビル】は、少しでも不安定な地形ならば、そこには入ってくることができない。それを活かして、新しく情報を描き込んだ地図から街同士の移動ルートを開拓していきたい。

 しかし、ルートを開拓したとて、移動手段はあるのだろうか。車という機械自体は存在するが、燃料は昔に尽きたらしい。徒歩も不可能ではないし、私達だってそうしてきたが、それで食糧を充分運べるとは思えない。馬などは、遠く昔の時代に廃れたそうで、一匹も居ない。


「まぁ、持ってきてくれた情報で、そういったことは大きく進むと思う。寧ろ楽観視してもらっていいくらいだ。本当に感謝している」

「ありがとうございます」

「他の情報も踏まえて、今後の事は考えていく。数年では終わらない可能性も有るが……それでもやるしかないな。これは私達が考えるべき仕事だ」


 話は終わって、退出する。

 何というか、今まで感じていなかった達成感というやつを漸く感じてきた。


 命の危険が無いわけではないし、逃げ出したって誰も文句は言えないだろう。それでも、私はまた私達にしかできないことに挑んでいきたいと思った。


 部屋に戻ると、二人は起きてきて、まさみさんが朝食を作っていた。


「二人ともおはよう。まさみさんも」

「朝ご飯、ゆめちゃんもどうぞ」

「ありがとうございます」


 相変わらずみりはちゃんは黙々とがっついている。みりはちゃんは、こうしている時が一番幸せそうだ。ちゃんと頭を撫でておく。

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