「告白」

「ラジオのこと、会議で問われただろう。私がそれを持ち込んだ。」

なぜそんなことをしたのか。同志ピアザ、元私の秘書は常に友好的であったはずなのに。

「君が泣いて縋ってきたのを忘れたのか。便所で助けてやると言ったはずだ。ただその時は外の治安が良くなく、君への反対勢力と反労新のレジスタンスがはびこっていた。もしも君の部屋に窓があったら、秘密とともに脳みそをぶちまけられていただろう。」

あの失望の夜のことだった。しかしそこから私は這い上がって、ようやくマシな生活へとなったというのにそれを壊されるのはたまったものでない。怒りの矛先はその男の首元へ、長い腕を伴って向けられた。途端、その男はいきり立った。

「ずっと…!君の我がままを実現してやったのは誰だと思っている!これだけは忘れたと言わせないぞ。かの議会で君が王銀からの贈賄を隠そうとかしていたことだ。あの時に君がすぐ認めて償えばよかったものを、隠すなどと抜かしたせいで面倒になったんだぞ!その事件では追求してきた野党を妨害しようと私がいくつもの夜を徹して作った計画書を、君が勝手に持ち出した挙句、酒に溺れて酒場に置いてきたではないか。そのせいで議会ではそれで持ちきりになったし、君から叱責を受ける羽目になった。誰のせいか知らずな。」

呼吸を制限されているにも関わらず、耳を破るような声を発する。それは無意識の罪人、私への強烈たる怒りでなせるものだろうか。時折、首を激しく振って抵抗してきたので、その反動で手を放してしまった。

「これはそのクソったれへの梯子だよ。まったくの善意、もったいない程だ。君が仲間を救えなかったくせに、おろか見殺しにしたくせに!」

「結構なことを言ってくれるじゃないか。いいか、生存に倫理などいらない。すべては『仕方ないこと』として処理される。私は無罪だ。君の善意は聞こえが良いだろう。だが非常時にそれは邪魔でしかない。鬱陶しくて仕方がない。そんなごみを私に押し付けるな!」

「その善意なくして、君はパンもコーヒーも、そしてこのラジオさえも…!」

「今の私を苦しめているのはそのラジオだ!」

口論はヒートアップ。互いのスーツを掴みあったりしたせいでヨレヨレにもなる。かつてからの共闘関係は、いま瓦礫となって崩れ落ち、その破片は廊下を渡る老党員の耳を突き刺す。

「恩知らず!おまえに生きる資格なんてない!」

ピアザは、腰から出したピストルに指をかけた。余裕、遊びの部分まで指に力が入る。

「正気か!ここで殺せば目撃者も残るぞ。ここの軍事部の野蛮さを知っているだろう。奴らは君をミンチに仕立て、食事メニューに混ぜ込むだろう。その思いまでして私を肉骨粉にしたいのか!」


黙れ!____響くうちに、銃弾は空中に在った。

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反逆者どものラジオ逃亡記 @sondnichirin

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