「告白」
「ラジオのこと、会議で問われただろう。私がそれを持ち込んだ。四年前、あなたが入党するときに私が説明をしてくれた、と赤い布の闘争部は言ってくれただろう。本当は闘争部なんてものは存在しない。更に言えば、赤い布を巻いている突撃組織などない。労働者新党は政党であって、あの事件以来、暴力路線は放棄した。君を撃ったのはただの市民団体だった。君は瀕死の状態で倒れていた。中継所付近には労働者新党党員は来なかった。君にがっかりさせないよう、彼らに”嘘を言ってくれ”と頼んだ。君の残していた金を使って渋々受け入れたが、それを実現させるために大きな施設が必要になった。君の部屋は実のところ二階だ。所詮、小規模な団体が持てるのはこれぐらいだ。だから四階と書いておいて、なんとか君に階段を使わせないようにしたのだ。」
私は何も理解が出来なかった。嘘と言うには、設定がしっかりとしすぎていた。テレビ放送はあったし、食事も、兄弟国家の日も。それはどうしたと聞けば、「テレビ放送だけは本物だ。食事も安く作れるものだけで揃えた。しかし、兄弟国家の日に特別メニューが出ただろうか。」思い返すが、そんなものを食べた覚えはなかった。そもそも、そんな日すらなかったように感じる。「どうにか信憑性をもたせる案だったよ。テレビ放送ではそんな事を言ってるもんだから。しかし彼らは反対だった。協力的に見えるような彼らでも、君は敵としか見れないからね。」秘書は”保健省命令、使用禁止”というはんこが押された、あと一錠しか残されていない薬を見せてきた。一六錠分そこに穴が開いている。「君は飲むように言われた薬があった筈だ。今言ってしまえば、日頃飲んでいたものは意味がない。こいつだけが意味を持つ。しかし、こいつには体内に留まり続けるという厄介な成分があってな。これが丁度一七錠で致死量レベルなんだ。流石にこれ以上、君をここに残しておくと死んでしまう。それに、市民団体からも、もう十分だ、ということになっていて、君を自由の身にさせてあげたかったんだ。」”もう十分だ”という言葉で、私が受けた暴行の数々が蘇った。今も腹部と胸部には、C型の傷跡が黒っぽく凹んでいる。傷跡を見るだけで頭痛がしてくるほどだ。「君が逃げ出したいと言った日、トイレで話し合ったとおりだ。出口まで案内してあげよう。君は部屋で準備をしていてくれ。準備でき次第、脱出しよう。」
着替え、荷物共に鞄に入れてしまうと、秘書の居た部屋の前で待った。扉越しに、ラジオは残しておくか?と聞かれたが、持っていきたい旨を伝えた。少し時間がかかり過ぎだが、秘書も出てきたので”党本部”より出ることにした。出る途中、もう一度私の秘書になれるか、と聞くと、嫌だね。苦労が多すぎる、と返されてしまった。そう言われてしまうと納得できてしまうのが悔しいところだ。”四階”から一段一段降りると、急に一階の文字が現れた。見ると、このフロアだけ閑散としており、清潔感を感じられない。眼の前には確かに大きな扉がある。逃げられないように鍵がかかっているが、秘書がすんなりと開けてしまった。「それでは、失礼しました。」と一礼し、私と共に自由の身になった。こうしてみると、六階の建物と信じていたのが疑われるレベルの小ささだ。思っていた半分しかない。私の部屋あたりには木の板が貼られており、隠そうとしたことがよくわかる。では帰ろう___
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