「裏切り」

ある日、政治部党員が、軍事部の昇級試験に不備があったので再度試験を行う案を提出した。軍事部員は猛反対。数々のことでお世話になっていた私は、ここで反対を表明する。結果は、一一八対二八二で否決された。しかし、数日後この採決が覆ることになる。土曜の昼食時に秘書から聞いた話では、政治部の大物党員が、軍事部の党員を軟禁し、賛成票を投じるようにさせられているらしい。このようなことはあってはならない。この思いで私は、その二日後に会議で告発した。だが、反対意見は政治部だけでなく、軍事部からもあがった。議長から、事実に基づかない発言をやめなさい、と言われ、強制的に発言権を取り上げられた。十分な発信が出来ていない中で採決となった。賛成三九三、反対七という圧倒的な差で可決された。軍事部の党員は”公正なる判断の勝利!”と一同に叫んでいた。

 三日後。私への懲罰決議案が提出された。嘘の発言、昇級試験での不正、他の党員の品位を貶める行為、禁止品持ち込みが罪状だった。大多数が除名、つまり党から出ていくように望んでいた。私はやっていないと主張し、何も証拠がないことを訴えると、議長がラジオを取り出した_____これは、中継所に潜伏していた頃のものだ。私にはなぜこれがあるのかが理解できなかった。どこに在ったのだ、私のものであるのか、と反論すると、このラジオは同志スルガの部屋より見つかっている。軍事部特別捜査委員会によって指紋が一致していることが確認されている、と返されてしまった。議長は続けて、禁止品持ち込みは重大なる罪である。この罪を認めない場合はこのラジオが貴方のものでないことを証明しなさい、と述べたが、確かに私のものである。しかしながら持ち込んでいないので、その旨を伝えるが、嘘つきだ、お前以外に誰が持っているんだ、とヤジに押しつぶされてしまった。私が声を荒らげて訴えようと息を思いっきり吸うと、穴を塞いでいたピンが折れてしまった。スーツの中で転がりゆく針に気を取られていると、私の持ち時間がなくなり、採決に入った。軍事部の座席には、私の味方が誰一人いない。結果は、満場一致で除名ということになった。

 私は何のために苦痛に耐えたのだろう。返却の名目で渡された、昇級試験の答案という紙には、私のものでない雑な字で、党の破壊と人民の弾圧について書かれていた。私を試験で通した審査員も職務怠慢として党から追い出されることになった。労新党と秘書との最後の一日、秘書が罪を明かした。

「私は大きな罪を犯した。」

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