「立ち上がり、成り上がり」

 部屋に戻り、点けっぱなしだったテレビを見ると時刻は二〇時だった。風呂の案内は来ていないので、しばらくは暇だ。コリヤは電気状況が怪しいらしく、テレビ放送は時短されることになった。仕方がなく、広報チャンネルを視聴していると、討論番組がまだ続いていた。私が罰を受けていたのは、いくら少なく見積もっても二時間は下回らない。そこから同志ピアザとの会話が十分…一つの番組が終わっていてもおかしくないのに、一体何時間話し合うつもりであろうか。観衆にそれほどに伝えたいのだろうか。労新党の代表を見ていると、ドットだらけの画面でもシワのない背広を着ているのがわかる。党内部の現実はそんな華やかでない。男も女も老人も若人も、毛羽立った服を毎日着ており、その現実との差が際立つ。党員の衣服すら、まともに提供できておらず、しかも恐怖支配・完全縦型の社会というこの党に、サンサリアの政治を任せては、人民を弾圧する国になってしまう______いや、私の望みはそれだ。暴走を覚え、暴走しかしなくなった国民を鎮める、そんな支配組織が理想だったのだ。党は銃を持つ。数年もすれば兄弟国家のお下がりが来て、力は国軍を上回ってくるだろう。党は金も持つ。王銀の征服が済めば、国家予算を上回る上、国は金を持たなくなる。影響力を強く持ち始めた我々に刃向えず、国民は侵略される!そうして清いサンサリアが創り上げられる。苦難のあの日々に思ったように、やはり素晴らしい熱意と殺気に満ち溢れた党だ!私は一度挫けた心を建て直し、最初の志を取り戻した。



 

 党の統一昇級試験に合格した。一級党員の死去の穴埋めのため狭き門だったが、私は通過することが出来た。過去に、所謂名門校(党によって破壊されたが)と呼ばれるところの入学試験を特待生レベルで合格したことはあるが、恐らくそれよりも倍率が高く、努力は必要だった。努力・傷・嘔吐・怒号・涙の末、入党から四年。党内での上位数パーセントに昇り詰めたのだった。一級党員には秘書がつく。私には同志ピアザがつき、もう一度”秘書”という立場で接することができるようになった。秘書は、軍事部に所属しているらしい。勘違いをしていたのだが、政治部だけが党の会議に出席できるわけではなく、軍事部もある程度の発言・提案をすることが認められている。それどころか、過去には政治部の党員を軍事部がリンチし、無理矢理に会議で通したらしい。秘書は、決して君を利用しようなんて思ってない。むしろ君が軍事部の強い力を動かせるのだ、と仲間であることを誓ってくれた。

 政治部一級の権限は非常に強い代わりに多忙だ。私たち自身が党のようなものだ。起床は四時からになり、会議は早朝と夜の二度。その代わりに当番制が免除される。部屋は相変わらずの鍵なし・スイッチなし。それでも一級党員としての誇りが色づけてくれる。こうして難しい企画案を読んでいるときの心は、中央議会議員時代を思い起こされる華やかなものだ。 

 一九時、この日の第二の会議が始まった。この会議には軍事部が参加するため、会議場は一層広くなっている。私のまとめた企画案を提出し、その説明を行うが、ベテランの政治部党員からはヤジ、ヤジ、ヤジが飛び、それに埋め尽くされてしまいそうだった。しかし軍事部は、そうだ、そうだ、という大きな歓声をあげた。この勝負の対決は、二七八対一二二で賛成派の勝利となった。反対を出した政治部党員からはまたヤジ。議長がなだめ、散会を告げても、私が会議場に背を向けるのも億劫な程にヤジが飛んだ。この日のヤジは、ベッドで横になっても耳の中で響いていた。しかし、絶対に負けないという意思を強めてくれた。

 数週間の間で、私の企画書は五つ通った。多くの案を政治部党員に反対されていたが、ヤジに慣れていた私の心と軍事部のお陰で通すことができた。

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