「当番」
掃除は基本、居住フロアに住むものが行う。一人ひとりに手袋とブラシが渡されるので、担当部分の掃除に当たる。床の掃除ではなく、便器を磨くだけだ。残念ながら、トイレは現代化が進んでいないようで、悪臭はそれなりにした。掃除をしていても、汚れがブラシに付きまくるということではなく、長年の汚れが大きいのだろう。十分ほど掃除したが、見た目は掃除前とそこまで変化しなかった。代表が解散を告げると、そのまま部屋に帰された。掃除時間が長くなかったのが幸いだが、それでも鼻を突く悪臭は今も思い出してしまう。夕食のときでさえ思い出してしまわないだろうか。一週間に一度と、頻度は少ないのだが、できるならば次の週から参加したくない。
次の仕事は風呂場掃除なのだが、それまでの時間は夕食をゆったり食べられるほど長い。またコリヤのチャンネルでも観て暇を潰そう。そう思ったが、次は子供向け番組らしい。風船のような幼い文字で書かれたコリヤ文字が、いかにも幼児向けだと認識させる。一応観るが、すぐに羞恥心を覚えてしまった。こんなものは私のような大人が観るものでない!チャンネルを広報チャンネルに切り替えた。これは何の番組だろうか。国営局で放送された王銀の対談番組に対し、デタラメだとか反論している。話している感じ、長くなりそうなので他のチャンネルに合わせる。もう一つの広報は、広場や市街地での演説の映像、教養チャンネルは料理、外国語、政治学だった。他の外国チャンネルを観てみるが、古い映画の再々々々々放送であろうものや、教養チャンネルで補完できてしまうものだらけだった。仕方がないのでテレビは諦めて、同志ピアザと話でもしてこよう。彼ならいろいろと愚痴を言えるはずだ。部屋へ向かい、やあ同志と挨拶を交わす。コリヤチャンネル好きだろう彼も流石にテレビを切っていた。中に入れてもらって、ゆっくり話すことにした。が、彼は秘書時代と比べ、ガツンとした言葉を言わなくなってしまった。何があったと問うと、電灯とテレビを気にして、監視を忘れるな、と小声で伝えた。そのすぐ後、このようなものが全てに広まっているのだ!と、成果を誇るように言った。仕掛けがあるということがなんとなくでも分かった。最後に、今の立ち位置はどこかとも聞いたが、また小声で教えない、としか言ってくれなかった。
”監視を忘れるな”私はその言葉を非常に気にした。やはり本がきれいに積まれたのはおかしかったようだ。同志ピアザは、電灯とテレビを注意深く見ていた。私もそのあたりを確認してみるが、どれにマイクだのカメラだのが入っているかわからない。本当に監視を受けているのかも怪しいのだが、これからは慎ましく居なければならないようだ。詳しいことは、監視のないような場所で彼に聞いてみたい。さて、扉の前には夕食の用意がある。昨日と全く同じ、冷めたキャベツと豚だ。報道のあった兄弟国家の日が待ち遠しくなる。その日までは献立は全く変わらないのだろう。しかし、不満そうな顔を出してはいけない。水っ気が多いのをこらえて、パンと一緒に口へ運んで食べる。食事後に飲む薬がチラチラと視線に入ってくるのだが、さすがに食事中にこれを飲んでしまえば食事が台無しになってしまうだろう。小ぶりなパンはすぐになくなってしまった。食事中は味について何も思わず、革命後成立国家の教育論について考えていた。塩の味以外、キャベツの青臭いのが口の中に広がるからだ。こうでもしていないと完食できる気がしない。食事後は苦すぎる薬を服用するのだが、むしろこっちのほうが青臭さを忘れるのでありがたい。薬に負けてしまう料理など、どんな調理法で作ってできるのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます