「眩い希望」
目が開けられなかった。起きてしまえば、拷問が早まるからだ。ここには、人を噛み切れるほどの大きな刃物があり、歯向かえば数百ボルトの電気が流れる拷問器具だってあるはずだ。死ぬまでの間、私は非国民として大衆に晒される。結末は昨日見た夢と同じだろう。それまでは一秒でも長く、”自由”な状態でいたい。ところで、秘書はどこだろうか。
目を開けていない間、波のような不安が襲い来る。あの時の右腕の衝撃が今も身体を引っぱる。わたしはあの時、どれほど出血したのだろうか。右手は動くのだろうか。腕を高く伸ばしてみると、しっかりと筋肉と骨で支えられているようだ。目を閉じたまま左手で右腕を触ると、どこか縫い付けたような跡があった。起きましたか、という声が聞こえてきた。腕を伸ばしたりしたものだから、ここにいる奴らにばれてしまったようだ。奥から走ってくる足音が聞こえる。もう仕方あるまいと目を開けると、上の方に白い幕のようなものに文字が書かれていた。が、ぼんやりとしていて読めない。前に三人の男が見える。太いの、細いの、背の高いの。僅かな視覚でそれが確認できた。すべてのことは秘書の方から聞いております、と、背の高いのが言った。もういちど上を見ると、”闘え!労働者新党”、という文字がはっきり見えた。私は希望を持つことができた。彼らであると信じて良かった。話を聴く限り秘書は無事らしい。太いのが野太い声で、少しだけ話をさせていただけますか。準備ができています、と言ったので、立ち上がることにした。
彼らは非常に礼儀正しかった。テロを起こすような集団と思えないほどにだ。政敵である私を恨んでいるという素振りも見せず、むしろ私を受け入れようという態度がよくわかった。労働者新党には、多くの業種の人間が所属しているらしく、腕の怪我を治してくれたのは、このパイプを使って来てくれたとある名医だという。一切恐ろしいという感情を持つことなく、話を終えることが出来た。最後に、私はどこに属するようになるのか、と訪ねたが、それは回復度合いによって変わるという。
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