「ニュースはそう言っている」

__奴らは本気らしい。きょう未明、王都近郊で労新を名乗る集団による要人誘拐・銀行打ち壊しが起こったと、朝一番のニュースで取り上げられた。王立銀行に備え付けられた防護用の銃、銃弾ともに鹵獲されたらしい。銀行の窓に貼りつけられた紙には、順次、住宅街へ突撃する、となぐり書きで書かれていたという。私の潜伏する場所は、通信という部分でそれなりに大きな役割を果たす。彼らはこの町に乗り込んでくるだろう!私はそこで降伏する。秘書はようやくそれを認めてくれたが、私が彼らの戦闘に参加するということには反対だそうだ。しかし、順次というものがよくわからん。どれくらいの時間がそこまでにかかるのかということだ。知らぬ間に町を荒らし尽くして通過されてしまえば、私のチャンスは潰える。詳細な時間を知りたいものだが、彼らが対策されるのを嫌っているのは重々承知なので仕方がない。それでも、いつからいつまでに完了するという、大雑把な予定ぐらいは言ってくれてもいいのではないか。___私は食事のことを忘れて、そんなことに浸っていた。開けっ放しの缶コーヒーの縁に茶色くコーヒーが溜まってる。一度、ニュースを置いておいて、朝食を摂ろう。秘書はもうとっくに完食している。



 ライ麦パンにジャムを塗り、独特の味をかき消す。これでも独特の酸味と食感は残る。コーヒーで流し込めば忘れられるが、コーヒーを飲み尽くせばジャムだけしか頼りにならない。そこからはスピードで食べないとならない。風味が来る前に食べてしまわなくては。未だ慣れない味が私の体を若干揺らす。ジャムの甘みとパンの酸味が分離し王にはており、ごまかしが効かない。結局、昼食に残りの分を回すことにした。

 秘書はどのようにして完食したのだろう。もともと、この町のようにライ麦パンが主流な場所で生まれ育ったのだろうか、私は履歴書を見ることなく、訛りがまったくないから彼を採用したので不明である。それとも、私と同じように我慢をして食べているのか。彼は割と忍耐力がある方だ。私の仕事に長い間ついて来ているのだから。定期的に彼に辛くないか、と聞いてみると、苦笑いをするだけだ。政治の世界には辛いことが多々ある。それは私も流れてくるニュースにもわかることだ。『中央議会再起議員連盟』を旗揚げした二〇名弱のメンバーのうち、七名が不審死、または行方不明というニュースが流れた。未だ国民からは議員に対するヘイトが強く残る。真相は不明だが、過激派によって毒を盛るなり誘拐なりされたに違いない。この国の混乱は何時になったら収まってくれるのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る