「愚痴は怒りに」

昨日より冷えている気がする朝。秘書は電器街に行く。まともな防寒具はここにないので、私の背広を貸してやって内側に着せた。無機質なコンクリートで打ちっぱなしの環境では寒いが、包まって体を保温するしかない。ラジオはあるので暇はつぶしておけるだろう。聴いてみると、だいぶ言葉は濁していたが王立銀行が経営的に危ういらしい。その関係で役員が一新され、新たな道を歩み始めたという。金関係は本当に国民のメンタルに影響してしまうのでどうにか立て直してほしい。これは、私情なのだろうか。王銀を想う心なのか。噂には海外の大手グループに株を売っぱらうという構想が出来ているそうだが、明らかとなってしまえば国民は怒り狂い、暴徒と化すだろう。だがそれが、ソトゴン王の命じたものであれば、一転否を認めたように静まる。この国の国民は王を盲信している。王の信じることが一足す一が一、であっても、異論を唱えれば弾圧される。これまでに王から受けたお恵みたる教育を放っておいてだ。実際、教育というものを分け与えているのは私達知識人であるというのに。ソトゴン王は、国王陛下のおかげだ!、という声に微笑んで、それを否定する素振りすら見せていない。今言ってしまえば王は不要かもしれない。確かに政治に参加はしない、と法に書いていたのだからもともと力は持っていなかった。それでも国民の信仰の対象として、社会の安定に寄与する、と、その立場は守られてきた。ソトゴン王には今の惨状を見ていただきたい!王の存在がもたらしたのは治安の大悪化だ。貴方が言い放った参加できぬ、で国中は馬鹿馬鹿しい戦争状態に陥った。王には国家の安寧を任せられない。真反対にぶち壊したんだ。それに社会の安定に寄与するのであれば、より国民に寄り添わなくてはならないはずだ。擦り切れたテープのせいで顔はノイズまみれ。幾つか前の議会では、ソトゴン王は誰であるか、という画像選択問題に三割の高等学生が間違えたという問題が取り上げられた。教師がテスト後に問いただせば、別の人物のほうがいかにも高貴に感じられる、という回答を多く得たともいう。国民は誰が王であるかはっきりしていない。そのくせして絶対的存在であるという認識を持ち続けているのだから厄介だ。改善のために手立てをこちら側が打つことは出来なかった。法に、王は賢者である。議会や民衆は王に行動を呼びかけてはならない。、とあるからだ。その王が何も考えていないなんて今まで認識していなかった。王はただの人間なのだ。王座に座っているべき人ではない。

 秘書が帰ってきた。言ってる途中にも薄々思っていたが、やはり極左集団はいなかったそうだ。毎日毎日、外でいれば身元を明かすことになる。大事件を乗り越えた集団であるならばそのくらいの思考はできる。もしもビラがあるのであれば、少しは情報が掴めそうだが、秘書が取りそこねたのでわからずじまいだ。今わかっているのは極左集団のその名、『労働者新党』略称『労新』だ。あの事件があり、議会でも賛成多数でテロリスト認定がなされた集団である。政党を名乗っているが、テロリスト認定がされた集団は候補者を立てられないので、武器を持った政治サークルといったところだろうか。選挙という公平な機会を失った彼らは、武装で国を獲ろうとしている。国民にとっては、不定期的にドンパチしている集団がやってくるのだからたまったものじゃないだろう。そんな彼らを推察以外の確立した情報から知るには、奇跡的にビラを受け取るか、安全な内に図書館で読み漁るかだけだ。

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