「敵との共闘…?」

秘書が会話の中で、電器街のなかでビラ配りをしていたという極左集団を取り上げた。それが本当なのだとしたら、今頃国民共は打ち壊しにあたっていることだろう。怖いもの知らずの連中だ。息を潜めておけばいいものを。当人であると分かれば、二,三人ほどは食料探しの職を与えて住まわせてやれる。それに、名を聞く限り王立銀行襲撃などえらいことをやってくれている団体である。ちょうど資金が危うくなりつつあるので、今すぐにでも呼び込みをしたい。しかし、秘書はまたあなたの考えと相反する、と言ってくる。確かに、王立銀行襲撃には当時の私も憤慨せざるを得なかった。私は国王陛下を愛していたからだ。今もなお、尊敬の対象だ。国民をどう押さえつけるかにそんなことを考える余裕など少しもない。この国の知識人たる政治家が、恩知らずの低能民衆に殺されるのだ。能のない愚民に政治ができるか? それに比べ、弾圧にねじ伏せられなかった彼らは勇敢である。王を斬首せよ、の掛け声を共にあげるわけにはいかんものだが、彼らの言うプロレタリア革命という名の暴力革命。それは国民に恐怖を植え付け、再起不能にさせることができる。銃弾と血と人肉の雨を浴びれば、革命政府樹立の如何にせよ、国民が声を失うのだ。

 だが秘書は猛反対だ。誰のために立候補したんだ、と。立候補の理由は輝かしく見えるが、現在にそれを通用させることは出来ない。国民にヘコヘコと頭を下げてばかりの知識人は、国の仕事に協力できない。愚民の命を気遣ってはいけない。「国の大きなことは頭のよろしい人にまかせておきましょう。」これは選挙のときでも国民と合意したはずだ。国民は議会に足を踏み入れない。その頭には法律を編めないからだ。私達知識人は国のために貢献する。国王陛下が国民の好きなように、と選ぶことを許されているが、必ずしも国民のためではない!存続も発展もできてない状況で、国民に幸福を引き渡すことは出来ない!この点で、思想の方向性は違えど、国のために働いている極左集団は私に合うかもしれない。だが、私自身もそうだったように公的機関が認めていない上に、国民の怒りの方向と真正面にぶつかっている。存在さえしてくれれば私としては嬉しいのだが。

 思いに耽ると、またラジオに電気を灯していた。購入後すぐ以来、冒険することもしなかった周波数表示紙は、麦球の僅かな熱でさえ焦げてしまいそうである。この手のラジオは受信感度によって光が明暗するのだろうが、こいつは常にでたらめな光り方をしている。いくら色が暖かいとはいえ、吐息は白い。気象予報で強烈な寒波の襲来が叫ばれるのだから、まだましな部類である。そこからのニュースは特段胸があたたかくなったり、背筋が凍ることもなく、昨日のニュースのほぼ繰り返しだった。期待している極左集団は取り上げられないのか。いや、取り上げられないほうがまだいい。私達のような境遇に置きたくない。私が彼の名を知ったのは、新聞の表紙に大きく出た『王立銀行強襲事件』だった。実行犯はすべて逮捕されたが、盗まれた金は見つかっておらず、指示役と見られる幹部も未だ顔を知られていない。彼らは非常に有能な集団なのだろう。得られたものを失わず、取り調べで指示役の名を口にしなかったのだ。新聞紙一枚で暴徒になる野郎どもよりずっと冷静だ。ぜひとも仲間にしておきたいと渇望してしまう。本来ならば政敵にも関わらずだ。気になったので秘書にどのような顔ぶれだったかを聞くと、赤い布で顔を覆っている男どもで、屈強そうなものから貧弱そうなものまでいた、との回答を得られた。普段ならそんな格好をしないだろうから探し出して話しかけることはできなさそうだ。秘書に明日もそこに行くようにだけ伝えて、今日は休むことにした。ラジオによれば、只今二〇時、銀行は信頼のソトゴン王冠のあるところで、とのことだ。

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