「避難生活初日」

新聞の取り上げようは凄まじいものだった。各々が「国王陛下のご容態を鑑みず」「無知が生み出した愚劣な法案」と表紙に打ち、民衆から全中央議員に罵声と生ごみが投げつけられた。一ヶ月経っても記者からの激しい質問攻めが続き、心身ともに疲弊してしまった。過激派団体には議員寮を放火され、ついにはろくな睡眠場所がなくなってしまった。仕方がなく民間の家に泊めてもらっても、それを嗅ぎつけた地域住民が「国王殺しの不敬野郎」「匿っている人間も同罪」とビラ・落書きが家中につけられ、窓は割られる。扉は壊される。挙句の果には住人もろとも刺されて死ぬ。その呪いは地域全体に広がり、今度は弾圧していたその地域住民がほかの地域からの弾圧を受けることになるのだ。この調子で中央議員は半分以下に減ってしまった。辞職なんて生易しいものでないのは言わずもがな。

  国の混乱が静まるのを知らないところ、ひとり身を国営放送局の無人中継所に隠す私であったが、秘書に頼んだ食料が底をつきそうである。秘書は新聞への露出は今の所ないのだが、どこか勘づかれそうな予感がする。というのもどこかあいつには抜けている部分があるのだ。現役時代(形式的には今も現役なのだが…)には、野党とのトラブルを丸く収めようと色々工作していたとき、秘書がその全貌を”うっかり”バレてしまったらしいようで、私は後の議会で大変追求されたのだ。勿論、バラすつもりなんて微塵もなかっただろうし、そんな前のことを彼を責める気はない。むしろその教訓で言っておいた「外部に露出するな」という戒厳のおかげで、私はこうして生き延びているのだから。だが、どうしても心配である。

 ここはラジオの受信感度が素晴らしい。有事教育で覚えさせられた鉛筆ラジオでもノイズをあまり感じない。電波の強さは、心なしか体が若干気持ち悪くなるぐらいには強い。ありがたいことに、自分にとって有力な情報もここで仕入れた。中央議会はテロリストらしきものによって武装支配がなされているらしいこと、国民の大多数が議員殲滅に賛成であること。危険な地域、食料が確保できる地域の位置、そして電器店で型落ち品が大幅値下げされていることである。いつまでも鉛筆とカッターを、狭苦しくてネズミの居そうなほど暗い地面に広げるのは怖いものだ。それに音量調節が効くのと、中継場内に一般家庭で使えるようなコンセントはあるので、発電所まで暴動が起こらなければ使用可能なのだ。今日の朝、鉛筆ラジオから抜き取った鉛筆の芯で、落ちてあったホコリまみれのわら半紙に型番と場所を書いておいて、紙幣を二枚ほど渡しておいた。夕方まで、真っ黒い酸いパンのみで一人居なければならないというのは心細いが、乗り越えられれば一週間延命できて良い音質で良い音楽を聴けるのだから心待ちにする他ない。

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