本編 「意図せぬ反逆」
最後の神祭より一六年と少しであり、神祭の開催がそろそろ囁かれる頃である。あの演説のテープが擦り切れかけ、映像に国王陛下を覆うノイズが入ってもなお、それが国王陛下の姿を見られる手段なのだ。今度の神祭も国王陛下が演説をしてくださるに違いないだろう。なぜならば、聖職者の多くは切に望み、中央議会議員の噂話でもそれが聞こえてくるほどなのだから。国王陛下も演説を願われるだろう。
「みなさま、静粛に願います。静粛に!……神祭の国王陛下参加につきまして、重大なる知らせがございますので、中央議員のみなさまは直ちに所定の位置にお戻りください。」
議会では、これまた一人の反乱者すら出さず、可決がされた。後は国王陛下のご意見を仰ぐだけだ。前回の神祭で見せた満足気な顔、沿道の観衆に手を伸ばしたそのお姿からして、出席は確実になる。
「全員の着席が確認されましたので、国旗の掲揚ならびに国歌の斉唱を行います。」
黄色く力強い、サンサリアの旗が議長席後ろより堂々と昇る。同時にこの世で一番の旋律が、中央議会の裏にふいごのついたオルガンより叫ばれる!私達も王と公国を讃え、永遠のものにする誓いを旗にしなければならない。
「ご着席願います。本日の議会を開始いたします。本日の議題の神祭の国王陛下参加につきまして、王室の方よりご回答がございましたので、代読をさせていただきます。」
低く唸る咳払いをし、喉仏が上へと動いた。尊厳のために、裏返った声など斬首に等しい。
『国民のみなさまの多くの希望、誠に嬉しく思います。みなさまより、絶大な信頼を受けているということを実感する次第です。さて、議会での可決となりました私の神祭参加についてですが、誠に残念ながら出席を辞退させていただきます。理由としましては、ここ数年での急激な体調悪化によるものです。現在、声を出すことすらできません。みなさまのご期待を裏切るような行為であり、誠に遺憾です。申し訳ありません。』
議長は何度かこの短い文章ですら読むのに詰まってしまった。議員が感じていることと同じであろう。このような状態であることを知っておけば、国王陛下にこんな苦しい思いをさせなかったのに‥
「決議をいたします。国王陛下のご回答を根拠に、神祭への不参加を認めることに対し、賛成であるならばご起立願います。」
起立は全員が行ったが、バラバラのタイミングとなった。不参加は言うまでもなく可決された。
「本日はこの議題で閉会いたします。」
やじは勿論飛ばず、議員は出口へとぞろぞろと抜け出した。全員の思いは一致していたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます