第6話 「お、噂をすればなんとやらだねぇ」

 そういって気合いを示すように小さく拳を握るアヤメに、そんなアヤメを見て安心したようなツバキ。これなら私としても、これで余計な気を遣わずに済みそうだね。

 


「それで……つ、ツバキちゃんもその、わたしの友だちに、なって欲しいなぁって思うんだけど……」



 一通りの面合わせが終わったかなと思ったら、もじもじした様子のアヤメがそんなコトをツバキに言い出した。抜かりないな、こいつ。ただまぁ、これも必要経費と思えば。



「……おいおい、そんなこと言わないでよね、あやめっち」


「……えっ? だ、ダメかな、そっか……」


「ぼくたちもう、マブダチだよっ!」



 なんて、ツバキは応えるだろうね。余計な小芝居挟むんじゃないよ、まったく。……でも、ツバキの場合は必要経費とか考えてないか。ツバキはわたしと違って歪んでないし。



「わぁ……! よろしくね、ツバキちゃんっ」


「よろしく、あやめっちぃ! はぁ、まさか三大美少女の一角が、こんなにお優しいとは」


「もう、その三大とかって、恥ずかしいよう」


「照れ顔も素敵……美少女ってのは、何しても絵になるねぇ」


「うぅう……かおがあついよ」



 さて、これでアヤメは新しい友だちを作れて、ツバキはさらに画力の向上を図ることが出来て、私は楽ができる。なので、三方って感じ。


 そうなれば、なんだか波長があったっぽい二人で、楽しげな会話を始めてくれるでしょ。私はそれを話半分に聞いていれば、そこには乙女たちの青春風景が広がるってわけ。はー、尊いね。


 ……落ち着いてくると、さっきの話の続きが気になってきたな。御芽寺こめいじ三大美少女のうち一人はアヤメで確定なのだとして、もう二人は?



「それでさ、ツバキ。さっきの御芽寺三大なんたらってやつ、残りの二人は誰なの?」


「わたしも、ちょっと気になるかな。あ、全然わたしは、自分のことそう思ってないけどねっ?」


「それはだねー……あれ、今日はまだ来てないんだ」



 そう話しながらツバキは頭ごと視線を動かして、教室の一方を眺めた。その方向に居るのは……居るはずなのは、やっぱりあいつなんだろうね。今日はまだ、その亜麻色の髪を目にしていないんだけど。



百瀬ももせさん。いつもはこのくらいの時間にはもう来てるのにねぇ?」



 百瀬の名前がツバキの口から出た瞬間、アヤメはびくりとわかりやすく身体を反応させた。


 そうだよね? だってあんた、まだ百瀬と友だちのつもりで、かつ、百瀬をした私と友だちやろうとしてるんだもんね?



「やっぱり百瀬なんだ、意外でもなかったけど」


「流石にあのビジュアルで選外ってのは嘘だよにゃあ。ほんとーに、美人すぎるって!」


「あは、ははは……そう、だよね。百瀬さんは美人さんだよね」


「ぼくはいつも、目の保養にさせていただいておりますでありますっ」



 朗らかに笑うツバキの言う通り。だけど、おそらく三大とは言っても、百瀬とそれ以外の二人では大きな隔たりがありそうな程に、百瀬の美少女っぷりは圧倒的だ。


 アヤメも可愛いとは思うけど……二人を並べて“どっちが可愛い?”と訊ねればどうにか五分。“どっちが美人?”と訊ねれば10人中10人が百瀬を指すだろうってくらい、明確に差がある。


 ぱっちりした二重の瞳、整った鼻筋にふるふると瑞々しい唇。顎のラインは綺麗な曲線を描いていて、大人と少女の間にある年頃の絶妙な色気を持っている。肌は当然透き通るほど白くって、どこをとってもくすみひとつない。その上でさらに、154の身長に搭載された凶悪な体つき。


 街を歩けば多くの人が振り向くであろう美少女こそ、百瀬という女だ。



「お、噂をすればなんとやらだねぇ」



 私が百瀬に想いを馳せている間に、奴はどうやら来たらしい。席に近い前の扉から、どこか気落ちしている様な、暗い表情を浮かべた百瀬が教室へと足を踏み入れていた。



「はぁ、今日も美人だねぇ……でもなんか、今日は落ち込んでる様な? どしたんだろ」



 ……こっちみんな、アヤメ。

 


「なに、アヤメ」


「えっ……えっと……な、なんでもないよ?」


「なんでもないなら良いけど、?」



 そんときはアヤメの口も封じることになりそうだけど。


 だからそのつもりで見つめ返してやったら、アヤメはどんどん顔を赤くして、沈黙してしまった。最初っからそうしといてよね、百瀬のことについて、私が悪いみたいじゃん。


 私は奴について悪い事はなーんもしてない。別に奴がアヤメをいじめてようがどうでも良かったのに、私の貴重な時間を奪おうとしたから、逆に奪い返してやっただけの事。むしろ私はされたような立場であって、返り討ちにあった百瀬がダサいだけなんだ。雑魚い自分を恨んでほしい。


 さぁキツネ少女よ、次の言葉はなんだ? と、沈黙したアヤメを見つめ続けていると、アヤメは思い立ったように口を開いた。



「わたしっ。……百瀬さんのとこ、行ってくるね?」


「あっ、そっか。あやめっちは百瀬さんとも仲が良いんだよねぇ」


「そ、そうなんだよね。だから朝のご挨拶、行ってきます。ツバキちゃん、ユカリちゃん、また後でお話ししようねっ」


「うぃ、いってらー」


「なんと健気な……いってらっしゃい、あやめっち!」



 そういってアヤメは百瀬のところに駆けて行って……その姿を見送っていた私と、落ち込んでいてもアヤメを迎えようとしたであろう百瀬の視線が交わった。


 瞬間、何か悍ましいもの見た様な表情を浮かべた百瀬が身体を跳ねさせ、すぐさま顔を背けやがる。


 ……なに、あの顔。まさか被害者ぶってんの、あいつ。私の邪魔をした自分が悪いってのに? 腹立つなァ……。


 ……いや、朝から腹を立てるのもめんどくさいや。さっきの話に戻って、気分を変えようかな。



「アヤメとあれなのはわかった。じゃあいよいよ最後の一人は誰なの? うちのクラスに居るんでしょ?」


「あれ?! えっと、あー、それはねぇ……」



 そういって言葉を区切ったツバキは、なんとも言いにくそうな、恥ずかしそうな素振りを見せる。なにそのもじもじした感じ。アヤメの性格が移った? ビンタしたら治るかな?


 まさか親友までキツネ女子にはなるまいなと私が心配していると、意を決したようなツバキは、ぴっと親指を自分に向けて。



「ぼくのことだよっ☆」



 などと、渾身のドヤ顔と共にのたまった。


 私はビンタして、それに応えてやった。……手加減は、したよ?










————————————


この度は『いじめっ子をいじめるいじめっ子。』第6話までご覧くださり本当にありがとうございます。


当物語について、お時間をいただき読んでくださった読者の皆様に感謝を伝えたく、あとがきを認めさせていただきます。


『いじめっ子をいじめるいじめっ子。』について、さっそく各種評価をいただくことができ、おかげさまで恋愛ランキングにランクインする事が出来ました……!


読む方を選んでしまう物語になってしまうかと思いますが、貴重なお時間を割いてくださり、読んでくださる皆様に感謝のしきりでございます。


これからもユカリによるちょっとビターな百合物語を描いて参りますので、お気に召されましたら、レビューの☆やブックマークなどをいただければ幸いです。


今後とも何卒『いじめっ子をいじめるいじめっ子。』を楽しんで行ってくださいませ!

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