第2話 「あー、はいはい。約束、約束」
「ま、待ってよ」
「なんで?」
「この事、先生とかにチクるつもりなんでしょ? やめてよ……卑怯だよ」
「……あ?」
誰が卑怯だって? 誰があの女と同じ、卑怯者だって? ……あー……腹立つなァ。
別に全然そんなつもりなかったんだけど、なんだか急に……すっごく八つ当たりしたい気分になってきたぞ☆
……って、やっぱめんどいな。怒るのにもカロリーってのは消費するもんだし、ただでさえ私は昼メシ抜きを決めたところなんだから、だるい事はするもんじゃない。
ちらっ、とみるつもりで私の手を掴む
「離しなよ」
「……やだ。
「……へぇ」
……やっぱいいや。こうなりゃ黙らせた方が話は早そう。煽ってくるのもうざったいし、美少女らしく静かにしてもらおう。
百瀬は確かに
だから、私の左手を掴む百瀬の左手を、今度は私の右手で掴んで引き剥がして、そのまま近くの壁に身体ごと押しやってやる。はは、頭を打って目を白黒させてやんの。美少女が台無しだね、ざまぁ。
「……なっ、なにするの?!」
キッと抗議の視線と言葉を向けてくるけど、全然響いてこないな。分が悪いのはどうみても百瀬の方だし、そもそもが雑魚過ぎる。……先生とかの評価を考えたら、社会的には百瀬の方が強いかな? まぁどーでもいいや。
「離せって言ったのに離さなかったのそっちじゃん」
「それは! 間宵さんが卑怯な事しようとするからでしょ?! 手、離してよ!!」
「卑怯、卑怯ってさ……あー、じゃあ離すよ? だから邪魔しないで?」
「ダメ! 約束するまで行かせないんだから!!」
「……マジで、ウザいなァ……」
思わず舌打ちが出ちゃったよ。ダメダメ、舌打ちなんて、年頃の女の子には似合わないよねっ! えへっ☆
さて、このクソ雑魚性格クソカスいじめっ子美少女百瀬をどうしようかな。私が手を離したところで、この雑魚はついてくるだろうし、そうなると面倒な事になるのは明らかだよね。はぁ……睨んでくるなよ、うっざ。
壁に押し付けたこの雑魚美少女を……しかしあれだな、こうしてみると思ってるより小さいな。
「百瀬って身長いくつだっけ」
「呼び捨てにしないで! それに、なに? 身長? 関係ないでしょ?!」
「答えてくれたらチクらないって約束、考えてあげてもいいよ」
「間宵さん、それは」
「御幸ちゃんは黙ってて、今いいところだから」
空気になりつつあった
私の提案を聞いた百瀬は、視線を右左と彷徨わせたあと、改めて睨む様に視線を私に戻してきた。顔が赤いから、睨まれても怖くないって。
「154、だけど」
「へぇ。私が166だから……12センチ差か。それだけで結構違って見えるもんだね」
「だからなに? 教えたんだから、約束してよ!」
「あー、はいはい。約束、約束」
「何その反応! ちゃんとしてよ!」
「うるさ」
約束なんかしたくないんだよ、私は。それに約束なんかしなくたって誰にも喋るつもりはないってのに。でも、百瀬はその証明でもして欲しそうだ。
私より勉強はできるだろうに、馬鹿じゃないの? なんかの紙でも用意して、血判でも押せって? そんなの百瀬が御幸ちゃんを虐めてましたって証拠を残すようなものでしょ。
それにしても12センチ差……なんだっけ。最近ネットの記事で見かけた様な……あぁ思い出した。丁度いいな、このやかましい雑魚の口を黙らせるには。普通なら……トラウマになるくらいでしょ。
掴んで押し付けた左手を逃さない様に力を込めると、百瀬は痛みに喘ぐ様な声を漏らす。けど知った事かって感じ。あんたが始めた事なんだから。
「じゃあいいよ、ちゃんと約束シてあげる。……百瀬が言い出した事だからね」
「さ、最初からそう言ってよ。ていうか、痛いよ。……離してっ」
「ぴーちく、ぱーちくと……うるさいんだよなぁ」
美少女の無駄遣いってこういうことを言うのかな、知らんけど。
さてはと、百瀬の細い顎を空いてる手で掴んで、強制的に私の方を向く様にする。ぎょっとしてる百瀬の顔が面白くて笑っちゃいそう。雑魚だけに、ぎょっ、ってね。……ごめん、いまのなし。
あとは簡単、私の顔を百瀬の美少女なご尊顔に近づけて——
「な、なに? やめ」
——そのさえずる口を、私の唇で塞いでやった。
これ以上ない至近距離で、百瀬と目が合う。マジで黙ってればただの美少女で、こんな風に唇を奪われずに済んだってのにね。馬鹿みたい。
うは、おもしろ。百瀬の顔がどんどん赤くなってく。空いてる右手でポカポカ私の脇腹を叩いてくるけど、全然効かないのはマジで雑魚って感じ。鍛え方が足んないよ、チワワめ。せめて柴犬くらいになってから、ケンカは売ってきなよ。
さてそろそろ、一呼吸。私も慣れてるわけじゃなし、肺活量に自信があるわけでもなし。少し顔を離してみれば、百瀬は肩で息をし始める。必死だな、私に絡むのをやめときゃ良かったのにね。
「……なにするの?! さいてー! ほんといきなり、なんなの?!」
「まだうるさくする元気あるんだね、逆にすごいわ」
「はぁ?! 間宵さんが」
百瀬はまだまだ元気いっぱいなようなので、もう一回塞いでやる。どうやるかは言うまでもない。
マジで面白過ぎる。百瀬の顔が赤さを増すにつれて、抵抗する力が弱くなっていって……あぁ、ついに瞼を閉じちゃったよ。そんなんもうどうにでもしてくださいって言ってる様なもんじゃん。
面白過ぎるから、キス続行。けってーい。
「……んっ」
「んぅ……やめて……っう……」
しかしふわふわ系美少女ってのは、やっぱり唇まで美少女らしく柔らかいものなんだね。私もリップなんかで気を遣ってるつもりだったけど、なんだか全然違う気がする。なんていうか……マシュマロみたいで、美味しい。
マシュマロ大好きなカワイイ☆乙女の私としては、ずっとあむあむ食べてたいところだけど、そろそろまた一呼吸おくべきか。キスなんかした事ないから、勝手がわかんない。鼻で息吸ってもいいものなのかな。
「……ふぅ」
「あっ……も、もう、やめて。私が悪かったから」
「やだ」
「ひっ……んっ」
逸らそうとする百瀬の顔を、ふわふわ亜麻色の髪を掴んでは無理矢理こっちに向かせて、また唇を貪ってやる。はは、キスっていうより、食餌みたい。
……あーでも、やば、ハマりそう。
正直キスなんてそこまでのものかと思ってたけど、苦しそうな
……って、あれ。百瀬がどんどんずり下がっていく。足腰に力が入ってないみたい。生まれたての子鹿かよ。キスしにくいからちゃんと立てよ、雑魚。……無理っぽいね。
限界まで唇を触れさせて、いよいよ届かなくなりそうな頃合いで離れてやると、百瀬は尻から汚いトイレの床に墜落した。あーあ、顔真っ赤、ウケる。写真は……まためんどくさい事になりそう、やめとこ。
「はい、“約束”。これで私が今日のことを喋ったりしたら、そっちだってこの事を喋ればいいでしょ。いいよね?」
百瀬が御幸ちゃんを虐めてたって私が漏らしたら、百瀬は無理矢理キスされたと私を悪者に仕立てれば良い。これはそういう“約束”。……“契約”の方がそれらしいかな? やり方が少し乱暴になったのは、百瀬がうるさいから黙らせたくて。
そうやって百瀬が言い出した“約束”について、わざわざ私が確認してやったっていうのに、へたり込んだ雑魚は、どこか遠くを眺めながらボーッとするばっかりで答えやがらない。なんだこいつ。
適当に、座り込む百瀬の隣の壁を蹴りつけてやると、その無駄にデカいチチごと身体をびくんと揺らした。
「返事は」
「……は……はい……」
よし、言質は取った。じゃあもう教室に……と思ったけど、一人残ってる。この現場を見た奴が。
トイレの奥にいる御幸ちゃんに視線を送ると、彼女は口元を手で押さえながら、百瀬と同じくらい真っ赤に顔を染めていた。あー……めんど。
「御幸ちゃんもする?」
もちろん“口封じを”、という意味なんだけど。
御幸ちゃんは私の言葉にハッとしたあと、赤茶の三つ編みが飛んでいきそうなくらい首を横に振って答えてくれた。うむ、彼女は素直でよろしい。後は友だちの選び方だけ気をつければ完璧だね。
「じゃ、私は行くから。あとはどーぞ、ご自由に」
そうして固まったままの二人を残して、予鈴が鳴る前に教室を目指す。無駄に広いんだよ、うちの学校。
しかし、めんどーな事ばっかりと思ったけど、案外楽しめた昼休みだった……かも?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます