第51話 長由利黄精《ながゆりおうせい》
ㅤ翌日、ホームセンターへの買い出しに同行していた。
「前々回はケルベロス、前回は人を遣わしたわけだけど、今回はどうかしら」
「向こうから来る前提かよ」
「当然。わざわざあんずにも言い含めて、私らだけで来てるんだし。
ㅤあなたの妖精の力をなんらかの手段で知っているなら、そろそろ対策を打ってきそうだけど」
「水と煤にか。
ㅤいずれにせよ一筋縄で済む相手じゃない、誘い出せたとしても、どう転ぶか……」
ㅤホームセンターの駐車場で、早速異変である。
ㅤ悲鳴がしたとふたりで駆けつければ、幼児が先日と同じケルベロスに襲われていた。
「坪内は背後の警戒を、あれは俺が叩く」
「仕方ないですね」
ㅤ彼女は魂魄鎧を待機させ、雫はまたしても氷の茨で異形をフリーズさせる。
「逃げろ!」
ㅤ幼児が駆け出し、母を探していくのを見たなら、彼は軽く安堵する。
ㅤまた黒の滴を投擲し、異形のシルエットは一瞬にして掻き消えた。
ㅤ場違いな拍手が聞こえ、雫は振り返る。
ㅤなぜか葡萄が蒼白になって、膝をついていた、息が荒い。
「坪内!?」
「いやぁ、それが妖精種の力とはね、正直今もたまげているよ」
「……誰だ、あんたは!」
ㅤ黒幕を誘き出すことには成功したようだが、葡萄の様子がおかしい。
(顔見知りか、にしたってどうして怯えている?)
ㅤ雫は身構える。前より多少は身体を鍛えているが、まともに訓練している相手なら接近されては勝ち目がない。
ㅤ現れた女は不敵な笑みを浮かべる。
「
ㅤ……どう見てもろくな状況ではないが、向こうが仕掛けてくる様子もない。
「なんのつもりで、こんなことを。
ㅤケルベロスに人を襲わせる?」
「顕現させるはいいけど、さっきの子は巻き込まれただけだしね。
ㅤ君たちをひと所へ誘き出すのに騒いでくれるのは都合が良かった、すでに辺り一帯へ結界を張っている」
「――」
「魂魄鎧でどうにかなるものかな、試してみたまえよ、あぁここは学外か」
ㅤ雫は呆然自失な葡萄の肩を揺らす。
「なにやってる立てよ、しっかりしろ」「?」
ㅤなんでそんな心外そうな顔で泣いているんだ、あの女がなにかしたのは間違いなかろうが。
ㅤあらたまって雫は敵を睨むが、向こうは肩を竦めている。
「嫌われたものだな、そんな顔しなくてもいいじゃないか、葡萄ちゃん」
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