第50話 下手人

ㅤ図書館の閉館ぎりぎりに出たところへ、塊炭が表で待っている。


「昼間の件だ、歩きながら話そう」


ㅤ例の男は坪内邸を襲撃したことを認めたらしい。


「それが昨日のこと、きみたちが警察へ被害届を出していないのは、実行役のケルベロスのせいか」

「ええ、僕が煤の力で跡形もなく消し去りましたから。

ㅤ現場に超常の痕跡が多いと、おまわりさんが不慣れな仕事をいたずらに増やしてしまいますからね。

ㅤやつはいつから、俺が妖精のなまなりだと気づいていたんです?」

「その辺りまだ聞き出せていない。ただここからは憶測と割り切って聞いて欲しいんだが。

ㅤやつの狙いは坪内さんじゃなく」

「妖精としての俺じゃないか、そういう話ですよね」


ㅤ塊炭は頷いた。


「ケルベロス自体、きみに対する当て馬だったんじゃなかろうか。あの男は主犯ではない」

「本当ややこしいことに……いえすいませんこっちの話です、気にしないでください」

「仕方ないさ、犬型とはいえ神秘種なんて目立つものを駆り出してくるなら、その背後には相応の目的があると考えるべきだろう」

「仮に真犯人を見つけたとき、学生会はどうするつもりです?」

「学外で起きたことには、我々も手の打ちようがない。

ㅤ例の男はあらかた済ましたなら警察へ引き渡していいが、主犯については君たちの身の振り方が問われる。気をつけろ、きみの神秘種バレくらいなら、魂魄鎧に長じる我々の実質外部への越権もある程度は可能だろうが、向こうがなにを仕掛けてくるかはわからない」


*

ㅤそれら一連の進捗を語ったうえで、雫は葡萄へ頭を下げた。


「なんだか、すまない」

「あなたに人に素直に頭を下げる選択があったことに軽く驚いてるよ。

ㅤでも今回の、私は巻き込まれたという感じはしないのよね。

ㅤそれを聞かされたかぎりだと、主犯の狙いは『あなた』というより『私たち』、飴川くんが私に接触してきたことに前後して、向こうは動き出したんじゃないかな……そも、あなたがまともに動けるようになってそんなに日が経っていないんだから」

「一理あるかもな、となると次に向こうからどう出るか、こちらとしては待つしかないんだが」

「もどかしい、白日の元に晒して血祭りにあげるじゃダメなの?」

「できるならそうしろよ」


ㅤ葡萄の気質なら本当にやれてしまうかもしれないと、雫は肩を竦めた。

ㅤあくまでポテンシャル的な意味でだ、現実的ではないのを、彼女とて承知している。


「……そうね、やってみようか」「は?」

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