第49話 接触
ㅤ昼、食堂へ行こうと校舎を出たとき、見るからに不審な男に声を掛けられた。
ㅤ少なくとも学生ではない。
「飴川雫くん、だな」「どちら様でしょう」
「坪内葡萄さんのことでお話がある」「お引き取りください」
「釣れないな……私としてはこの場で立ち話でもいいんだが、妖精少年」
「それは俺に対する脅しにはならないですよ」「なに?」
ㅤ学生たちの彷徨いているなかで、彼が神秘種との混血だと暴露するつもりだ。
ㅤ坪内以外にそれを隠していたなら話は別だったろうが、そうでなくとも今なら学生自治会が学内騒動を収めるために揉み消すだろう。というか、今は彼らの目があることが大事だ。
「答えてください、あのケルベロスはなんです」「――」
ㅤスーツ姿の男はたじろいで眉を顰めるばかりでなにも語らない。
「学内とはいえ、エーテルマテリアルや魂魄鎧の使用には制限があるはずだ。
ㅤきみに私を止めることは」
「自分が言ったことをもう忘れたのか」「!?」
ㅤ男の手足にどろりと水が纏うと、結晶の刺が四肢をずたずたに切り刻む。
「なんてことでしょう」「貴様ッ……!」
ㅤ男の手から取り落とされるマテリアルではない実銃、雫は拾い上げて弾倉を引き抜いた。
ㅤ砲身の奥を確かめるが、残弾はない。
「学内へ不審物を携行していたあなたの処遇は、学生自治会に任せます。
ㅤ俺が魂魄鎧であんたの相手をする必要なんてない」
ㅤ神秘種が自らの権能で為す超常を、細かく規制する法規や条例はないに等しい。
ㅤ混血種が社会で力を使うという前提が、まず『ありえてはならない』。
ㅤもはや人界にそれだけの力を持つ神秘種などいないのだから。
ㅤあるいは今回や以降にそのような法ができたところで、過去に遡って処罰はできないはずだ。
ㅤそれが法の不遡及というものだから。……というわけで、都合のいいバグ技は積極的に使わせてもらう。
「以前より磨きがかかっているな、飴川くん」
「一之瀬会長」
ㅤ騒ぎを聞きつけ、秒でやってきた彼の元へ、敵対者から奪った拳銃と弾倉を手渡した。
「この男を自治会で拘束するには、十分な口実ですよね」
「そうだな、学生に危害が及ばないうち、よく不審者を確保してくれた」
「そいつは神秘種、妖精のなまなりだぞ!?」
ㅤ喚く男を相手に、塊炭会長は薄ら笑う。
「あなたは負けたんですよ、政治に。
ㅤ大人しく何をしていたのか、吐いてもらいましょう」
*
ㅤ例の騒ぎを寮で聞いた葡萄から、放課後にカフェテラスで話したいと誘われる。
「昨日のケルベロスを知っているかは微妙だが、仮に同一犯なら尋問のなかでいやでもきみを襲撃した話になってくるだろう、結局通報はしてないんだろう?」
「うん……」
「顔写真、見覚えは?」「見たことないひと」
ㅤ昨日言っていた、父の冤罪に便乗した元同僚でもないということだ。
「あるいは下手人というだけかもしれない」
「昨日の今日で関連を見出してしまうのは仕方ないにしても、ケルベロスとは無縁ってことは」
「ないんじゃないかな、俺と話す際には、きみの名前を持ち出した。
ㅤケルベロスはとかく、主犯そのひとかなんらか繋がりはあるはずだろう」
「急にきな臭くなってきたな」
ㅤ雫も葡萄と同じ感想だった。
「今は学生会の尋問を待とう。
ㅤエーテル制御を用いた洗脳措置がされている場合なんて、警察より彼らに任せたほうがこちらとしても情報を追いやすい」
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