第48話 変わったこと
ㅤ煤靄による捕食は、強壮効果があるのかもしれない。
ㅤエーテル・オルゴンの出力が昨日より強まっているし、全身に力が漲っている気さえする。
「おはよう雫くん」
「おはよう……」
「ぼうっとしてる?」
「あんずに見とれてた」
ㅤ人目がなければ抱きついていたかもしれない。やばい。
「なんかテンションおかしくない?」
「かもな、ケルベロス取り込んでから、身体がやや昂ってるというか」
「あー……ひょっとしてうち、貞操の危機?」
「あんずの嫌がることはしないよ、絶対」
ㅤ自分たちの交際がどこまで発展するかはわからないがあんずから求められない限り、そういうことに至らないと想う。そりゃ年頃相応の性欲はあるけれど、あんずの遠慮に甘んじてなし崩しは避けたい。
「んなことよりあれから、坪内はどう」
「相変わらずだよ。無理すんなって言い含めたけど、怪我のこともう気にしてないみたい。
ㅤ怖い目に遭った自覚に欠けてる」
「それはよくない傾向かもな。
ㅤあの子の場合は、頭はいいけど自己客観視と無縁な性格してるから」
「それいざってとき怖いんだよね、本当の意味で」
「経験でもあるのか?」
「似たような子が、実習中それで動けなくなってた。あの子は聞いたら鼻で笑うかもしれないけど」
「そういうときこそ、俺たちで支えていかないとな」
ㅤあんずが笑う。
「その通りなんだけど、よもや雫くんからそんな言葉が出るとは思わなかったな」
「そう?」
「目が見えるようになってから、自分がどれぐらい変わってるか自覚ある?」
「ないんだろうな、わからないというか。
ㅤ俺はそのときできることを必死でやってるだけで、それは変わらない。
ㅤまぁ確かに、以前とひとつ変わったこともあるよ。
ㅤそれまで魂魄鎧の訓練をいくら積んだところで、将来誰かの役に立つとか、そんなことを考えられる余裕なんてなかった。ようやく『凡人』のスタートラインに立てたって、解放感みたいなものがあってさ。
ㅤそれが光とともに舞い込んできた毎日がいま、楽しくて楽しくてしょうがない」
ㅤ今度は雫のほうからフレンチキスをした。これでも一応、人目をはばかっていたり。
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