第46話 襲撃
ㅤ三人は坪内邸からの帰途につく。
ㅤあんずが言った。
「あれでも葡萄っちは、きみに心を開いていると想うよ」
「……どうだかな。いつだって神秘種だか妖精の標本扱いされている気しかしないが」
「そう?」
「あいつんちだから好きにすりゃいいけど、食堂や寮の門限に間に合うのか」
「確かにちょっと、時間が怪しいかもねぇ」
ㅤ雫の言葉に金華も同意する。
「なにかあっても、雫くんならすぐ気づくんでしょう?」
ㅤ紫の滴の効果で物理的に離れても、ある程度は知覚できる。
「そんな人のプライバシーに踏み込むような、……いやこれまで散々やってるかもしれないけど」
ㅤ突如、雫は立ち止まって洋館のほうへ振り返る。
(なんだ、今の感じ)
「ねぇ雫くん」「まさか言った傍から!?」
「――」
ㅤ悪寒がした。敵意ないし悪意とたった今彼女が対峙している、それが伝わってくる。
「坪内が危ない、なにかに狙われてる」
「なんてことだよ、戻るのかい」
ㅤ雫が頷き、金華が真面目な顔になった。
「ふたりとも、今から私が指揮をとる。
ㅤ飴川くんは情報収集、彼女になにが起きてるのか、些細なことでも教えて」
「はい」
「浅木さんは取り敢えず、いつでも魂魄鎧を出せる準備を」
「わかりました!」
ㅤ三人は嵩張る荷物を林の木陰へ隠して、来た道を戻る。
「なんだよ、あいつは!?ㅤ坪内ッ、何処だ!」
ㅤ洋館へたどり着いた雫は、彼女の安否を問いながら、対峙した敵を挑発する。
ㅤそれは三つ首の犬、まさにケルベロスと言った出で立ち。
(いったい何処からこんな、異形を)
ㅤ割れた書斎の窓に、マテリアルの砲身が揺れる。今のところ、彼女は生きているらしい。
「飴川くん!」「雫くん!?」
ㅤこちらへ向いて飛びかかる獣を相手に、妖精の力を行使する。
(『水』と『煤』、せいぜい好きに使ってやる!)
ㅤ大気から顕現した水が異形を押し流して転倒させ、水のかかった手足に白氷の結晶が棘を生やす。
(『煤』、不純物の程度をいじってやれば、氷の結晶を生やすなんて造作もない)
「畳み掛ける!」
ㅤ黒い地獄の番犬を、氷の結晶はまたずたずたに引き裂いて――消失する。
ㅤ雫は任意でそれを解除していた。
ㅤ極めつけは、黒い
ㅤ到達するやそれは途端に黒い靄となり、ケルベロスを喰らっていった。
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