第38話 変質

ㅤ彼は一旦退くも、決め手に欠けていた。

(考えろ、部長がやってるのはあくまでエーテル制御の一環だ。

ㅤ俺の手元にはナックル状に生成した魂魄鎧、でもこんな程度に甘んじていたら、坪内みたいなやつから身を守るどころじゃない)

ㅤそれはなんとなく、ムカつく。

ㅤあんな高慢ちきなやつに我が物顔させる世間などクソくらえ。

ㅤかたや金華のほうも、彼の変化を感じ取っていた。

(急に雰囲気が変わった。スイッチ入ったってところか)


「続き、いけそう?」「勿論です」


ㅤ雫は回想する。

(坪内の銃は、弾丸や炸薬もエーテル・オルゴンで構成していた。

ㅤ浅木さんのナインキャットは、擬似動物的オブジェクト、あれだけできる二人ならこの程度造作もないだろうけれど――妖精の力をもってしても、俺にはこの程度だと?)


鎧装マテリアルライド

「ただエーテル・オルゴンを増やそうだけ?

ㅤできるならそれもいいですけど」


(形状を変質するには、丹田たんでんの許容量を単純に増やすか。それは一朝一夕にできることじゃない、ここで求められるものは、今の俺にできることだ……それがなにかに気づかないと、俺自身も進めない!

ㅤ妖精の力にまた頼れば、あるいは――いや、正攻法で今度は行く)

ドロップはエーテル結晶の一類だが、あれを生成するのはマテリアル化とはまた異なる原理だ。

ㅤ妖精でもない生身の人間に、あれは作れない。

(人間としての俺が、気づくべきこと)

ㅤ片翼の部長をじっと見据える。小さくて華奢で、なんて可憐なひとだろう。

ㅤ孤高を気取る坪内や、誰にでも温和な浅木さんとはまた異なる魅力だ。

ㅤ坪内のそれが単なる強がりなら、あれこそがまさしく本物の孤高――本当に同い年かというほどの、気品さえ感じられる。

(けど届かないからって、それに憧れるだけはやめたんだ)


「坪内ならどうするかな」


ㅤ彼女なら片翼の効力が展開するより早く、弾丸を部長の間合いへ突貫できる。


「浅木さんなら――」


ㅤナインキャットを突貫させるかもしれないが、警戒されるだろうし五分といったところか。

(すると確度が高いのは、弾丸を高速で射出する。このナックルから?)


「形状を変質させたか、それで?」

「!」


ㅤナックルの内側に炸薬と弾丸を造成、それは銃のなまなりをと化する。

(仕込み武器と同様、マテリアル弾は一発でいい。

ㅤルーペからの圧で反応される前に着弾させる!)


ㅤナックルの人差し指の付け根に、銃口が生えた。


「テクニカルだねぇ、でも」


ㅤ射出される弾丸は、ナックルごとマテリアルの屑へと破砕される。


「……まぁ、発想は悪くなかったよ」

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