第37話 片翼の魂魄
ㅤ天知部長が直々に指導してくれるようだ。
「授業とは違い、我々は基礎でなく応用を扱う。
ㅤなればこそきみに我々の求める基礎が備わっているか、それを確かめる」
「はい、よろしくお願いします」
「きみの魂魄鎧は知覚系と聞いているが、エーテルによる擬似マテリアルの顕現くらいはできなくてはお話にならない。大半の知覚系生徒は爪先に纏えば御の字だが、せめてこぶし大くらいは」
「
ㅤ雫はナックルを顕現させる。部長は眉を揺らす。
「ほぉ、本当に拳大とはね」
「魂魄鎧といわれるものの第一定義は『エーテル・オルゴンを
ㅤ知覚系はオルゴンの循環により感覚器官を強制的に拡張する」
「では知覚系の対となる、物理系魂魄鎧とは」
「その名の通り、物理現象を引き起こすマテリアルを顕現させること」
「そう。
ㅤ――ですけどね、物理系魂魄鎧は知覚系と比較されるけれど、けして対ではないの。
ㅤ我々が扱う領域は、マテリアルのおもちゃを造って満足していてはいけない。
ㅤ魂魄鎧実技の授業の成立要項は、マテリアルの形成と基礎体技の並立、必修授業が二年次の三十時間にのみ」
「……その領域とやら、ご教授いただいても?」
「そうだな。
ㅤ結局はフィーリングや才能と呼ばれるところの問題だから、できないやつにはいつまでも身につかない」
「!」
「ようやく開いたその眼がなまくらでないのなら、しっかりと刻みつけなさい。
ㅤ
ㅤ彼女は背後に複数のルーペと骨組みが絡み合う、片翼状のオブジェを形成する。
「顕現できるもんなんですね、そんな大きさで」
「これぐらいで驚いてもらっても困るけど?
ㅤ私はここから動かない。きみの勝利条件は『魂魄鎧を用いて私に触れる』こととしましょうか。
ㅤ今以上の力を出さなければ、あなたは私に届かない」
「ということは」
ㅤまずは踏み込む。が、一定の間合いに到達すると彼は硬直した。
(これは――?)
ㅤそれより先へ、進めない。
「天知部長は、天使のように神々しいですね」
「そういう世辞はきらいじゃないけど、私だって女の子だからな。
ㅤだったらもうひと押し、ときめかせて!」
「!」
ㅤ圧、プレッシャーのようなものだ――ルーペが空間の不可視のエーテルを圧縮し、彼の進出を阻んでいる。
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