第29話 魂魄鎧
「なんだかんだは過小評価が過ぎるんじゃないかな。
ㅤ葡萄っち相手に限ってなんでそんなにふんぞり返ってるの?
ㅤ飴川くんの素ってそれなんだ」
「いや……個人的な因縁をつけられてるだけで、俺だって本意じゃないよ」
「因縁?」「浅木さんは気にしなくていい、死ぬほどくだらない理由だ」
ㅤ殺されかけていなければ、俺だってここまで無礼にはなれないとも。
(神秘種だとかどうでもいい、あいつにはそれが執着の元らしいが)
「ごめん、幻滅させた?」
「いや意外な一面を知ったなぁと。
ㅤ流石に友達の悪口言われてたらイヤだったけど」
ㅤそんな二人のやり取りを、訓練エネミーを掃討しながらの尻目に見ている葡萄である。
(マジで距離近いな。私には優しくないのに)
ㅤ経緯から考えればこうなるのは自然なのだが、にしたって飴川雫は女にちょっと優しくしただけであっさり転ぶらしい。
(まぁあいつがあんずに破滅させられるなら勝手にやってればいいけど、その逆は許せそうにないな)
「私は忠告したからね、あんず」
(まさか本気で恋なんてしないでしょ?)
ㅤあいつが人殺しだと知れば、あの子だってきっといい加減に飽きるはずだ。
ㅤ――でも努力家ってかがんばり屋さんじゃん?
ㅤそういうところ、可愛くてほっとけないって子はいるし。
(それまで接点なんてなかったくせに、どうして急に距離感詰めてるのよ)
ㅤエネミーの掃討には抜かりなかった。そんなことで乱されるものを集中力とは呼ばない。
「めっちゃくるくるしてるし、ペアの男子なんもしてなく見えるんだけど、あいつは索敵とか?」
「いやあれは本当に出る幕がないんだと想う、競技の特性上最低一体は個人で仕留めるところなんだけど、
「ああいうやり方もあるんだな?」「連携としては最低だと想うよ、というかアンバランス」
「ううむ……」
ㅤそろそろ自分たちの出番が回ってくるので、あんずが自身の魂魄鎧を展開する。
「
ㅤ現れたのは水色の鬼火を纏う、猫の端末だ。
「ひょっとして残機制?」「なんでわかるの」
「一匹しかいないのに九つって言われて、真っ先に思い当たるのは猫には九つの魂があるってアレだろう」
「エーテル・オルゴンの性質上、継続的な戦闘能力を持たせるとしたら、私には生物型の端末にして使役するのが一番やりやすかったから」
「また地味に凄いことをやってるな、エーテル・オルゴンによる擬似生命端末か。
ㅤ……大丈夫?ㅤ自我をそっちに引っ張られたり」
「まさしく問題はそれだね。私の端末はきみのと同じく、知覚系魂魄鎧のそれだから性質は似通ってるはすだけど、戦闘に集中すると私、『獣』になるから気をつけてね」
「この猫、武器は持ってないの」
「本質的にはエーテル・オルゴンの塊だから、私の手元に喚べば、ほら」
「ナイフ――それだと時間がかからないか?」
「そこを私自身の機動性で補うの。
ㅤ猫で猪に挑むのはちと難しいね、この子の役割はほかにあるんだし」
「役割?」
「大したものじゃないけど。
ㅤあるいは私自身が別口で刃をこさえるはできるから、単純にオルゴンの
ㅤ元々の許容量が少ないから、私なりに工夫しないと、戦闘実技ではひと苦労」
「ふむ……少し待ってて」
「ごめん、こっちから押しかけておいて。でも私なら君の代わりに戦えるよ」
「いやそうじゃない、組んでもらって感謝してる。
ㅤどうせなら二人で倒そう」
「?」
ㅤ彼は右手のひらを広げると、新たなドロップを生成する。
(この際何色でもいい、エーテル・オルゴンの結晶化は珍しいことじゃないんだから。
ㅤいまはわざわざ俺と組んでくれた、浅木さんの力になりたい――どうすればいい?
ㅤよく考えろ、結晶に確たる指向性を持たせるんだ)
ㅤせめて連携面くらいは、坪内たちを超えるのが今回の目標としよう。
(あれほど俺は孤高になれないし)
「エーテル・オルゴンの結晶化?
ㅤ飴川くん、きみは」
「これ、使えないかな」
ㅤあんずの果実を表すような赤みがかった橙、これまで作ってきたものとも僅かばかり質が違うようだ。
(不思議とこれまでのものと違う気がする、いけるんじゃないか)
「どうやって使うの」「割ればいいはずだ」
「作ったばっかりなのに!?」「うん」
ㅤおそるおそるそれを手に取ったあんずは、
ㅤ直後、結晶の塵が魂魄鎧の猫を覆う。
ㅤすると橙の鬼火を纏っている。
「魂魄鎧が、拡張した。
ㅤこれなら走らせるだけで攻撃もできる?」
「それをこれから試そう、難しければ対策はまた考える」
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