第22話 一之瀬塊炭《いちのせかいたん》
ㅤぷんすかしている葡萄の背中を見送ってから、雫は嘆息する。
「絶対アレよりまともな女いると想うんだが……縁ないよなぁ、俺なんかみたいなもやしに」
ㅤああいう見た目だけの女は抱いてもマグロでつまらなさそうとか、そういう無意識な値踏みというのはあろう。内心想っていてもそれを口に出さないのは、まぁ当然のことなのだが。
(というか俺が知ってる実在女の基準が林檎姐とあいつに限られてるのが――どちらもお世辞にいい性格とは言えないし)
ㅤ俺が喰らった三人組のひとりはどうやら脱童貞していたらしくて虫唾が走るのだが、オラオラ系みたいなのばかり女を食い漁り、社会性とプライドの高い男は痴漢して、ステータスと呼べるほどのもののない人畜無害チー牛はコミュニケーション能力のなさで世間から隔絶するものらしい。
ㅤどうやら今の俺は三番目になってしまうようだが。
ㅤ自己肯定感というのが欠片もない、体力がなければ人よりできることはいつも限られている、自分は馬鹿だとすら感じている。だから必死で喰らいつき、知識の沼に寄生しなくてはならない。誰とも比較されず、してもらえず、その資格がないのに他者の温情に『生かされている』。
ㅤ俺はそれに感謝すべきなんだろう、かたや拭いきれない無力、屈辱感とでも呼ばしき感覚はこの胸に強く刻まれていて。
(紫の
ㅤ傀儡とはよく言ったものだな。学生自治会側があの三人に気づいてる、そこからなにをするつもりなんだか――そのつもりなら直接乗り込むべきだが、彼らの魂魄鎧の特性と研鑽を考えれば、俺が返り討ちに遭う、というか)
「走り込みとは、よくやっているじゃないか」
ㅤ一之瀬塊炭がいつの間にか背後にいる。
(知覚系魂魄鎧を常時発動しているのに、俺が気配に気づかなかった!?)
「学生会長は、一筋縄とはいかないようですね」
「おや、私のことがわかるのかい?」
ㅤ今の彼のノウハウでは、塊炭のそれが機動力によるものか認識阻害かも判別できない。
「回りくどい言い方はしないでいいですよ。
ㅤ用があるんでしょう」
「仮にの話だ。
ㅤ一寸先は闇、きみが二度と今の生活を送れず、人間の社会へ戻れなくなっても。
ㅤきみはきっと変わらないし、変わりようがないのだろうな。
ㅤ下校の人たちが増えた、食堂へ移動しようか。なに、僕が奢るさ」
「はい……」
ㅤ雫には大人しくついていく以外の選択肢はないようだ。
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