第20話 学生自治会

ㅤ教員に会議室へ呼び出された葡萄は、その時点で嫌な予感がしていた。

(なぜ生活指導じゃないんだろう。いや武装系魂魄鎧の無許可使用は生活指導以前の問題か……バレてる、と考えるべきだけど――)


「先生、戻ってこないし」


ㅤ勝手に席へかけて待ちぼうけているうち、学生が入ってきて驚いて立ち上がる。


「す、すいません!?

ㅤ私、部屋間違えてました!」

「いいや。きみを呼び出したのは我々だよ、坪内葡萄さん」

「あ……学生自治会、どうして」


ㅤ学生自治会会長の一之瀬塊炭いちのせかいたんと副会長の神楽金平かぐらこんぺいだ。


「一之瀬会長、神楽副会長!」

「自己紹介の手間は省けたね、はじめまして」

「こちらこそ、はじめまして。

ㅤあらためまして、今日はどのようなご用件でしょうか?

ㅤ秋野先生は何もおっしゃっていなくて」

「そりゃ伝えてないからな、非能力者には手に余ることだ」


ㅤ下げたばかりの頭を、彼女は戸惑いながらに上げる。


「むろん、学生間に関わることだ。

ㅤ最近のきみは、ある生徒にご執心のようだね」

「具体的には」「乙倉鼈甲くん」「あそっちです?」

「というのは冗談で、いま君が思い浮かべてるもう一人の方に決まっているだろう」

「――」


ㅤまんまと会長の口車に乗せられていたらしい。

(私、この人苦手だ)


「飴川雫、きみが襲った妖精少年のことだよ」

「それ認めると思います?」

「あぁ不純異性交遊とかの是非じゃなくてだな、彼をいま殺されるのは困るんだ。

ㅤなぜ知ってるって顔に、さぁどちらから答えよう、まず監視カメラの視覚を縫ったきみの判断は間違ってないよ、あの踊り場には物的な痕跡が最初からほぼ残っていない。とある人物の魂魄鎧による捜索だ、俺達にはそういうのに長けたものがいる。

ㅤ正直に話すと、きみが神秘種への手掛かりを急いて彼を襲ったというのは憶測だ、証拠というほど確たるものではない。

ㅤエーテル・オルゴンによる捜索は他者に主観の観測を共有できない、計器による記録などなおのこと難しいんだから。

ㅤまずは『学内のトラブルをどのように知覚したか』に答えた。次は『妖精であるのを知ってなぜ彼という神秘種の混血を、我々が看過しているか』かな」


ㅤこちらの発言を先回りして話すのは、知覚系術者である雫の影が重なって、なおのこと葡萄は落ち着かなかった。

ㅤ――そうだな、状況しかわからない。

ㅤただきみのお父さんには、信じてくれるきみだけが最後の砦だったのかもしれないな。

(なんでこんなときにあいつがチラつく?

ㅤどいつもこいつも)

ㅤ飴川雫も、一之瀬塊炭も、うちのクソ親父すら……私を置いていく。


「私が神秘種と関わっては、いけないんですか」


ㅤ葡萄には神秘などというヴェールを口実に、自分を突き放すすべてが許せない。

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