第18話 掲げる
ㅤ彼女へ、名付けたばかりな緑のドロップマテリアルを手渡す。
「持ってけよ、砕けばお前でも使える。というか、それが証拠になるんだろう。
ㅤお前が神秘種の混血に相対した、因子ってことは」
「確かにこれは、あなたを構成する因子といえる。けど礼は言わないよ?」
「期待してないし、それを解析して引き下がってくれるなら、俺に文句はない」
「私が学園や警察にリークするとは、思わないの」
「想像はした。でもいくら考えたところで俺の喪うものなんて、この身をおいてほかに無いや。
ㅤ我ながら虚しいやつだとは想うよ……なるほどきみにはいたんだな、神秘種に執着するだけの身内が」
「!?」
ㅤ彼女は驚き後退する。
「今のは、魂魄鎧?」
「すまん、事情に立ち入るつもりも興味もなかったんだが。
ㅤ魂魄鎧の知覚が無意識のうちに妖精の力で引き出されてて、たぶんまた入り混ざっている」
「どこからどこまで」
「口にしただけの断片でしかない。
ㅤ頭の中で乱れる情報の渦を、整理できないんだよ。俺はしばらく休む――楽しいはいつも、苦しいの裏返しだから。今日は疲れた」
「うん……」
ㅤ葡萄は案外大人しく引き下がった。
ㅤ彼女が部屋から出ると、雫は大の字になってベッドへ寝転ぶ。
(この部屋もベッドひとつとして、俺のものじゃない。
ㅤあるのは俺の身一つとこの
ㅤ黒の滴を人差し指と中指の間に挟み、天井の照明へと掲げる。
ㅤ黒曜のように澄んだ光沢でもなければ、寧ろ内側は混沌を湛え、くすんでいる。
ㅤただそのくすんだ色も突き詰めれば、色として帰着するところがあり。
「人を殺して喰らってでも寄生する、それが俺の本質か。
ㅤ最初から堕ちるところまで堕ちているってのなら、下手に生き永らえてもな」
ㅤそんな後ろ向きなことを言ったところで、叱ってくれる林檎姐はもういないんだ。
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