第17話 ドロップマテリアル
ㅤ生まれて初めてりんご飴を自作する。
「案外いけるな、でもこれ林檎姐のと違う……あ」
ㅤすると気づく、無意識に美味しいものではなく、林檎姐に押し付けられた当時あの味に引き寄せられていた。
ㅤ作りたいというより、あのひとの足跡を『なぞりたい』。
ㅤあれもけして不味いわけではなかったが、執拗に食べさせられた経緯があるのでいつの間にか苦手になっていたはずだ。
(今更、あのひとの面影を――やめろよ、未練がましいな)
ㅤ死人の影など追ったところで、いいことなんてない。
ㅤとうに折り合いのついたことだと想ってたんだが、俺の世界はあの人に彩りをもらったから、どうしてもあの頃に引き戻されるものがある、まだ目が見えるようになってたったの数日だ。
ㅤ元からあった懐古的憧憬が強まるなんてことも、そりゃあるのかもしれないが。
「はむっはむっ、おーいい感じじゃないですか」「――」
「本当に初めて作ったの?」「お前ら」
ㅤ乙倉が食べるのはいい、けど後者、
「乙倉くんはとかく、呼んでもねぇのに坪内がいるんだな」
「こちらの方からなんか作ってるって聞いたのでご相伴にあずかろうと」
「数あるからいいけど」
ㅤ坪内葡萄が俺の作ったものをまともに評価するのだろうか。
(貶されるのが前提ってのがな、味そのものにケチつけてこないけど、今のところは)
「りんご飴好きなの?」「え」
ㅤ彼女に問われ、なんと答えるか戸惑った。
「言うほどじゃない、昔世話になったひとがよく作ってて、自分がやったらどうなるか。
ㅤ一度は試しておこうって、でも意味なかったな。あのひとの味でもなければ、これといったこだわりもないから。おいしかったなら、それでいい」
ㅤ雫は虚しく笑う。
「へぇ」
ㅤ葡萄はそう言ったきりだった。
*
ㅤ部屋に戻ってから、例の
「緑は快復、紫は隷属ないし使役、黒は呪殺と捕食……ぱっとしないな、映えを求めてるわけじゃないけど」
「ほかには作らないの?」
「おそらくは魂魄鎧の制御と同様、エーテル・オルゴンによる結晶化だろう。
ㅤきみの云う
ㅤ問題はこれを精製するとき、俺はなにを代償にしているか、そして任意で効果を再現できるかだ。
ㅤそれが不明瞭なまま、気づけばこれらを搾り出していた」
「で、その石粒の呼び方は、どうするの」「――、どうでもよくね」
ㅤ便宜上俺はそれを
「妖精の滴、あるいは飴玉」
「自分の名前にかけてる?
ㅤ普通にキショいよ」
「やめろ、俺だって合わないのわかってるから。
ㅤ……そういうお前ならなんて付けるんだ」
「インスタントドロップマテリアル略してIDM」
「長い、却下だ。
ㅤ素材は悪くないのに――それこそドロップマテリアルとかでいいでしょ。
ㅤ即席性や使い切りってことを偏重しなくていいよ、ややこしいから」
「決めるのは生み出したあんただし、好きにすれば」
「一緒に決めた、じゃダメか。ほぼお前の命名だろ、俺は折衷しただけだ」
ㅤ驚いているのだろう、彼女はこれまでに見たことのない顔をしていた。
「……俺なんか変なこと言った?」
「いや、女の子に優しいことも言えるんだね、飴川くん」
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