第16話 堤防にて
ㅤ量販店でプロテインを箱買いした帰り、河川敷堤防の上をカートを押しながら息を乱す雫。
「その程度でへばってるようじゃ、魂魄鎧の制御なんてろくにできるようにならないでしょ」
「わかってる――でも楽しいんだよな、これまでの自分には
「能天気」「るっせぇわ」
ㅤ途中で腹がきゅっと痛んで蹲る。少しづつでいいから、人並みの体力が欲しい。
ㅤただ当たり前に走るとか、有酸素運動とか、もっと、もっと、もっと――人並み以上に頑強な身体さえあれば、もう俺を縛るものなんてなにもないんだ。やってやる、俺にはきっと明るい未来が待っている、これまでのどん底続きの人生なんて振り切って、俺は変われるんだきっと、今日このときからだって。
「もやしのくせして、なんでそんな頑張るの」
「今がいちばん楽しいから」「あぁ、そう」
「坪内は坪内の道を行けばいいだろう、俺のことなんぞ気にせず」
「――、それもそうか」
ㅤなんだよ、今間をおいたのは。深く突っ込んでまた藪蛇もいやなので、彼もそれ以上踏み込まない。
「やっぱり俺が人殺しだから許せない?」「それは……」
「坪内はその辺り、嘘がつけないよな。いい意味で」
「どういう」
「お前は俺を殺せても、ほかの人間は殺さないし殺せない。
ㅤそうだろ」
「まぁ、はい。そうすね」
「煮え切らないな、まぁいい。
ㅤ俺が言いたいのは、お前には人と人ならざるものを見分ける確かな目がある、生態も価値観も違う俺のような紛い物、最初から人の社会に馴染めるもののほうがどだい無理だったのは、きっとお前の言う通りなんだ……とはいえ、俺が妖精ともとに森や自然へ馴染めるかというと、そういうわけでもない」
「でしょうね」
「どちら側へ帰属し、生活を依存し寄生するか。
ㅤそうでない第三択があるわけでもなければ、俺に選べるのはコミュニティの属性でしかないけどさ。
ㅤかたやお前のような普通の人間が、神秘種に関わる理由はなんなの?
ㅤあるんだろう、こだわるだけのものが――殺される前に、それぐらいは聞いておきたいかな」
「……それこそ、赤の他人に話すことじゃないでしょ」
ㅤどうやら今日はここまでらしい。
「今日はいろいろ手伝ってくれて助かった。
ㅤ俺といるのが嫌なら、紫の
「え」「赤の他人というには、深く関わり過ぎたかもな」
(きっとどちらかいると、憎しむか、また殺し合う羽目になる)
ㅤそれが俺の妖精としての感性か、人間としてのそれかは区別がつかないし、自分で判断するところだ。
ㅤただひとつだけ、確信のあるとすれば。
「俺はお前を殺したいよ」
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