第14話 乙倉鼈甲《おつくらべっこう》
ㅤ二人が白熱したところへ、ダイニングへ寮生の一人がやってくる。
ㅤすでに中にいた雫と葡萄の罵りあいは、どうやら廊下にも響いたらしい。
「飴川……に坪内さん?
ㅤなんかすっげぇ珍しい組み合わせだな、ふたり」
「どうも、ええと?
ㅤクラスの人だよね」「名前覚えられてなかった!?」
ㅤ葡萄は紹介を求めていた。雫は寮生の声はわかっても顔は知らない――ということは、聴覚に残る記憶を頼り、一旦彼は目を閉じて集中する。
「あぁ、乙倉くんか、びびった」
ㅤ
「て、飴川!
ㅤ皿洗ってる!?」
「あ、あぁ。そうだな」「その、目は?ㅤ大丈夫なの」
「最近、魂魄鎧がちょっとだけ成長してね。
ㅤこれぐらいのことならできるようになったんだ。
ㅤ視力というか、新しい感覚に身体を馴らす訓練もかねて――できることが増えると楽しいよね」
「お、おう。慣れないことをしてるだろうに、疲れたら人に頼ることも覚えるんだぞ?
ㅤ俺とかもいつだって手を貸すから」
「ありがとう」
ㅤ寮生のなかでも比較的温厚な性格だが、これまでさほど積極的に絡むこともなかった。
ㅤ雫の私生活は一日の大半を部屋にこもって過ごすのが常態だ、細かく火を扱う調理などもってのほか。
ㅤ魂魄鎧の拡張自体は嘘でないし、人を喰らわずとも、過去の統計ではそのような実例もある。
ㅤエーテル・オルゴンの技術か、その蓄積量を左右する丹田が強化できると後天的にそのような成長も見込めなくはない。
(丹田を鍛えれば、それだけ沢山のエーテル・オルゴンを蓄積できる、理論上はだけど――俺もやらないよりは、やる努力か。あいつらを殺してから、やたら活力が余ってるんだよな。
ㅤ俺が妖精たる理由って、そうやって他人の力に寄生できるからなのかもしれないが……)
ㅤ葡萄のほうを一瞥するも、彼女はなにも言ってこない。関心がないのとも違うようで、ただこちらをじっと見ていて。
「いやーよかったよ、坪内さんみたいなひとが飴川の友達になってくれて」
「え?」「は」
ㅤ葡萄は困惑、かたや雫の口調には半ば苛立ちがこもっているが、それに気づかず鼈甲は語り続けていた。
「こいつ、いつもふらふらと危なっかしいところあるけど、やせ我慢できちまうからな。
ㅤなんだかんだこの辺、他校のごろつきみたいなやつも
「その辺にしてくれないか、恥ずかしい」
ㅤ雫の口調が固い。
(どうせほとんどは既に知られてることとはいえ、こちらの内情ぺらぺらとこの女に喋られるのは愉快じゃないな。また紫の
ㅤいや、そこまでするのは鼈甲くんに失礼だ、坪内とは違って、なんだかんだ必要な世話を焼いてくれるいい人だし……彼の信頼を壊すようなやり方は、ちょっと気が引ける)
ㅤ模範的な人間とは、雫から言わせれば彼のような人間を云うのだ。
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