第2話 少年

「亮ちゃん、いつまでも寝てないでさっさと起きて、そんなんじゃ私より強くなれないよ。」


腹を押さえて悶絶してる俺に、姉さんが言う。


外見は整ってて、日本人離れした美人なんだけどさ、最近の厳しさは、ドン引きするレベルだ。


場所はいつもの近所の公園。分厚い雲が空を覆ってて、冬の冷たさが骨の芯までしみてくる。


その中で、俺は姉さんと剣道の稽古をしてた…いや、正確には竹刀で腹を突かれて転がってるだけなんだけどさ。


姉さんの竹刀が俺の腹にガツンと刺さって、痛みが全身に広がる。


「戦国時代じゃあるまいし、強くなる意味あんのか…」って、愚痴をこぼしても、姉さんは聞く耳持たず。


次の瞬間、俺は蹴られて倒れる。


「バシッ!」竹刀が地面に叩きつけられて、土煙が舞う。俺は必死に転がりながら避けようとするけど、姉さんの動きが速すぎる。


いや、もう動きが人間じゃないんだけど?


しかも容赦なし。俺、もうこれ以上何をどうしたらいいんだよ…。


「くそっ!」と、悔しさ混じりに呟きながら立ち上がろうとするけど、姉さんは次々に攻撃を繰り出してくる。


「待て待て待て!」と叫びたいけど、そんな暇もない。竹刀の風切り音が耳元で「ヒュンヒュン」鳴り響いてるし、俺、今めっちゃ命がけなんですけど!


「前から思ってたけど…これ…剣道じゃなくね?」心の中で問いながら必死に避け続ける俺。


でも、結局姉さんの竹刀がまた俺の腹にヒット。「うぐっ…」って声が漏れる。痛いってば!


姉さんは息一つ乱さず、「ニシシ」と笑いながら竹刀を振り続けてる。心の中で「もうやめてくれぇ!」って叫んでたよ。


そんな懐かしい(いや、トラウマだな)夢を見た後、ぼんやりと目を覚ました。


視界が薄暗い。まるで霧の中にいるような気分だ。頭はズキズキ痛むし、全身が鉛みたいに重い。さらに寒気がする。心臓の音が耳元でドクドク響いて、呼吸も荒い。なんだこれ、風邪でも引いたか?


「……ここは……?」かすれた声でつぶやきながら、ふらふらと周りを見渡すと、目に飛び込んできたのは…荒れた石壁?鉄の格子?そして、やたらと暗い天井。


ぼんやりとした意識の中で、自分の身体を確認すると…え、ちょっと待て。


スーツはおろか、シャツも靴もない。上半身は裸、下半身はトランクス一枚という状態。そしてなにより結婚式にと奮発して、ローンで買ったお気に入りの腕時計がない!


その状況に、俺の体は一層震えた。


「なんで…俺はこんなところに…?」


結婚式の記憶はまだ鮮明に残っている。幸せそうな幼馴染の笑顔、友人たちとの笑い声、そして帰り道に見た不気味な光。


まるで俺のことを嘲笑うかのように近づいてきた。だが、その後の記憶はすっぽりと抜け落ちている。次に気がついたときには、こんな牢獄に閉じ込められていたなんて…。


「な、なんで…!」震える声で呟きながら、なんとか立ち上がろうとするが、足元がふらついて、壁に手をついてやっと体を支える。


立つのすら、こんなにしんどいなんて。これ、絶対に夢だよな…?


目の前には、鉄格子の向こうに続く暗い通路。なんか怖い雰囲気満載の場所だし、向こうから誰かの足音がかすかに聞こえてくる。


「誰か…助けてくれ…!」と、喉の奥から絞り出すように叫んだ。


でも、その声は見事に石壁に吸い込まれ、響くだけで誰の反応もない。助けが来る保証なんて、そもそもない。


あ、むしろヤバい奴が来る可能性の方が高いかも?


いや、むしろそんなことになったらどうしよう。


再びズルッと床に崩れ落ちた俺。恐怖と不安が心を締めつけ、胸がギュウギュウに苦しい。なにこれ?


「か…帰りたい…」自分に言い聞かせるように、小さくつぶやいた。どっかに扉とかないのか?夢なら、早く覚めてくれよ…


「やっと目が覚めたか?おっさん」


「えっ?」驚いてそっちを見ると、腕を組んだ少年が俺を見下ろしてる。


薄汚れた服で、どこか生意気そうな顔。


いやいや、俺が言うのもなんだけど、誰だよコイツ?


「おっさん、って…俺のことか?」と混乱しながら問いかけると、少年は鼻で笑って「どう見てもおっさんだろ?」と軽く返してきた。


え…おっさんって俺?ショックなんだけど。


「ここは…どこなんだ?」と、恐る恐る聞いてみると、少年はため息をつきながら「ここは『下層牢』だよ。お前、どこから来たんだよ?」と俺をジロジロ見てくる。


「下層牢…?」俺の頭の中でその言葉がぐるぐる回る。っていうか、下層牢って何?


ファンタジー世界にでも迷い込んだんじゃないかって思えてきたけど、どう見てもこれは現実だし、リアルすぎるんですけど。


鉄格子の向こうから、カタカタと足音が聞こえてくる。誰か来たか?と思って耳をすませるが、また静寂が戻ってきた。


俺はもう一度少年を見上げて、かすれた声で尋ねた。「ちょっと聞きたいんだけど…」


少年は「しょうがねえな」って感じで手を差し出してくる。


「おい、金だよ、金。あ、まあその格好じゃ金なんか持ってないか。…で、何を聞きたいんだ?」


ため息をつきながら言ってきた。

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