世界征服はお前ん家から!!

YURitoIKA

第1襲:カレは見た!! UFO不時着の実態!!!

「これまでのあらすじぃ。


 チラミ星からやって来た究極の美少女ことボク様ちゃんは、ガッコーの夏休みの自由研究のテーマとして、地球を、世界をセーフクしに来たのでしたぁ。

 ガッコーではユーシューな成績をおさめ、巷ではIQ500と囁かれるボク様ちゃんですが、地球にやって来て早々無事不時着。

 夏の夕暮れ、蝉の合唱の真っ只中、ごく庶民的な一軒家の2階にぶっ刺さるUFO。USOと叫びたくなるような非常事態、まずは助けてSOS、これでボク様ちゃんの存在QED証明完了ー!

 セイ、ホーぉ?」

「帰ってください」


◆ここら辺でタイトルコール◆


 これから宝くじを購入した際の当選する確率(幸運)の全てを使い果たすことによって、大気圏から飛来したUFOの衝突の被害が2階のみで済むという奇跡を獲得した、橘シュウ。しかし、そんな幸運を噛みしめる間もなく、彼は目の前の明確な〝命の危機〟に対し唾を飲み込むことしかできない。


 蛍光色に近いターコイズグリーンカラーの髪色をした、くるくる髪の美少女。なにより目立つ頭に生えた2本の触角と、奇天烈な服装。……しかし、限りなく人間の女子高生。


「あと、返してください2階」


「ソレは中々ムズカシーお願いですねぇ。時間とは流動的なもので万物では掴み損ねる概念であり、それを巻き戻せというのは──」

「2階には、」

「はい?」

「僕のとっても大切な、」

「……それはごめんなさ「セミの抜け殻コレクションがあったんだ」

「きっも」


 リビング。センターテーブルを挟む形で対面する宇宙人と地球人。


「それで……なにしに来たの、君」

「言ったでしょ。セーフクしに来たの、この世界をぉ。なんだか普通にボク様ちゃんと会話をして、お茶まで出しちゃってくれてるけど、もう少し危機感持ったほうがいいんじゃないぃ?」

「危機感……ねぇ」

「目から1000度の熱線、耳から電波妨害ミサイル、鼻の穴から超電磁砲、ちなみにこの触角からは高速FreeWifi……とまぁ、ボク様ちゃんの意思次第では、今すぐにでも世界をセーフクできちゃうわけぇ」

「なるほどなぁ……」

「ボク様ちゃんと最初に交流した人間はお前……慎重に対応したほうがいいってわけ。粗茶じゃなく蕎麦を出すとかぁ」

「ちなみにWifiのパスワード教えてくれない?」

「まぁなにが言いたいかというと……世界征服はおまえん家から!! っということです」

「いいよ無理にタイトルコールしなくて」

「ぇ結構練習したんですけどぉ。48回くらい……」

「僕、偶数とかお腹の音とか〝ぐう〟がつくもの嫌いなんだ」

「ジャンケンしましょぉ。じゃんけん、ポンッ」「ポンッ」


 チョキを出す宇宙人。

 そして、


「グー出してんじゃねぇかよッッ」


 地球人の勝利。


「で、征服って具体的にどんなことをするの?」

「んー……そもそも、こんなちんちくりんな一軒家じゃなくてぇ、スカイツリーのてっぺんに着陸してボク様ちゃんの存在を知らしめる予定だったんだけどなぁ。まずそこ失敗」

「次は?」

「んー…………。

 大統領をぶん殴る?」

「IQが泣いてるぞ」

「正直ノープランでこの星に来たの。親にもセンセーにも反対されたけどぉ、ボク様ちゃん思いついたら即実行! この星で言うところの『早い! うまい! 安い!』が売りなのでね……ふふんぅ」

「安い女にはならないほうがいいと思うよ」

「なにかいい案ない? 特別に聞いてあげる」


 2階を破壊した挙げ句、地球征服のスケジュールを地球人に決めさせようとしてくるこのちんちくりんな宇宙人に、右ストレートをお見舞いするのをぐっと堪えるシュウ。


(……彼女の言う通り、ここは慎重に対処しなければ、もしかしたら本当に地球が征服されてしまうかもしれない)


「夏休みの課題でここに来たんでしょ?」


 ズズッとお茶を飲みながら頷く宇宙人。ちなみに所作は幼稚園児以下。


「夏休み終わるのはこの地球換算で何日なの?」

「帰ることを考えると……あと1週間で征服しないとだねぇ」


(……1週間。その期間、この宇宙人を足止めできれば……地球征服は止められるわけか)


 シュウはこれまでの人生において、自分は誰かの人生のモブキャラであると自覚して生きてきた。

 神様が作り上げた脚本と、ソレを演じる壇上で、己がスポットライトを浴びること何ぞ無い。

 そんな普遍的で平等な絶望を、冷静に噛み締めて生きてきたシュウにとって、この宇宙人との交流は、彼の人生において本当の意味で胸の高鳴った出来事といえる。

 つまるところ、シュウは、ワクワクしていた。


「どうせ行く宛ないんでしょ? 家に居候していきなよ。それこそ、世界征服は、僕の家から」

「まぁUFOぶっ壊れちゃったし、直さないといけないからその寝床は欲しかったけど……なんで急にボク様ちゃんに優しくするわけ? 体目当て?」

「いーや、世界征服に貢献したいんだよ。聞くところ、君、この地球の知識、だいぶ偏ってるだろ?」

「まぁIQ500も全知全能ではないからね」

「僕がこの地球について教えてあげよう。地球についてよく知ってから、計画を立てて、世界を征服する。その方が効率的だろう? ──っていうかなにより、この方法の方が断然頭がいい」


 頭がいい、という単語に触覚をぴくりと震わせる宇宙人。


「……そう」

「なに?」

「そう言おうと思ってました! ようやくその思考領域に辿り着いたか、人間さん……!」

「あー、うん、そうだよ。ちなみに名前はシュウっていう」

「シュウくん! ボク様ちゃんの名前はβBQ、改めてよろしくね。共に世界を征服しようじゃないかッ!」

「なんか呼びにくいから、あだ名つけていい?」

「いーよ」

「バーベキュー」

「ばーべきゅー?」

「世界で最も頭の良い生物って意味」

「決定ッッッ!!」


 ──なんか。別に大したことをしなくても、世界は救えそう──シュウは静かに、お茶を一口啜りながら、心でそう呟いた。

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