楽しくて、悲しくて、愛おしい
ジャングルクルーズ……イッツ・ア・スモールワールド……スプラッシュマウンテン……様々なアトラクションの中、二人がいつどこで入れ替わっているのか……俺的には、こっちのほうが楽しいまである。
だが、一日にこれだけ双子の入れ替わりが行われると、頭がおかしくなりそうだ。パッと横を向いたらあやめに、パッと振り返るとつばきに!
入れ替わりのスキルレベルは一日で最大値まで上がり、調子に乗った二人はどんどん入れ替わる。
「デク!へへへ、わたしだよ」
|
「ユキタカくん!さっきと手の握り方が違う!間違えてない?分かるんだからね!」
|
「じゃーん!瑠花くんと買った、ストラップ!……え?入れ替わってるときのためにもう一つ買っておけって?もちろん、つばきの分もあるよ!デクの?……あ!……忘れてた」
|
「ユキタカくん、私の彼氏なんだよね?……え?ううん……何度でも確認したいだけ……」
|
「へへ……聞いたよ、デク。つばきと付き合いだしたんだって?……そっか……じゃあ、幸せなんだね!……嬉しいなぁ……でも、わ、わたしも、ときどきでいいから、くっついたりとか……え?ダメ?……そうなん!?……う、うう……わたしもくっつきたいよぉ〜…………ほへ?やっぱりいいって!?やったぁ!へへへ」
|
「ユキタカくん、クラスのみんなにもちゃんと報告したからね!もうオープンだよ!……ん?前見て歩けって?……だって……横顔見るの好きだから……ふふふ」
|
「デク……ねぇ……じゃあさぁ……キ、キ、キ、キスとか……ダ、ダメかなぁ?……え?だってさぁ……つばきばっかり……ん?だって見てたもん!あそこのベンチでしてたでしょ?」
|
「ねぇ、二人で抜け出しちゃおうよ!ユキタカくん……えぇ……ダメ?……むぅ」
|
「デク、あれ食べたい!」
|
「ユキタカくん、ここで写真撮ろ!」
|
「ねぇ、デク……」
「ねぇ、ユキタカくん……」
……あれ?今、俺はどっちと一緒にどこへ行こうとしてたんだ?
入れ替わり過ぎて、たまに二人同時にいるんじゃないかと思えてきた。
夢でも見てるんじゃないか?
今……俺の両手には……麗しき双子姉妹!
「あれ?……みんなは?」
街は色鮮やかなイルミネーションで輝き、目の前にそびえるシンデラ城は幻想的で美しい。
「ふふふ、みんなはパレードに行ってるよ!」
「最後は三人で歩きたかったと!」
「そっか……あやめは、明日朝一番で帰るのか?」
「うん!学校は行かないと……ね……うう」
「瑠花は……ああ、後ろで撮影してくれてるのか」
「ふふ、瑠花ちゃんの提案だよ!」
「まったく……気の利く妹だ」
「ありがたいね!へへへ」
「ユキタカくんと私たちの妹だもんね!」
「二人とも、今日は本当にありがとう!一生忘れられない旅になったよ!」
「良かったね、あやめ!喜んでもらえて!」
「でも……二人は明日も自由行動があるのに……わたしだけ学校……うう……寂しいよぉ〜」
「ハハ、可愛いなぁ……あやめは!」
「――ほへ?……か、可愛い?そ、そんなこと言ってくれたこと……」
「むぅ……あやめは!って何!?は!ってことは私は可愛くないのかなぁ??」
「――いや、ち、違う!つばきも可愛いに決まってるじゃないか!」
「へへへ……可愛い……へへ」
「むぅ……むむむ……本当かなぁ……?じゃあ私たち目を閉じるから、可愛いほうにキスをして!」
「――えぇ!?可愛いほうって……しかもここで〜!?」
「キ、キ、キ、キス……さっきお願いしたけど……デク、してくれなかったと……恥ずかしいとかなんとか言って……」
「だ、だが……こんな広場で……」
「みんな自分たちに夢中で、私たちのことなんて見てないよ!」
「うぅぅ……ドキドキ……」
「瑠花ちゃん撮影よろしく〜!」
「ぼ、僕はこんなの恥ずかしくて見てられませんよ……兄さん!」
「瑠花よ……俺は二人のお願いなら世界中を敵に回せる男だ!」
「くっ、そうでした。兄さん、さすがです……僕に覚悟が足りなかったようですね……ここは僕に任せて彼女たちのもとへ!」
「ふっ……来年の春には「いろはす塩とレモン」は再販されるかなぁ……」
※「いろはす塩とレモン」は秋と冬には販売されていません
「兄さん……骨は拾います!」
可愛いほうにキス……つまりどちらにもキスをする以外の選択肢は無い!答えは簡単、どっちも可愛いから。
彼女たちは光り輝くシンデラ城を背に目を閉じている。俺は彼女たちの前にひざまずくと、二人の手を取り……
「俺はつばきとあやめが大好きだ!二人が望むことなら全力でやり遂げる!……だから……ずっと、そばにいてもいいですか?」
……と二人の両手にキスをした。
「「……はい!」」
それはまるで一人の声のようにシンクロした音色……光り輝くイルミネーションと打ち上がる花火が、二人の涙に色をつける。
楽しくて、悲しくて、愛おしい一日が終わった。
|
|
結局、あやめは自由行動にも参加することになり、瑠花まで学校を休ませることになったが、一生に一度のお願いだと言われると了承するしかなかった。
とてつもなく可愛い3人のお願いは……断るの無理だろ!
日本橋→スカイツリー→浅草→秋葉原を満喫した俺たち……各所での入れ替わりには当然脱帽だ。
天才・
瑠花にも笑顔が増えたし……
楽しいんだろうな……
こんな毎日だと刺激が多くて、飽きることもない。
ブブブッと着信が入る。通知された名前は『最恐』……つまり歳三さんだ。
「はい」
[旅行中悪いな。今、ちょうど見かけてな]
「――はい?今……ですか?」
夕方になり、しっかり東京観光を楽しんだところ、路肩に黒のセンチュリーが停車する。
ウィーンと後部座席の窓が開くとサングラスをかけたヤクザ……じゃなくてお父様が現れた。
「お父さん!?」
つばきがそう言うと、皆が仰天する。
「「「「――えぇ!?」」」」
「八蓮花さんのお父さん?えっと、お世話になってます神代です」
「の、野原です」「田倉です」「吉見です」
「豊田です、こんにちは」
「すすす、杉下です……」
「かかか、亀山です……」
「娘が世話になっているようだ。これからも仲良くしてやってくれ」
「「「「――は、はい!」」」」
ククク、驚け、驚け!俺なんて初めて会った時はチビりそうになったからな。杉下と亀山あたりは失禁レベルだな。
っていうか、今がつばきで良かったぁ……あやめに入れ替わってたら斬殺もんだよ……俺が。
それよりも、電話かけるなら娘にかけろよ!なんで、わざわざ俺にかけるんだ?娘にはかけづらいのか?まったくしょうがねぇなぁ……今度俺がパパと娘の橋渡しでもしてやるかぁ……
「どうしたの?今日、こっちだったんだ?」
「……まぁな、楽しんでるか?」
「う、うん……でも、声かけるなんて珍しいね」
「……ちょうどいいと思ってな」
「――ん?何が?」
「ユキタカ……乗れ!」
「「「「――!」」」」
はいはい、つばきちゃんの顔が見たいんでしょ!なんだかんだと心配症なんだなぁ……
「――は?……俺ですか?」
「早くしろ。帰りはホテルまで送る。担任には伝えてあるから安心しろ」
「つばき……ちょっと彼を借りるぞ」
「う、うん……」
おい〜!俺はどうしてこうなるんだぁ!
|
|
いやぁ……修学旅行っていろいろあったなぁ。つばきとあやめの入れ替わりには驚かされたし、瑠花が協力してたんだもんなぁ……アイツも楽しかっただろう。
つばきに告白もしたし、キ、キスも……膝枕からの……みたいな感じで、二回もしてしまった。
まさか、3年1組のヤツらにも会うとは……向日葵……変わってなかったな。土台は作った、あとはお前次第だぞ!
神代、柚子、豊田、野原、田倉、吉見、etc……って悪い、杉下と亀山にクラスのみんな……助かったよ!
何より……つばきとあやめ……お前たちがいてくれて良かった。絶対に幸せにするからな!
そんな風に怒涛の修学旅行を振り返るのは、お隣の歳三さんで思い出を濁したくないからだ。
「………………でだな、株式市場を中心にしたコンサルティング会社が、ここと丸の内に…………田中、2、3会社を見せておこうと考えているが、時間は?」
「かしこまりました。調整します」
「ユキタカ、調子はどうだ?」
「最高でした……さっきまでは」
「フッ……悪かったな。だがこんな機会はなかなか無いからな。若いうちに見れるものは見ておいたほうがいい。お前の好きな、効率……がいいだろ?」
「ですが、つばきさんを放っておく……というのは、いかがなものかと……」
「フッ……まぁな。……だが、アイツにはまだ、知らせたくないことがあるんだ」
「つばきさんに知らせたくないこと?」
「ああ……お前の今後についてだ」
「――!」
そう、俺は自分の人生を八蓮花家に捧げることに決めている。そのための援助もしてもらうつもりだ。
つまり……進路だ。
「ユキタカ、お前には……ハーバード大学で経済学を学んでもらう!」
「――留学!?」
「そうだ。卒業まで5、6年はかかるだろう。今のうちに言っておくのは、専門的な英語力を身に付けておく必要があるからだ。準備しておけ」
「はい!……了解しました」
「心配しなくても定期的に帰れる交通費も負担する」
「ありがとうございます……やはり、つばきさんとあやめさんには伝えないほうが?」
「ふむ……娘たちのことは正直わからん……知らせたくなかったのは、お前たちの問題だと思ったからだ。伝えたければ伝えるといい……任せる」
「……分かりました」
ふぅ……5、6年か。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます
寂しいですが、次回がラストエピソードになります
いろんな結末が考えられるお話でしたが、最後までお付き合いよろしくお願いします
m(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます