誰がなんと言おうとも

 ディズニーランドは本当に素晴らしい。よく清掃が行き届きゴミも無い、小さな子には感じのいいスタッフが声をかけ、皆の笑顔が絶えない。


 だからこそ目立つのだろう。


 夢の国には似つかわしくない表情で立ち尽くす少女……自分の記憶の中でもあまり思い出したくない記憶の中の一人……だが、彼女に罪は無い……彼女は流されただけ……片平向日葵かたひらひまわり……彼女は人に合わせることしか出来なかっただけだ。


「兄さん……あの方は……たしか……」

「――!瑠花るかか……急に背後に立つな。びっくりするだろ?」


 俺が視線の先にいる向日葵を見ていると、スッと背後に立ち、背中に声をかける瑠花。


 瑠花は向日葵のことを知っている。幼い頃はよく一緒に遊んでいた。だが今ではもう話もしてないだろう……俺がこっちの交友関係を切ってからは、瑠花もそれらと交流していないはずだ。


 俺は……あの時の3年1組をまだ許せていない。なぜなら、むつみ先生は今でも苦しんでいるのだから……。


 この夢の国で、あんなに暗い表情をしているのには理由がある。だが悪いな、向日葵……もうお前を助ける鵠沼来高くげぬまゆきたかはいない。


「あやめはどうした?」

「お花を摘みに……兄さんが一人だったので接触しましました。兄さんこそツバキは?」


「皆と合流して、ベイマックスに並んでいる」

「ふむ……つまり兄さんはベイマックスの横揺れが苦手だと?」

「ククク、瑠花よ………………その通りだ。無念」

「兄さん……どうやら、僕らの血筋的に三半規管を刺激するものはダメなようですね……う……うっぷ」


「――瑠花!お前……まさか、つばきと美女と野獣に!?」

「く……これも任務……ですから……ガクッ」


「――瑠花〜〜!!」


「あれぇ〜デク、どうしたと?瑠花くん抱きしめて」


「く……あやめよ……瑠花は名誉の負傷だ。日陰で休ませるから一緒に来てくれ」

「ダメだ……兄さん……僕を置いて先に行くんだ」


「――!お前を置いて先になんて……行けるわけないだろ!」

「兄さん!!行くんだ!」


 瑠花は俺の胸ぐら掴んで喝を入れる!


「あの……二人とも、盛り上がってるみたいだけど……酔い止めならあるよ。いる?」


「「いります」」


           |

           |


「デクは一人で何やっとうと?」

「俺はランチの場所取りだ。皆がベイマックスを楽しんだ後にすぐに朝食に入れるだろ。効率がいい」

 

「ププ……相変わらず気が利く」

「さすがです!兄さん」

「だろ?」


「じゃあ僕たちは、いつでも入れ替わりが出来るように、兄さんたちを監視できる位置を取りましょう」

 

「そうだね!デクをびっくりさせないと!」


「……本人ここにいるけどな……」


 だが、まだ時間はあるな……ベイマックスは人気アトラクションだ。1時間くらいは帰って来ないだろう。


「少しだけ一緒に歩かないか?」


「「――!」」


「いいと?」

「じゃあ僕は場所取りを……」

「お前もだ!」


 立ち去ろうとする瑠花の首根っこを掴む。

 

「そうだよ、瑠花くん!気を遣わんで!」

「で……でも……」


「俺は三人で買い物したいんだ」

「デク……」

「兄さん……」


 もし結婚して、子供が出来て、ディズニーランドに来ることがあったら……こんな感じなのかもしれない。


 あやめが瑠花と手をつなぎ……俺がその横を歩く。瑠花が小さくて小学校低学年の子供くらいかな……未来を想像して瑠花と手をつないでみる。


「――!に……兄さん!?」

「ちょっとイメージしたいから手を貸してくれ」

「は……はい……」

「へへ……家族みたいだね」


 あやめ……子供……俺……そこに、つばきは……………………いる!きっといるはずだ!あやめの隣にいる!


 結婚だけが幸せじゃない!


 二人を幸せに出来るような男に、俺がなればいいんだ!


 誰がなんと言おうと、俺は二人を愛してるんだから!


 ♦︎♢♦︎♢♦︎♢八蓮花つばき side ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 好きな人に告白されたことが嬉しくて、舞い上がる気持ちが隠しきれない。


 私は今日からユキタカくんの彼女……夏休みのときとは違う。別れがいつになるか分からない……期間限定ではあるけれど、今の幸せな気持ちを大事にしたい。


 この始まりが、終わりの始まりだとしても、その先にはあやめの幸せが待っている。


 あの時、ユキタカくんに告白されて、涙が止まらなかった。


 嬉しくて……


 寂しくて……


 でも幸せで……


 いろんな感情が溢れ出したけど、全部の感情が愛おしい。


 誰がなんと言おうと、私は二人を愛してるんだから!


「八蓮花さん……守日出、大丈夫だった?」

「うん、もう大丈夫だと思うよ。神代くん、いつもユキタカくんを心配してくれてるよね」

 

「うん、気になるんだよ」

「ふふ、すごく分かる」


「――八蓮花さん、なんか吹っ切れてる?」

 

「……うん……コホンッ……皆さん、私、八蓮花つばきは守日出来高くんと、付き合うことになりました!」

 

「「「えぇぇ!」!」!」


「そっか……やっとだね」


「まぁ、そうなるよね!早く付き合えよって感じだったもん」


「つばきちゃん、おめでとう!」


 神代くん、野原さん、陽菜ちゃん……


「デクに彼女が……くっ……」

「麗しきミス青蘭が……」

「守日出ってモテるなぁ」

「八蓮花さんなら、しょうがない……ね!莉子」

「――!私は別に……勉強さえ見てもらえれば……ぶつぶつ」


 杉下くん、亀山くん、田倉さん、吉見さん……野原さんが、ユキタカくんのこと気になってるのも知ってた。柚子ちゃんもそう。

 

「ユキタカくんのことを好きな子たちは、沢山いるけど……彼を好きな気持ちは誰にも負けないよ!」


「「「――オォォ!」!」!」


 私は堂々と自分の道を進む!


 それが私の生きる道なんだ!


 ♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


「――え?場所取りは?」

「は?これだけ時間あって場所取り出来てないの?」


「ごめんなさい……」


向日葵ひまわり……ちょっとは役に立ってよ……」

「ほんっと!何のために連れてきたんだか……アンタみたいなダサい女!」


「美咲……芹那せりな……ごめん……う、うう……」


「ハァ……泣けばいいと思ってるとこ、マジキモい」

「ほんっと恥ずかしいから、泣かないでくれる?」


「――え?向日葵、泣いてるじゃん」

「美咲と芹那が泣かしたのか?」


「悠人、大我!向日葵、席が取れなかったからって泣いてんの!」

「それくらいで泣くなんて、有り得なくない?」


「えぇ!マジか?」

「おい、向日葵……恥ずいから泣くなって!」


「……うう……う、うう……違っ……」

 


「くくく、クズどもが!貴様らみたいなヤツがいるから日本はダメになるんだ!こんな低俗なヤツらと一緒にいる向日葵も悪いが、イジメは心を殺す犯罪……貴様ら全員、この夢の国に相応しくない出ていけ!」


「「「――!」」」


「――え?何このパーカー少年」

「えぇっと……僕〜?何言ってんのかなぁ」

「低俗ってウチらのこと?」

「バカにしてんの?」


「――え?もしかして……瑠花……ちゃん?」


「くく、久しぶりだな、向日葵!」


「――瑠花って!鵠沼くげぬまの妹じゃん!」

「マジかよ!ウケるわ〜」

「妹って大我が言ってた、だいぶ痛い子?」

「妹って言うより弟じゃない?キャハハッ」

「マジそれな!」

「中二病おつっ!」


「「「ハハハッ!」!」!」


「瑠花ちゃん……」


「納得だね……兄さんを失望させた3年1組の面々……こんなヤツらがいたんじゃ、そりゃ見限りたくもなる!」


「「「――!」」」


「はぁ?なに上から言ってんの?」

「鵠沼ってたしかにあの頃はすごかったけど、今は落ちぶれてんじゃねぇの!」

「キャハハッ!言えてる!」

「最近、名前全然聞かないしね!」

「大人たちが、みんな凄い凄いって言ってたからウチらも言ってたけど、実際大したことなくない」

「期待ハズレじゃん!」

 

「そ、そんなことないよ……ユキちゃんは本当に凄くて……」 


「――ハァ〜!?向日葵〜、ウチら友達だよね〜?分かってんの?」

「どこか行ったヤツより、ウチら優先でしょ!」


「っていうか向日葵は、もうハブで良くね?」

「それマジっしょ!悠人」


「瑠花ちゃんだっけ?……あんまりしつこいと、君もうちの妹に言ってイジメちゃうぞ!」


「――このクズが!」

 

「あぁ!なんだとコラァ!」

「――くっ!」

「――!や、やめて……!瑠花ちゃんに……乱暴しないで!」


「ふぅ……久しぶりに見かけたと思ったら、あの頃から一つも成長してないんだな……戸塚悠人とづかゆうと金沢大我かなざわたいが泉美咲いずみみさき栄芹那さかえせりな……とりあえず、その手を離してもらおうか?」

 

「「「――鵠沼くげぬま!?」」」

「ユキちゃん!?」


「お前たちとはもう関わりたくなかったんだがなぁ……だが、俺の大事な人に手を出すとなると、話は別だ。社会的に死ぬのと精神的に死ぬのどっちがいい?」


「鵠沼……?」

「ほ、本当に鵠沼くん?」

「く、鵠沼くん……マジになんないでよ!久しぶりなんだし……ねぇ?」 

「そうだよ!ハハ!な、何言ってんだ……鵠沼……物騒だなぁ……だってお前って誰にでも優しい男じゃん」


「俺はもうお前らの知ってる鵠沼じゃない……俺は守日出来高もりひでゆきたか……お前らみたいなヤツらが大っ嫌いな男だ!」 

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