そういう結末を覚悟して...
♦︎♢♦︎♢♦︎♢八蓮花あやめ side ♦︎♢♦︎♢♦︎♢
へへへ……デクにサプライズ大成功!
この日のために、つばきと瑠花くんと計画した作戦!
題して……【修学旅行で入れ替わり大作戦〜デクを楽しませようの会〜】!
細かい計画は土地勘のある瑠花くんあってのこと……明日のディズニーリゾートではチェックポイントでたくさんの入れ替わりをする予定だ。
ふっふっふっ……洋服も全てペアで揃えてるから、わたしたちのイリュージョンにデクは翻弄されるのだ!
ホテルはみんなと同じ新横浜プリンスホテル……だけど、わたしたちの部屋は、みんなよりグレードがかなり上だ。
瑠花くんがデラックスツインルームを取ってくれた。お金をいっぱい使わせちゃって申し訳ない……普通のお部屋でいいと言ったけど気を遣わせちゃったかな……。
しかも、全額瑠花くん持ち……わたし、年上なのに情けない……うう……。
瑠花くんは中学生なのに起業家で稼いでいる。アプリ開発の
「瑠花くん、お風呂入ろう!」
「セカン先に入ってて!僕は明日の計画のために、兄さんたちのディズニーアプリから位置情報をハッキングしてるから……」
ソファの上で小さく丸まった瑠花くんが、カタカタとパソコンを叩く。小さくて可愛い……。
「えぇ!一緒に入ろうよ!せっかく広い部屋で広いお風呂あるんだし……」
「……う〜ん、今ちょっと忙しいから……」
「ねぇ、瑠花く〜ん!お風呂でゆっくりお話しよ〜」
「ちょっ、ちょっと揺らさないでセカン!そんなにくっ付いたら、作業しにくいから……」
「……瑠花くん……本当にありがとね……」
小さな身体を包み込んで、後ろから抱きしめる。キーボードを叩く音が止み、恥ずかしそうに「うん」と答える瑠花くん……。
「わたし……一人じゃ何も出来ないから……」
「セカン……」
「瑠花くんがいてくれて本当に良かった……ずっと一緒にいてね」
「――!……………………くくく、セカンは僕と一緒にいてくれる……それだけで、何も出来ないなんてことはないよ」
「瑠花くん………………作業終わるの待ってるね!一緒にお風呂入ろ?」
「セ、セカン……実は僕……恥ずかしいから先に入ってて欲しいんだけど……ダメ?」
「恥ずかしくないよ!家族なんだから」
「でも……僕……貧相だし……」
「お願い……わたしお風呂でお話するの好きなんだ……」
「ハァ……ツバキといい、セカンも強引だなぁ。わかったよ、じゃあ僕が先に入るから、入ってきて!」
「――うん!やったぁ!」
「やれやれ……こりゃ、兄さんも大変だなぁ」
「ん?なんか言ったぁ?」
「ううん……兄さんは幸せ者だなぁって言っただけだよ!」
「へへへ、そうなんだ!……あ……でも、デクとはまだ一緒にお風呂に入ってないよ!」
「――当たり前だよ!………ん?………まだって……?」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
修学旅行二日目は東京ディズニーリゾートを朝から晩まで楽しむ一日だ。分かりやすくていい
ランドへ行くか、シーに行くかは班次第。どうするかは、自由に選んでいいのだ。俺たちは夜のパレードを観たいという意見が多かったためランドに決めた。
朝早くから起きてシャワーを浴びる。神代も当然のように起きているが、俺の無防備な姿を見て顔を赤らめる……あ……すまん……気を遣うべきだったか……パンツは履いてるので許して欲しい。
朝は極力解放感が欲しいのだ。
朝食のビュッフェは混み合わないように時間をずらして行う。俺たちは早めに行動するタイプだから一番乗りだ。こういう時、神代と同じ部屋で良かったと思う。だらしないヤツと一緒だとイライラするからな。
「おう、おはよう」
「「「おはよう!」」」
つばき、豊田に……柚子?
「どうして部外者が混じってる」
「ぐはっ!……辛辣……デッくん……ハァ、ハァ……いいねぇ、朝からパンチが効いてるよ!」
「うちの班でも、ましてやクラスの違うお前が混じってるのがおかしいだろ?ハブられたか?」
「デッくんじゃないんやけぇ、ハブられたりはないよぉ〜」
「俺は皆をハブる側だ!勘違いするな!」
「――ぐはっ!ツンが凄いねぇ……バトミントンの指導を思い出すそ……」
そう、
「ユキタカくん、柚子ちゃんの班の子たちが寝坊してるんだって……それで先に来たって!一緒にいいでしょ?」
「つばきが良いならいいぞ!」
「「「――!」」」
「アンタ、マジで八蓮花さんにしか興味無いよね……」
「コーチは一途ですから」
「デッくんに愛されるつばきちゃん羨ま〜!もう付き合っちゃえばみんな諦めるのに〜ねぇ莉子ちん?」
「――ハァ!?なんで私に聞くの!?意味わかんないんだけど!」
「私も付き合おうって言ってるんだけど、なかなかOKされなくて……くすん」
「「「――え!?」」」
「――な!?」
おいおい……つばきが堂々とアピールしてきた……皆も俺の気持ちは、分かっているようだし……これはあれだな、つばきの「外堀固めて付き合っちゃおう作戦」の可能性が高い。どうする……。
「デッくん……意味わからん……何がしたいそ?」
「守日出って……誰が好きなの?」
「コーチ……もしかして……」
「守日出!君は氷無しの水でいいだよね!テーブルも彼女たちの隣にしようか。とにかく食べ物を取りに行こうよ!」
考えをまとめていると、手際のいい神代が飲み物などを持って来てくれる。タイミングいいのか悪いのか……。
「おぉ、サンキュー」
「朝はパン派?」
「ご飯だな」
「ハハ、君らしいね」
「何だそれ?」
「ううん、ビュッフェってテンション上がるよね」
「お!それ分かる」
「それで……」
「へぇ……」
「「「……」」」
「ユキタカくんと神代くん、ずいぶん仲良くなったね、ふふふ」
「あの二人……勉強会のときも距離近いんだよねぇ」
「コーチ……そうでしたか」
「デッくんと神代くんかぁ……こりゃ女性ファンが気絶しちゃうねぇ」
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東京ディズニーリゾートは閉鎖された空間だ。修学旅行に選ばれるにはもってこいだと言える……先生は楽だし、生徒も喜ぶというウィンウィンな場所。
魔法の国と呼ばれたこの地は、訪れた者が皆、何かしらの耳を付けて徘徊する。どんな強面のお父さんも魔法にかかるとも言い伝えられている。
歳三さんがネズミの耳を付けている姿は想像出来ないが、おそらく魔法にはかかるだろう。
それほどの魔力がこの国にはある!
朝一番に入場、プライオリティパスを取れない貧乏人な俺たちがダッシュで向かうのは……美女と野獣!
俺はスターウォーズ推しだったが多数決で負けた。スターウォーズは人気が無いからすぐに乗れると言われた……失礼なヤツらだ!
実は、俺はディズニーにそれほど詳しくはない。内容をなんとなく知っている程度だが、楽しみにはしていた……何故かって?
魔法にかかってみたかったのだ……年間2000万人以上の来客数に素晴らしいリピート率、世界最高峰の接客……ヤクザも魔法にかかるという魔力を大人になって味わってみたい。
子供の頃に来た時には分からないことも、今なら理解することが出来る!
「美女と野獣」のお城の中に入っていく、中には物語を演出するように工夫が施され、引き込まれるような雰囲気に圧倒される……物語の詳しい内容が分からない俺ですら感動する。
城の中を歩き、つばきがどんな風に目を輝かせているのか、隣に寄り添うように歩く彼女の表情を………………は?………………。
「あや……!」
白く華奢な手で口を塞がれる!周りは気付いていない……皆は興奮状態なのだろう。
俺も違う意味で興奮状態だ!
あやめは片手で俺の口を塞ぎ、もう一方の手で、し〜っと指を立てて口元に当てる……極限まで俺に接近したあやめの胸が、俺の腕を……つ、包む……いや、挟む……。
皆は魔法の国の魔力に当てられているが、俺はあやめの魅力に当てられている。
(いつどこで入れ替わる暇があった!俺たちはダッシュで来て15分も待ってないぞ!)
(プライオリティパス!へへへ)
(ちっ!金持ちめ!)
(デク……わたしと一緒で嬉しくないと?)
うるうると潤んだ瞳で俺を見上げるあやめ……よし!もう抱きしめていいかな!?いやダメだろ!いいじゃん、抱きしめちゃえよ!俺の中の天使と悪魔が囁く。
(あやめ……めっちゃ嬉しいぞ。お前がこの国の魔法使いだったんだな)
(ププ……なにそれぇ)
(だって、俺に魔法をかけてるじゃないか)
(えぇ?なんの魔法?)
(魅了……かな)
(もぉ〜デクのバカ)
((クククッ)へへへッ)
とバカップル全開であやめとイチャつく。
(とりあえず美女と野獣を楽しむか?)
(うん!)
(ほらっ!手)
(――え?手って……)
(つないで行こう)
(――デク……なんで?)
(せっかく来たんだろ?楽しもう)
(だってみんないるし……)
(気にするな。俺はお前が好きだ!お前はどうなんだ?)
差し出した手を見つめるあやめ……少し考えたようだが、笑顔で手を取る。
「大好き!」
館内の演出に見惚れていた班の連中も、その他大勢の生徒たちも、一般客の者たちもあやめの声に振り向く。
プリンセスのベルが野獣の手を取るように……
あやめが俺の手取る……
神代、豊田、野原は、ふっと呆れたような笑顔で俺たちを見る。そうか……つばきのあの発言は、こういうことを想定していたのかもしれないな。
もう俺たちは想い合ってるんだと……
美女と野獣のアトラクションは、乗り物に乗ってからが本番。巨大なティーカップに乗って、グルグルと回りながら物語を辿っていく。
グルグルと回る……
グルグルと……
グルグル……
魔法の国一発目のアトラクションで……俺は酔った。魔法にかかるどころか、状態異常でダウンしたのだ。
俺はベンチで休み、皆にはアトラクションを楽しんでもらう。気持ちが悪い……自分がこんなに回る系に弱いとは思わなかった。
少しだけ……少しだけ目を閉じて瞑想しよう。浮かれてたからだ……浮かれてたからこんなことに……緊張感を持て……歳三さんだ、歳三さんを思い出すんだ。そうすれば、寒気がきて……いや寒気がきたらダメだろ!思考が停止して……
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あれ?……俺は何してたんだ?……たしか、美女と野獣であやめと会って、手をつないで、皆に見せつけて、グルグル回って、気分悪くなって……ベンチで目を閉じて……じゃあこの柔らかい感触は?
うっすらと目を開けると、女神が優しく微笑み、俺の頭を子供のように撫でてくれる。
柔らかい感触は太ももだ……
膝枕をしてくれているのだ……
つばき……また入れ替わったのか?お前たちは入れ替わりだけで商売出来るぞ。あまりの気持ち良さにぼんやりとしてしまう……。
「ふふふ、大丈夫?ユキタカくん」
「大丈夫だが……もう少しこのままでもいいか?」
「いいよ」
「足痺れないか?」
「大丈夫だよ」
「目を閉じてていい?」
「ふふ……キスしちゃうよ」
「いいよ」
11月にしては暖かい日差しだった。だが、俺がいたベンチは日陰で少し肌寒いくらい。
唇が重なる瞬間、つばきの手を握る。その手が冷たくて、温めたくて、温まるまでキスをした……。
お互いの体温を交換し合い、次第に一致する気持ちと体温に安らぎを覚え……
「つばき……俺と付き合って欲しい」
「いいよ…………ありがとう、ユキタカくん」
ありがとう……か。俺の頬に落ちる彼女の涙。それは、そういう結末を覚悟しての涙なのだと……
再び重ねた唇が、幸せを伝えてきても……
涙の味が俺の胸を締め付ける。
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♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「向日葵、ウチらトイストーリー行って来るね」
「うん、行こう」
「ごめん、向日葵はお昼の場所取りしててくんない?」
「――え?」
「すぐに戻って来るからさぁ」
「お願い!向日葵」
「う……うん……わかった」
「あれ?向日葵は行かねぇの?」
「あぁ、なんか気分悪いらしいから、お昼の場所取っておくように頼んだ」
「マジ?気が利くじゃん、美咲」
「でしょ〜」
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