守日出来高VS八蓮花歳三
3日ほど経った頃というのは、あの日あの時、こう言えば良かった。なんて思うことはあるよね。
やった事に後悔は無いが、勢いあまって言ったことには多少の後悔はある。
俺……歳三さんに二人とも愛してるなんて口走ってなかったか?そんなこと言ってないよな……いや、言った……興奮してたから正直に言った。
でも、嘘はついてないから許してくれるよね。歳三さんは嘘が一番嫌いだからね。
八蓮花邸での会食。メル友のさくらさんとはずっと連絡していたが、つばきとあやめは3日ぶりだ。めっちゃ怒ってる……つばきはジト目、あやめはフク顔で、玄関の外で待ち構えていた。
「久しぶり〜!」と作り笑顔で、極力明るく言ってみたが、二人の表情は変わらない。
「もぉ、デク!3日間、既読スルーってヒドいっちゃ!」
「むぅ……ユキタカくん!お母さんとだけメールしてたでしょ!」
二人とも可愛いらしい格好だ。つばきは爽やかなブルーのシャツワンピを上品に着こなし、あやめは生地の薄い無地のウエストギャザーの入ったベージュのワンピースをガーリーに着ている。
「二人とも可愛いよ」
振り絞ったセリフでご機嫌をとり、二人にそっとプレゼントを渡す……大したものではないが、シーサイドモールで買ったサテンのシュシュだ。
つばきには白……あやめには薄紫色……べ、べつに以前見た下着の色と合わせているわけではないぞ。
「「――え!?」」
双子らしく息の合った二人は、それを嬉しそうに胸に抱いた。ふぅ……どうやら、喜んでもらえたようだ……連絡を取らなかった3日間の埋め合わせにはならないが、気持ちは受け取ってもらえてほっとする。
「ふふふ、ユキタカくんはこれを買うのに3日もかかったのかなぁ」
「いや、本当に申し訳ない。気持ちの整理に3日かかったんだ……あと歳三さんの呼び出しを待ってた」
「……そっか……じゃあ許そう。入って!」
「ああ……」
「デク!」
あやめが可愛らしく腕を引っ張る。
「お、おい……」
「つばきのこと、ありがとう。でもね……わたしたちに嫌われようとしても無駄だよ。それは絶対ないから!」
そう耳打ちしてくるあやめの吐息が、くすぐったくも嬉しくも感じる。たった3日の
あやめは「へへへ……」と照れたように微笑むと、そのまま腕を引っ張り俺を招き入れた。
「お邪魔します!」
「はぁ〜い、どうぞ〜」
さくらさんの気の抜けた返事が返ってくる。
しかし、挨拶はしっかりと!こういうところから綻びが生じるわけにはいかない。リビングに入るとテーブルには豪華な食事が並んでいる。
ゴクリ……生唾を飲み込むのは、目の前の食事が美味そうなのもあるが、怖い人が目の前にいるからだ。
歳三さんは、すでにリビングテーブルのイスに腰掛けて瞑想中だ。怖ぇ……。
「先日は、生意気なことを言って申し訳ございません。今日はこのような場に呼んで頂き、とても嬉しいです」
「いらっしゃい、待ってたよ」
瞑想していた歳三さんは目を開けて、ニヤリと悪い顔で俺を見据える。
「僕も連絡お待ちしていました」
歳三さんの圧に押されててはダメだ。雰囲気に飲まれるだけで負ける。常に同じ位置で戦うことを意識することが大事だ。
「ほぉ、つまり君は私に何かを期待している……ということかな」
「どうですかね。それが、僕の想像出来る範囲だといいんですけど……」
「ハッハッハッ!」
「ははっ……はははっ」
腹の探り合い……俺はつばきの許嫁問題に関する決着を求める。歳三さんは俺に何を求める……。
「歳三さんも、ユキくんも……とりあえず食事にしましょうか」
さくらさんがちょうどいいタイミングで話に入ってくれる。こんなに美味そうな料理が目の前にあるんだ。ぜひ堪能したい。
「歳三さんはビールでいい?」
「ああ……」
「デクはお茶にする?水にする?」
「ありがとう、自分でいれるよ」
「いいよ、座ってて!デクはお客さんなんだし」
「あ……ああ」
「ユキタカくん、ご飯は大盛りだよね。白ご飯大好きだし!」
「あ、うん……お願いします」
麗しい二人は、この地獄のような睨み合いに咲く花たち……甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれる。だけど、俺ばかりに構うのはやめて……歳三さんの眉毛がピクピクと反応してるから。
あと、ちょいちょいボディタッチするのもやめてくれるかな……歳三さんが刀でも振り回してきたら、どうすんの。
そんなギスギスとした会食は、さくらさん、つばき、あやめの和やかなトークとともに過ぎていった。まぁギスギスしてんのは俺と歳三さんだけだけどな。
相変わらずの美味い料理は、残すことなく俺が食す。作ってくれた人に失礼のないようにするのが俺の流儀だからだ。おかげで、最近止まっていた身長が伸びたような気もする。太らないように気をつけよう。
「ユキタカくん……君には聞いておかなければならないことがある」
「はい……なんでしょう」
向かい合う俺と歳三さん。女性陣は片付けで忙しそうだ。
「君があやめと交際しているというのは事実か?」
ここからだ……射抜くように俺を見つめてくる。歳三さんの情報力は凄まじい……田中さんという敏腕秘書がいる限り下手な嘘は通用しない。
「申し訳ございません!」
「……それは、どういう意味だ」
リビングテーブルに擦り付けるほど頭を下げた俺に歳三さんの低い声が響く。
「交際というのは嘘です」
「――!なんだと?」
声のトーンはさらに低くなり、覇気のような威圧感がリビング全体を覆っていく……。
「夏休みが終わるまで、付き合っているフリをする……
「「「――!」」」
一瞬空気が凍りつくように時が止まる。
片付けをしている3人の動きも止まる。
歳三さんの前で、嘘をついていたことを告げたのだ。斬殺覚悟の発言……しかも、この発言も真実に嘘を足している。
「……嘘か」
「はい!そして、その嘘を利用してつばきさんの許嫁である
「私を動かすためにか?」
「はい、許嫁はつばきさんか歳三さんにしか破棄出来ませんから……」
「つばきよりも私を選んだ理由は?」
「より確実な方法を取りました。つばきさんは頑固ですから、きっと折れないでしょう」
「私なら折れるとでも?」
ここだ!
「折れるというか、始めから僕を利用するつもりだったんじゃないですか?それに乗っかっただけです。早良くんは八蓮花家を継ぐ器ではありません。つまり、いずれ破棄させるつもりだった……そこへ僕みたいな人間が現れた……だから、わざわざ海峡花火大会に彼を連れて来たんですよね?」
顔を上げて歳三さんと目を合わせる……。人の目を見ればそれが真実であるかは挙動で分かる……が歳三さんのそれは読み取ることが出来ない。
「……」
「早良くんは、あやめに惚れています。彼にとってつばきの存在は、自分のちっぽけなプライドを守るためと、あやめの姉という都合のいい存在だったんです。歳三さんの情報収集力を考えれば、そんなこと知っていて当然です。つばきの頑固さを知っている歳三さんは、僕を使って彼を斬り落とそうとした……そうですよね」
「……」
「いやぁ……3日間冷静になって考えたんですけど……鳥肌が立ちました……だって、僕と歳三さんはお互いに利用するだけでなく、同じ事をしようとしていたんですから。僕は歳三さんを……歳三さんは僕を……考えは一致していた」
静寂が辺りを包む……。
「……フッ……フッフフッ……ハッハッハッ!……素晴らしい!素晴らしいな、君は!予想以上に優秀なようだ!……君と私の思惑通り、早良くんとつばきの婚約は破棄された。予定通りに向こうから言ってきたよ……君が彼の内側を暴いたからな。当時、彼の手の怪我は大したことなかったのだ。だが、彼の弱さが、つばきというちょうどいい言い訳を手に入れて甘えてしまっていたのだ。彼の成長のためにも二人を離しておきたかったが、つばきは頑固だからな……第三者に言ってもらうのが一番良かったのだよ」
「お父さん!ユキタカくんを利用して……そんなこと……」
「つばき、俺も歳三さんを利用したんだ……お互い様だよ」
つばきは声を荒げるが、それを俺が静止した。
「ありがとうございました」
俺は立ち上がり頭を下げた。
目的は達成した……そして、さっきの嘘がここで効いてくる……。
リセットだ!つばきとあやめを愛した俺は大罪人だ……二人から一人を選ばずに、そばで支えたい。気持ちを胸に秘めたまま、家族のような友人として関係を作り直したい!彼女たちのそばで笑っていたい!
「ユキタカくん……君は先程、付き合っているフリだと言ったな。嘘をついたのだ。ここでそんな嘘をつく必要も無いのにだ……なぜ、そんなことを言ったのか……君はこのまま我々との関係を断つか、もしくは違う形にしようとしているな」
「「「――!」」」
な!?なん……だと!先を読まれている……。
「だが、君は海峡花火のとき、うちの娘たちを『愛してる』と言った。あれは本心だな……あの状況では嘘などつけない」
――!覚えていた……よね、やっぱり。
「八蓮花家とここまで関わっておいて、ましてや婚約破棄までさせたんだ……君には責任を取ってもらうよ」
「――責任!?」
さくらさん……つばき……あやめ……そして俺は何も言えない。もしかしたら、この人は俺たちがずっと家族のように積み重ねてきたことも知っているのかも知れない。そんな後ろめたい俺たちには何も言い返すことは出来なかった。
「君には……つばきとあやめ……どちらかの婚約者になってもらう!もちろん、
「「「――え?」――は?」――はへ?」
「――え?」
えぇぇ〜!!
「フッ……心配するな。大学卒業までの全ての援助を行う。だが、進学先は私が決める!今、どちらかと付き合う必要もない。三人でゆっくり決めろ!……すでに、この話は
「「「「――えぇぇぇ!」」」」
すでに四葩と接触していたのか……ダメだ……この人には勝てない。
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