世界で一番可愛い双子姉妹

8月25日 夏休み最終日

 

 わたくし守日出来高もりひでゆきたかには婚約者が出来ました。


 八蓮花はちれんげつばき……八蓮花はちれんげあやめの二人……のどちらかです。これは両家の正式な婚約です……ですが問題があります。


 二人のうちの一人と結婚しないといけないからです。出来たら二人と結婚したいなぁ……そうだ!インドネシアにでも行って合法的に結婚出来ないかなぁ……。


 ウフフフフ……そうだ、そうだ!


 それがいい!俺は大学卒業したら二人と結婚するんだぁ……


 (ユキタカくん……ユキタカくん……ユキタカくん!)


「ユキタカくん!ダメよ!正気に戻るのよ!死亡フラグみたいなこと考えちゃダメだからね!」


 パチパチと頬を叩く音が遠くに聞こえる……パチパチ……ん?……パチパチ……痛い……パチパチ……なんか痛い!

 

「――どわぁ!」


「はぁ……ユキタカくん、大丈夫?魂が抜けかけていたんだよ」


「つ、つばき……ここはどこ?私は誰?」


「ふふふ、どうして自分の名前忘れてるのに私の名前を覚えてるの?」


 つばきの綺麗な顔が目の前に……。心配そうに見つめる瞳を見て現実に引き戻される。


 そうだった!俺は今、つばきとあやめの支度を、八蓮花邸のリビングで一人寂しく待っていたのだ。


「ハァ……ハァ……それくらいお前たちのことばかり考えてるんだ。現実逃避くらいさせてくれ」


 呼吸は乱れてないが、なんとなく息を整える。

 

「深く考えなくてもいいんだよ。あやめと婚約しなよ!私は今でも充分幸せなんだからね。自由だし、義姉弟きょうだいになれるだけでも幸せだし、ユキタカくんと家族になれるなんて考えただけでもワクワクする!」


(つばきが誰かと結婚するのもなぁ……)


「あれあれぇ〜?じゃあ私と婚約する?あやめもきっと同じことを言うと思うよ」


「――え!?俺って今……声に出てた!?すまん……今のは聞かなかったことにしてくれ」


「えぇ〜、聞かなかったことにするんだったら……ハ・グ・♡……してくれる?」


「ぐはっ!……破壊力が凄すぎる……自由の翼を手に入れたつばきは、さらなる進化を遂げるのか……だが、そんなつばきも可愛いな」


 ――!何言ってんだ。ここは、八蓮花邸だぞ!歳三さんはいないけど、リビングでそんなことをしているなんて、さくらさんに見られたらどうするんだ!


「………あ……あの……ユキタカくん?心の声と出てる声が逆になってるから気をつけてね!でも、可愛いなんて……嬉しい」


「――はっ!?」


 俺はあの日以来、そう8月16日からずっと情緒不安定になっている。八蓮花歳三はちれんげとしぞう守日出四葩もりひでよひらのタッグに敗北したのだ……裏であの女も絡んでいるなんて反則だろ……大学授業料に釣られやがって……しかし、歳三さんと四葩の会合なんて身の毛もよだつな。


「あやめはまだか?」


「もう少しだと思うけど……お母さんもヘアアレンジしてくれてるし。それに、今日のあやめはとくに可愛いよ!」


「ふぅ……とくに可愛いって、あれ以上可愛いく……な……なんだと!?」


「デク〜!つばき〜!ごめ〜ん、待ったぁ〜?」


 ガチャッとリビングに姿を現したあやめは、社交場に現れたプリンセスのようにクルッと回転する。


 あやめが……メイクしてる……。透明感のある肌をさらに美肌に、いつものふわっとした雰囲気を活かすために可愛いらしく頬にチークを、潤いのあるピンクのリップがあどけなさを際立たせる。


 レトロワンピースにポニーテールとシュシュ!?俺がプレゼントしたやつだ。


「……た、たしかに……いつもより……」


「あぁ!あやめが可愛いすぎる〜!」


 そう言って興奮するつばきもめちゃくちゃ可愛いぞ。デニムセットアップで肩出しをしているが、ワイドパンツでカッコよくそれを着こなす。キャップを被りダウンにまとめた髪にシュシュ……二人とも俺がプレゼントしたシュシュを付けてくれている。


 今日は夏休み最終日8月25日だ。期間限定彼氏の最終日でもあり、夏休みを締めくくるイベント……馬関ばかんまつりが行われる日だ。


 馬関まつり……下関最大のお祭りにして、若者たちが大勢集まるイベント。


 海峡花火大会とは違い、地元の人間が多数集まるこの祭りは、下関の市民祭とでも言えばいいだろうか。


 国道を通行止めにして、誰でも参加可能な平家踊りのパレードは圧巻。戦いに敗れた平家を供養するためだと言われていて、下関の人間なら誰でも踊れるらしい。あいにく俺たちは踊れない。地元の人間ではないからな。


「今日はもう最終日かぁ」


 あやめは、しゅんっと落ち込んだように俯く。そんな姿も可愛い……。

 

「あやめ、今日はおもいっきりユキタカくんの彼女をしようか!」


「うん!」 


 つばきは、チラッと俺を見て、あやめをそう元気づける。つばきもとんでもなく可愛い格好だが、キャップを被って身バレしないようにしているところを見ると、今日はあやめメインで出掛けようと考えているのかもしれない。


 さくらさんに笑顔で送り出された俺たちは、馬関まつりへと出掛ける。


 そう、俺たち三人で話し合った結果、最終日はお祭りデートにしようと決めたのだ。


 八蓮花邸を出て三人で並んで歩く……二人の会話に相槌をうち笑う……とても幸せだ。

  

 バツゲームから始まった期間限定の彼氏だったが、俺はちゃんと彼氏としてやれていただろうか……彼氏というものが何なのかは結局分からなかった……。


 彼女たちに対して束縛するような存在なのか……


 欲望を許容できる存在なのか……


 それとも無条件で何もかも関わり合うことの出来る存在なのか……


 近いうちにどちらかと婚約することが決まっている。それを、二人はプラスに考えているように思える。


 俺はそうは思えない……


 二人を泣かしてしまったこともあった……


 この二人にはずっと笑顔でいて欲しい……


 ずっとこのままがいい……


 そんな叶わない夢を願わずにはいられなかった。

 

「ねぇ、あやめ、人も多いし交代でデートする?」

「そうだね、誰かに見られてもあれだしね」

「じゃあ、場所決めて〜1時間で待ち合わせするでしょ〜」

「うんうん」

「ユキタカくんが〜……」

「うんうん」

「あやめは可愛いから気をつけないとだし〜……」

「つばきも気をつけないと……」

「私は大丈夫!だって……」

「えぇ〜……」

 

 二人はイチャイチャしながら話を進めていく。こういうのを俺は見ていたい……。


「提案なんだが……」


「どうしたの?デク」

「話に入れて欲しかったのかなぁ?」


「三人で遊びたい。歩きたい。喋りたい」


「「――!」」


「二人の彼氏……最後だろ?人目なんか気にするな……もし、知ってるヤツに会っても俺がなんとかする……俺は二人と一緒にいたいんだ」


「「――!」」


「デク……」

「ユキタカくん……」


 こういう時の表情は似ている……二人が愛おしくて胸が締め付けられる。

 

「ククク、俺は傲慢で強欲だからな!つばきとあやめの笑顔は、俺が独り占めする!」


 俺は極力悪い顔でそう言った。


 つばきがあやめに耳打ちしている。うんうん……と頷くあやめ……またよからぬ事を考えているな……と思った瞬間!


 両腕に柔らかい感触……

 

 両頬にも柔らかい感触……


 世界で一番可愛い双子姉妹に同時にキスをされた人間は、天文学的な確率に違いない。


 この世界に奇跡があるならば、これがそうである。


 そして、俺は天文学的な確率を何度も叩き出している。だったら、この麗しい双子姉妹を俺が幸せにすることは出来るのではないか……


 なんせ、俺は奇跡を起こした人間だからだ!


 勘弁してくれ……と心にも無いことを呟いて


 彼女たちの笑顔に笑顔で返した俺は……


 二人の手を握り踏み出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここまで読んでくださりありがとうございます


正直ここまで長く連載出来るとは思っていませんでした(>_<)


これもひとえに、読者の皆さま、応援や応援コメントをくださった方々のお陰です


本当にありがとうございますm(_ _)m


「夏休み編」が終わり


実はここで終わりの予定でした……


が!もう少しだけお付き合いのほうお願い出来ますでしょうか?


「修学旅行編」を最後にしたいと思います!


 再開まで2、3日猶予をください!


 最後まで頑張りますので、応援よろしくお願いします(>人<;)



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 ☆でのレビュー評価をしてもらえると、もっと励みになります!よろしくお願いします✨






 

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