天気雨のようにキラキラと
「彼はそれからコンクールに入賞することはなかったの……でも別に
「つまり、彼を一生支えるってことか……でもそんなの……」
「分かってる……子供の言うことだし、正式な許嫁でもなんでもない。でも、ずっと心に残ってるの……葵くんの人生を歪ませたのは私なんじゃないかって……」
贖罪か……つばきは悪くない。俺ならそんな重荷になるようなことなど絶対に受け入れないが……
「彼はなんて言ってるんだ」
「私が気にすることじゃないって……」
「それはそうだろうな。実際、つばきには責任なんてない。と言ってもダメなんだろうな。ただ俺なら……いや、そんな意味のないことを言ってもどうしようもないな。つばきの気持ちの問題だ」
「ユキタカくんなら?……聞きたい」
「つばきに負い目を感じさせないくらいピアノで結果を出す……がピアノの大変さは、俺には分からない。そんな簡単に言うなと怒られるかもな……」
「ふふふ、ユキタカくんなら出来そう。なんせ、世界を制した男だもんね」
「――!つばき……知ってたのか」
「
「……今の俺は参考にならないな」
「……どうして?」
「八蓮花つばきが好きだから……」
「――え?」
人生で初めての告白だった。
あやめには言っていない……言えなかった言葉。あの時は言えないまま終わった恋だと思っていたから。
でも、今はちゃんと目を見て言えた。あやめじゃなく、ちゃんとつばきと向き合って出した答え。
つばきを自由にしたい、幸せにしたいという感情が俺を支配している。
サングラスの向こう側にうっすらと瞳が潤んでいくのが見える。ポロポロと吹き抜ける風に飛ばされた涙が、天気雨のようにキラキラと反射して輝く。
「好きな人に好きだと言ってもらえることが、こんなに嬉しいと思わなかった……」
つばきはサングラスを外すと綺麗な笑顔でそう言った。
片手は手をつないだまま……もう片方の手で俺の頬に触れる……。
俺の左手も自然と彼女の頬に触れていた。二人だけの世界とはよく言ったものだ。周りなんて見えない……見えているのは目の前の愛しい人。
お互いが距離を詰めるとあっという間だ。一瞬で吐息のかかる距離までくると目を閉じる……。
唇が重なる瞬間……
見張られているかのように、二人同時に着信が入る!
俺たちはこういう運命なのか……
二度目のキス未遂と周りの視線に羞恥心が込み上げる。つばきも同じ気持ちなんだろう、顔を真っ赤にしてスマホを確認する!
俺の画面には「野原」
つばきの画面には「瑠花」
と表示されている。お互い距離を空けてスマホの着信を受ける。
[守日出!今どこ!?
「――!いなくなったって、どういうことだ」
[トイレに行くって言って帰って来ないから、迎えに行ってもいないの!けっこう探してるんだけど特牛ちゃんの家族も見てないって……どうしよう……私……任せてって言ったのに……]
「落ち着け、野原。柚子の写真は持ってるか」
[あ……うん!さっき撮ったやつがある]
「じゃあ、その写真で聞き込みするんだ。あと田倉と吉見にも聞いてみろ。俺は今、サイクリングで灯台にいるからこっちから戻るときにローラー作戦で柚子を探す!分かったか?」
[うん、分かった!やってみる。あ……あと、アンタの妹もいたけど手分けして探してたらいなくなっちゃって……大丈夫かな……]
「瑠花は大丈夫だ。柚子を探してくれ」
[うん、いたら連絡する]
柚子がいなくなった……トイレに行ったということは道路を渡っているから海で溺れたりはしていない。そして、家族にも会っていないとなると……一人になれる場所を探した?……いや、野原を待たせておいてそんなことはしないだろう。
連絡も取らないとなると誰かと一緒にいる?
ナンパ?
最悪の場合、拉致られた……ということも考えなければならない。
「ユキタカくん!瑠花ちゃんから、あやめがいないって!」
「――な!?スマホに連絡は!?」
「トイレに行くからって、
「阿知須さんに?誰が聞いたんだ!?」
「瑠花ちゃんが彼女たちをマークしてて、あやめの姿が見えないから連絡したって!そしたら、阿知須さんが電話に出たって!」
「どういうことだ……?」
「ユキタカくん、どうしたの?」
「柚子がトイレに行って帰って来ないらしい……いなくなったんだ」
「――え!?」
つばきと情報をすり合わせると、柚子とあやめがほぼ同時刻に行方不明になっている。
そして柚子はスマホに出ない……あやめは不携帯……二人は一緒にいる可能性が高い……。
事件に巻き込まれてなければいいが、一番安直に考えると、二人がたまたまトイレで出くわし、どこかで話をしている?
時間も忘れるほど盛り上がって、今に至る……なんてことはないこともないが、最悪を考えて行動したほうが良さそうだ。
「つばき、とにかく急いで戻ろう!だが不審な車なども警戒しながら行動して、二人を探しながら戻るんだ」
「分かった!じゃあ私はユキタカくんと逆側から回り込んで……」
「ダメだ!瑠花と合流するまでは俺から離れないでくれ!お前に何かあったときに、そばにいないと守れない」
「ユキタカくん……気持ちは嬉しいけど、瑠花ちゃんへの信頼感すごいね……」
「アイツは
「たしかに……」
走って自転車まで辿り着くと、ブブッと着信が入る。野原だ!
「いたか!?」
[ううん、気になる情報が……]
「どうした?」
[守日出が追っ払った大学生がいないらしいの!トイレに行くって言ってたって!]
「――そうか……なるほどな」
[守日出……もし、特牛ちゃんに何かあったら……私……どうしよう……]
電話越しでも震えているのが分かる。根本的にいいヤツなのだろう……仲間思いというか責任感が強いというか……。
「野原、よく聞けよ……柚子がいないのも、仮に柚子に何かあったとしても、お前には何の責任もない。なぜか分かるか?」
[わ、わかんない……だって……私がちゃんと任されて……]
「それはな、今から全責任で俺が見つけ出すからだ。だから、たった今、お前の思いは俺に任された。お前はサポートを……というかもう、なんとなく当たりは付いているから大丈夫だ。任せておけ」
[――え?]
「ただ一つやって欲しいことがある」
[分かった!なにをすればいいの?]
3つの偶然が重なる確率は一千万分の一だ。
一千万分の一なんて数字を俺が使う時、何を意味しているのかというと、偶然ではないということだ。
必然……つまり、関連性があるということ。
柚子……あやめ……トイレ……出れないスマホ……白髪くん……これを結ぶモノは……
おそらく柚子の落としたスマホを拾った白髪くんの脅しか……最悪の場合は強制わいせつ!?
そして、知らない男に連れて行かれている柚子を目撃したあやめが後を追った。人気のないところにでも行っているか、車の中だな。
白髪くんと少し接触した感じ……かなり女に飢えていた。友人は二人とも彼女持ち、紹介された女は相手にしてくれない……動機も揃ったな。
この推測……8割方当たっているだろう。あとは場所だ……これはもう簡単だ。
「位置追跡アプリ」……電話を鳴らせば正確に探すことが出来るという画期的アプリ。瑠花の諜報員7つの必須アプリの一つだ!瑠花がいてくれて本当に良かった。
あとは柚子の番号さえ分かれば簡単に探すことが出来る。だから、野原から俺のスマホにメールで送ってもらったのは柚子の番号……飛ばせば自転車で約10分程度だろう。
瑠花と接触してヤツを討つ!
自転車で戻る際につばきに俺の推測を告げた。つばきとのトランザクティブ・メモリーの精査は終了し、ほぼ間違いないだろうとのことだ。なんせ、青蘭高校の2位と3位だ!
これほど頼もしい味方はいない。俺……瑠花……つばきがいれば歳三さんすらも凌駕する……は言い過ぎか、とにかく先を急ぐ!
|
|
「柚子ちゃ〜ん、個人情報全部写したよ〜けっこう際どい写真もあるんだね〜これって友達?流出されたくないよね〜」
「やめて……ひどい……」
「柚子ちゃん……」
「つばきちゃん……ごめんね巻き込んで……」
「ううん、大丈夫だよ!柚子ちゃん、絶対ヒーローが来るから!」
「ヒーローって何?ここが分かるわけないじゃん!君のエロい画像も撮っておきたいから逃げないでね……まぁ、逃げたら柚子ちゃんがどうなるか……だけどね」
「うう……つばきちゃん逃げて」
「逃げないよ……柚子ちゃんはわたしが守る!」
「じゃあ、可愛い子ちゃんから水着脱いでくれる?さもないと全部流出しちゃうから!」
「う……デク……デク……デク〜!」
「バカじゃん!デクって何?ヒロアカ?本物のヒーロー呼んでんの!ブフフッ!可愛い〜わ〜君!……じゃあもう俺が直接脱がしてやろうかね!」
「――近付かないで!」
「あ……ああ……つばきちゃん……」
「助けて、デク〜!」
「ブハハハハッ!」
バキッと木の小枝を折り、バキバキッとその小枝をさらにへし折っていく。
「ハッ……?」
「俺も大概クソ野郎だが、お前みたいなクズ野郎がいると俺が可愛いく見えるんだろうな。今からお前に制裁を下すわけだが、手加減はいらないな……なんせ俺は正義のヒーローじゃなくて、悪魔のような方法しか思いつかないんだから……」
「「デク〜!」デッくん!」
「お……お前……さっきの……どうしてここが!?」
「はぁ……バカだろお前!スマホの電源入ってたら特定されるの当たり前だろ?衛星がどれだけ飛んでると思ってんだ。えっと……大学3年ってことは二十歳超えてるのか、じゃあ刑務者だな。最悪十年以下の懲役か……終わったな白髪くん……もう染めなくても出所したら白髪かもね」
「は?……はぁ〜!?刑務者ってなんだ?オレはなんもやってねぇよ!証拠もねぇのに何言ってんだ?」
「証拠は自分で持ってんじゃん!スマホ……いろいろ入ってるんだろ?証拠が?」
「こんなん処分すればいいだけじゃねぇか!?テメェがバカだ!こんなもん海に投げれば一発で終わりなんだよ!」
「じゃあ投げれば?強制わいせつ罪に脅迫罪の証拠が入ってるんだろ?早く捨てないと捕まるぞ!警察は呼んでるんだから!」
ウゥゥ!とサイレンが鳴り響く!
「――ハァ!ハ……ハハハハ……ブハハッ!」
アホみたいに笑う白髪くんはサイレンを聴いて気が狂ったように自らのスマホを海に投げ込んだ!
「あちゃー」
「ブハハッ!これで俺がやったことの証拠なんてないぞ!」
「瑠花……撮影出来たか?」
「はい!直接服を脱がせてやろうかね……のあたりから全部撮れていますよ!高画質で!」
「……ハ?……なんだと?……」
「バカの相手は楽だ。本当はボコボコにしたいところだが、それじゃヌルい……アンタには社会的に死んでもらう。犠牲者を増やさない為にもな」
「……ハ?……ハ?」
「理解出来てないようだ……自分のスマホを処分したこと自体が自供なんだよ!まぁ、自分でも喋ってたしね……あ……お迎え来たから」
「……ハ?……ハ?……ハァ!?」
「通報があったのはここですか?」
二人組の警官が海沿いでも道路沿いでもある林に入って来た。ここは人が簡単に隠れることが出来る場所。
道路からも見えにくく通常なら分からない……が瑠花のアプリがあれば一発だ。警官に身柄を引き渡し、動画も送った。
後日、聴取があるとの事だがもちろん俺が引き受ける。
この男は俺が責任持って地獄に突き落とすことにする。
[一件落着]
つばきにメールを送る。
[さ・す・が!(ㆀ˘・з・˘)♡ ]
あ……うん……これがさっきのキスの続きか……だよね……くっ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます