素直に自分の気持ちを伝えるだけ
例えば、愛しいと思える女の子と二人っきりの時間があり、その子は薄い生地のガウンだけを羽織り、女の子座りで目の前にいる。
さらに例えば、その子が自分の胸に手を押し当ててくれている。
さらに、さらに例えば、押し当てられた俺の手を、その子が両手で包み込んでくれたら……
恥ずかしそうに俯いたら……
大賢者であろうが。シャーマンキングであろうが、理性崩壊するよね?するのが当たり前だよね?俺はねぇ……
ぶっ飛んでた……
気付いたら抱きしめてた……
薄いガウン越しに伝わる体温と柔らかい感触。右肩にあやめの呼吸を感じ……バチバチと窓を打つ雨音が胸の鼓動を早めていく。
彼女の華奢な手が俺の背中を温めて、溢れ出す感情が抱きしめるチカラを強くする。
苦しかったのか……モゾモゾと動くあやめの吐息が、俺の首筋を刺激して、彼女の唇がすぐそこにあるのだと気付かせた。
キスしたい……押し寄せる感情に身を任せてそう呟いた……気がした。が……きっと言葉にはなっていない。
でも伝わっている……そう思い、目を合わせる。
「わたしでもいいの?」
――え?その言葉に違和感を感じた。でも?……でもってなんだ?……あやめのことが好きだと伝わってないのか?八蓮花宅での添い寝事件を思い出す……
あの日の夜に、あやめは俺の気持ちを聞きたくないと言っていた……そういえば、聞きたくないというのは、おかしい気がする。
都合よく考えれば、俺が別の誰かを好きだとあやめに伝えようとしていた、と勘違いしていたから?……だが、なぜ?……
もっと遡り、蒼穹祭の後夜祭で神代へ告げた言葉。
『あれだ……あの……俺は……今日一緒にいた子が好きなんだ!』
あやめはそれを聞いていた?
だとすれば、誤解を解かなければならない。もう迷う必要もない。
素直に自分の気持ちを伝えるだけだ!
「デク……?」
囁く声は、俺の言葉を待つように健気で儚い。
ゴォ〜というドライヤーの音でビクッとお互いの肩が強張る。ゴロゴロと浴室のスライド扉が開く音で、反射的にベッドへダイブする俺。
ひょこっと顔だけ出して部屋を確認するつばきは「あぁ!ユキタカくん寝てない!?」と、うつ伏せの俺に声をかける。
「あやめ!髪乾かして〜」
「う、うん……ってなんでそんな格好!?まだパンツしか履いてないやん!」
「だってぇ暑いし〜」
「デクおるんよ!」
「ちゃんとガウン羽織って出るって!」
「ブラもして!」
つ、つばきさん……どんな格好してるんですか?相変わらず大胆ですね。気になるけど、このまま寝たフリをしておこう。
思わずダイブしてベッドに俺の臭いをつけてしまった……申し訳ないと思いつつも冷たくて気持ちのいいベッドから離れられない……。
「もぉ〜つばき!乾かしてあげてるのにくっ付かんで!」
「ん?あやめからユキタカくんのニオイがする!」
ドキッ!そんなバカな……俺ってそんなに臭う?
「な、何言っとうと!?わ、わたしたち同じソープで洗っとるんよ!当たり前っちゃ!」
セカン……方言連発で余計に怪しいぞ……でも可愛いな。
「そっか、そうだよね!まさかユキタカくんが襲ったりしないもんね!」
ドキッ!ちょっと襲いました……反省してます。
「デクがそんなことするわけないし!」
セカン……うう……ありがとう。
バチバチと止まない雨の音、キャッキャッと可愛いらしい声……ゴォ〜というドライヤーの音をベッドで聴きながら時刻を確認すると17時、まだこんな時間なんだと思い、目を閉じて、たくさんの音を聴く。
雨はそんなに嫌いじゃない。出掛けるときは憂鬱になるが、部屋にいるとそこだけが隔絶された空間だと錯覚して安心する。そんな風に思うのは俺だけだろうか……しかも聴こえてくるのは幸せそうな二人の声……隔絶された世界に響く綺麗な音……俺はずっとこんな音を聴いていたい。
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「でねでね!ユキタカくんがドヤ顔で、{ククク、計算違いか?}って!」
「ププッ……何それ!デクの真似?」
「ふふ、似てるでしょ……あっ、目が覚めたみたい!」
「あ、うるさかったかなぁ……」
もう一つのベッドをぼんやり見てみると、つばきとセカンが仲良く寄り添ってこっちを見ている。俺は少し眠ってしまっていたようだ。
ニコニコと、とんでもなく可愛い笑顔を向けられた俺は、目のやり場に困り時計を確認する。20時と表示されているのを見て飛び起きた。
「わ、悪い……いつの間にか寝てた」
「全然いいよ、二人で寝顔を見てたから」
「つ、つばきがね!わたしは別に……」
「お腹空いただろ?買ってきたやつを温めるから、少し待ってろ」
「ふふ、ユキタカくんはいい旦那さんになりそう」
「だだだ、旦那さんって!も、もうそんなこと考えてるの!?」
「――ふふふ、別に私たちのってことじゃないよ。まぁ、それでもいいけどぉ……ねぇ、ユキタカくん」
「――う!違っ……別にわたしは……」
「ああ、そうだな」
「「――え!?」!?」
「……って悪い……寝起きでぼぉ〜としてた。何がいいって?」
「ちょっとユキタカくん!びっくりするから適当に答えないでよ!」
「そ、そうっちゃ!つばきが変なこと言うから……」
「変なこと?」
「私たちと結婚したらってことだよ!」
「――!ハハ、そんなこと出来たら幸せだろうな!だが、その前に歳三さんに斬殺されるから…………ん?」
「………………………………」
「…………………………デク」
「あれ?……なんか、おかしいこと言ったか?」
「デク!つばきの意識が!」
「は?なぜそうなる」
「だってデクがデレたりするから!」
「デレてないわ!」
「つばき!つばき!」
「目を覚ませ!つばき」
「……う……呪いを……王子のキスで……」
「デク!つばきがキスしてって!」
「アホか!早く起きろ!飯食うぞ!」
「……う……準備出来たら教えて……ガクッ……」
「……まったく……ぐーたらかよ」
「ププッ……つばきはデクにしかこんなことしないよ」
「そうか?お前にもしてるだろ」
「あ……たしかに」
「まぁ、とりあえず準備するから、つばき見ておいてくれ」
「うん!」
「……どうした?ニヤニヤして」
「だって楽しいもん!ずっとこうやって三人でいたいなぁ……なんて!」
「……だな」
素直に自分の気持ちを伝えるだけ……か。自己中心的に考えていた……伝えるべきではなさそうだ。
俺にとって一番大事なのは、この子たちの笑顔なんだから……。
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朝は俺が一番に目が覚めた。時刻は午前6時。夕方に寝ていたというのもあるが、同じ部屋に女の子が寝ているとあれば熟睡は出来ない。
結局、俺がダイブしたベッドには、そのまま俺が寝て、二人は同じベッドに仲良く寝ている。昨日は遅くまでトランプをして遊んだからな。ギリギリまで寝かせておこう。
起こさないように静かにシャワーへ向かう。俺は基本的に朝にもシャワーを浴びたい派だ。綺麗好きというほどでもないが、リセットしないとなんとなく一日が始まらない……それだけだ。
軽くシャワーを浴び、半裸で髪を乾かしているとノック音がする。しまった!起こしてしまったようだ。
「悪い、うるさかったか?」
「デク……トイレ」
「わかった!すぐ出るからちょっと待ってろ!」
このホテルはユニットバスで風呂とトイレが一緒だ。誰かがシャワーを浴びるとトイレは使えない。服を着ようと思っていたが時間が無いのでガウンを羽織り浴室の鍵を開ける。
ゴロゴロと扉を開けると目の前にセカンが立っている。寝ぼけた様子で……って!
「お、お前!前、
「ほへぇ?」
「アホか、寝ぼけ過ぎだ!」
ボケっと突っ立っているセカンのガウンは、ボタン一つでなんとか踏みとどまっている状態だ……白いレースの下着がチラチラと視界に入る……ボケボケしているセカンが一向に隠そうとしないので、恥ずかしながらボタンを留めてあげる。申し訳ないので片目だけ瞑る……片目は見えてるが、ボタンが見えなくなるので許せ。
「トイレ、トイレ……」
「お、おい!トイレの前にボタンを留めてるから、ちょっと待て!いや、トイレの前はボタンを外すのが正解か?……まぁいい、とりあえず留めるぞ」
「トイレ、トイレ……」
「よし!出来た!……ちょっと待ってろ、音が気になるだろうから、シャワーを出しておくぞ。出る時にシャワー止めてこいよ」
「ふぁい……」
ふぅ……寝ぼすけセカンの世話は大変だ。朝から刺激が強いので勘弁してほしい。
――!ってベッドのつばきがパンツ丸出しだと!
セカンが起き上がったことで、ベッドのショーツがめくれて、あられもない姿に!薄紫色のお尻がこっちを見ている!いや、見ているのは俺か……。
なんてこった……一難去ってまた一難!起こさないようにショーツを整えて……ん?
薄紫色のパンツ?……
こ……これは……セカン!
ということは!さっきの寝ぼすけは……!
「つばきか!?」
「ふふふ、ユキタカくんは、あやめにはあんなに優しいんだ。気も利くし、紳士だし」
「――!入れ替わっていた……だと!?」
「私のあやめはどうだった?」
勝ち誇ったように俺を見るつばき……その佇まいはまるでハリウッド女優のように美しく気高い。
つばきがセカンの真似をしたところを初めて見たが、完全に騙された……セカンはどこにいても分かるが、つばきは別格……まったく違和感がない。この能力が八蓮花つばきの真骨頂だろう。
観察力……あやめへの愛もあるだろうが、頭のいい人間は観察力が凄まじい。これまでのつばきのスペックの高さには、そういった能力が関係しているのだろう。だが……
「ククク、甘いなつばき!完璧にするなら下着も薄紫色に着替えておくんだったな。俺のほうが一瞬早く気付いたぞ!」
「ん?これのこと?」
胸元をガバッと開けて、白いレースのブラジャーを見せつける!「ぐはっ!!」と大ダメージを受けた俺は立っていられずベッドに倒れ込んだ……。
「ふふふ、ユキタカくんのエッチ!」
なんでやねん!と慣れない関西弁でツッコミを入れて終了……昨日の夜から続いたつばきとの戦いは幕を閉じ、俺の完全敗北で終わった。
|
|
[鵠沼くん、昨日は帰り大丈夫だった?]
[
[ヤラしい……]
[しょうがないじゃないですか!]
[ふ〜ん……]
[いや、それだけですか?]
[あっ!なんか冷たい!可愛い子と一緒にいるから、メール面倒くせぇって思ってるでしょ!]
[そんなことないですよ……はぁ……]
[思ってんじゃん!]
[www]
[私とまた会えて良かった?]
[正直、先生と会うの怖かったです]
[そうだよね]
[でも、それ以上に嬉しかったです]
[うん]
[僕ってけっこう皆に頼られちゃうんで、キツいときは、睦先生を頼ってもいいですか?]
[しょうがないなぁ〜頼ってもらっても構わんよ!鵠沼少年!]
[頼りにしてます]
[君は無理し過ぎるからねぇ]
[今はそうでもないですよ]
[うむ、空白の一年半について今度教えてくれ]
[面倒くせぇ]
[うぉい!]
[www]
[いち教師として、君が好きだよ、鵠沼くん!]
[いち生徒として、あなたが好きです、睦先生!]
[んじゃまた明日メールするわ〜]
[マメだな、おい!]
「デク、今先生とメールしてるでしょ?」
「……よく分かったな」
「だって……すごく優しい顔してるもん」
「そ、そんなことはないぞ」
「エッチだなぁ〜ユキタカくんは〜」
「お前、まだ言ってるのか?」
「え?なになに?なんの話?」
「なんでもないぞ」
「えっとぉ……ユキタカくんが……」
「わぁ〜!何言ってんの、つばきさん」
「私のブラジャー見て……」
「はぁ!?デク、つばきのハダカ見たと!?」
「は、裸じゃなくて下着な……」
「バカデク!下着もハダカっちゃ!」
「それでユキタカくんは立てなくなってぇ〜……」
「わぁ〜バカつばき!こんなところで何言ってんだ!」
「なんで立てんと……?」
「「……」」
三人だけのお出掛けは、トラブル続きの連続だったが、なんとか無事に帰ることが出来そうだ。帰りの新幹線ではバカ騒ぎしていたので、他の乗客から咳払いなどされた。
どちらかというと、俺は咳払いをする側の人間だが、今回はしょうがない……なんせこんなにも麗しい双子姉妹との旅だ。
嫉妬の一つや二つ、甘んじて受け入れよう!
つばきとあやめ……二人に振り回される学校生活はまだまだ続きそうだ。
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「あっ、そうだ!なんでも言うこと聞くやつ決めたよ!」
「……あったなそういえば、そんなこと」
「夏休みの間、期間限定で私たちの彼氏になってもらいます!」
「はいはい、了解しました……って」
「「えぇぇぇぇ!」!」
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ここまで読んでくださりありがとうございます
15万字を超えても書き続けることが出来たのは読者様の応援のおかげです
応援コメントしてくださった読者様、レビューをしてくださった読者様、とても励みになりました
本当にありがとうございます(๑˃̵ᴗ˂̵)✨
これから、第三部「夏休み編」がスタートします
毎日更新を心掛けますが、もしかすると、体調などの不良により出来ないことがあるかもしれません
(>人<;)
心折れずに頑張りたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします
少しでも面白いと思っていただけたら♡や応援コメントをしてくれると嬉しいです
☆でのレビュー評価をしてもらえると、もっと励みになります!よろしくお願いします✨
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