クラスマッチ開幕
クラスマッチまでのたった一週間で出来ることなんて限られている。放課後の1時間の練習、計7時間しかない状態でど素人に何をさせるか。
各チームに経験者を入れて各競技のスキルを一つだけ徹底的にさせる。それ以外は捨てる。
例えば、バスケならディフェンスは経験がものをいうので、ど素人はそれを捨てる。どうせ相手も素人だ、たいしてディフェンスしなくてもそうは入らない。
それよりもオフェンスだ。2人の経験者をフリーにするためのスクリーンを覚えさせる、これだけ。
限られた練習期間に俺の作戦を徹底させるための副リーダー神代だ。
俺の言う事なんか聞かない連中もまとめてくれる。時折り、俺だけに見せるキラキラスマイルに戸惑いつつもなんとか形になっていった。
そんなこんなで、クラスマッチが開幕する。
「ハァ……ハァ」「……勝ったね」「危なかったね」「やった!私たち強いやん!」
女子バスケのチームはなんとか勝ち進んでいる……がここからだな。
「次が準決勝だな。次の対戦相手だが、6番、7番、8番は無視でいい……4番と5番がボール持ったらダブルチームで囲め、手は出さなくていい……ファウルになるからな」
「ちょっと、少しは褒めなさいよぉ!ウチらめっちゃ頑張ってるのに」
このチームを引っ張るのは神代への想いが強い
「神代からの伝言だ。『野原さん、頑張って!君がチームを引っ張るんだ!』だそうだ」
「――神代くんが!?キャ〜ヤバい、ヤバい!……ヨシ!みんな勝つよ!」
「「「うん!」」」
と、簡単にモチベを上げることが出来る。神代はそんなこと一言も言ってないが、まぁ大丈夫だろう。愛のチカラは凄まじい。
続いて、男女混合ソフトボールだ。野球も素人はヒドい……はっきり言って足手まといまである。つまりそれは相手も一緒だ。
守備の要は内野に置かれ、マトモな経験者はどこもショートとキャッチャーくらいだな……そして外野は穴だらけ……ということで、打順の1〜3番に経験者を置いてなるべく打順が多く回るようにする。
とにかく、外野フライを打つ練習だけをした。
見事的中で相手チームはエラーラッシュ。外野フライ作戦成功。
クラスマッチということもあり3回裏までしか無いのも良かった。対策される前に終わらせることが出来る。
「おい、デク!こんな手を使う必要ねぇぞ!なぁ亀山!」
「楽勝だ!俺ら、もともとリトルリーグやったし、杉下と組めば余裕〜」
コイツらは、このあたりで気が抜けると思っていた……だからあえてショートとセカンドにポジションを置いたが……ここからは……。
「次の試合から3年生と当たるようだ……やっと秘密兵器の出番だな」
「「秘密兵器!?」」
「次の試合から杉下と亀山……お前らがバッテリーだ!このチームのエースとして登場してくれ」
「「バッテリー!」エース!」
「よ、よぉ〜し!やってやるぜ!」
「俺たちが組めば敵はいねぇ〜!俺らに任せろ、デク!」
ふぅ……単純なヤツらだ。普段から2軍以下のヤツらは「秘密兵器」「エース」という言葉に弱い。しかも花形のバッテリー……扱いやすくて好感がもてる。
男女混合ビーチボールバレーは作戦通りサーブが効いている。ビーチボールということで経験者でなければレシーブ、トス、スパイク……すべての技術が慣れていない……うちは、ほぼサーブしか練習していない。
だがピンポイントで狙うことでサービスエースを獲得できる。サーブミスほど無駄な失点は無いしな……問題無く勝ち進んでいる。ここは助言の必要は無さそうだな。
「も、守日出くん!」
ビーチボールバレーの主力、
「どうした?」
「あ……あの……みんなは勝ってる?……」
「ああ、男子バスケ以外は順調に勝ち進んでるぞ」
そう、男子バスケは捨てている。一つでも勝てればいい程度にしか考えていない。俺たちが目指すは総合優勝、3つほどタイトル取れば間違いないだろう。
男子バスケは盛り上がる、盛り上がるがゆえに優秀な生徒が集まる。だから、ここを切り捨てて他を補強した。
つまり俺の狙いは、女子バスケ優勝、男女混合ソフトボール3位以上、男女混合ビーチボールバレー優勝、男女混合ダブルス準優勝の2年3組総合優勝だ。
男子バスケは早々に負けている。これを補うタイトルポイントが必要だ。
「わ……私たち勝てるかな?……守日出くん……何かアドバイスとかないかな……?」
豊田は、男女混合ビーチボールバレーがクラスの総合優勝を決める重要な鍵を握っていることを理解している。
プレッシャーか……プレッシャーをバネに出来る人間もいるが、ほとんどの人間が100%のチカラを出せないだろう。
豊田も例外ではない。そして、それは伝染していく……主力である豊田がこうなっては、勝ち進むことは難しいだろう……とくに俺たちの武器はサーブだ。プレッシャーがミスを誘う……ふぅ……仕方がない。
「豊田……負けるのが怖いか?」
「え?……う、うん。守日出くんは怖くないの?みんなの期待を背負ってるけど……」
「クク、俺に皆が期待してる?……それはないな。皆は俺なんかに期待してないよ」
「そ、そんなことないよ……少なくとも私は期待してるもん!こんなに勝てると思ってなかったし……」
「皆がのびのびプレイ出来ているのは、どうしてか分かるか?」
「それは、守日出くんの作戦があるから……やれることが決まってるから」
「たしかにそれもあるが……負けた時の言い訳があるからだ!守日出来高の戦略通りにやって、負けた……自分たちの実力不足じゃない……だから豊田もそう思ってもらっていい」
「そ、そんなこと、絶対思わない!み、みんなだってきっとそうだよ!守日出くんのせいになんかしない!」
「……じゃあ、俺の作戦を信じてくれ。俺に期待なんかしなくていい、ただこの作戦だけを信じて欲しい」
「――!も……守日出……くん」
プレッシャーとなる現実的な問題を忘れさせ、心情に訴えかけるようにする事……やり方は強引だが精神論で訴えかけたほうが豊田にはいいだろう……あと。
「だが、もう豊田たちはベストエイトだ。充分過ぎる成績だぞ。実は奥の手もあるから気負わなくいい」
奥の手なんか無いが、心に余裕を持たせるように嘘をつく。逃げ道を作るとダメな人間もいるが、豊田には効果的なはずだ。
「そ、そっか……奥の手……私たち勝てるかな?他にも作戦とかあったら、う、嬉しいけど……」
不安がなかなか拭えないようだ……。
「豊田、例え負けても誰にも何も言わせないと約束する。これは絶対だ!それが作戦だ」
「――!」
「だから、思いっきりやってこい!」
「は、はい!」
「いや……「はい」って……先生じゃないんだが」
「そ、そうだね……でも守日出くんって、つばきちゃんが言ってた通りの人だね」
「何だそれ」
「優しいって……」
「どこが!勘違いするなよ」
「はい、コーチ」
「はぁ……勘弁してくれ」
残すは男女混合ダブルスのバトミントンだが、もうベスト4とは……ワンチャン優勝いけるか?いや、決勝は
うちは最強の二人を用意している。
ん?……そんなバカな……ど、どういう事だ……。
柔らかく色素の薄い髪をポニーテールに上げ、その綺麗な白い肌にうなじが、うっすらとセクシーに見える「麗しきミス青蘭」……のはずが……。
お前……どうして入れ替わってるんだ!
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